強制送還寸前から、医師に、そして、風に立つライオンに

今日、シカゴ時代の部下だったアフリカ人からメールが届いた。内容を読んで、涙が出るほどうれしかった。

彼との出会いは2013年12月だ。私の研究室の部下が、彼を技術補佐員として採用して欲しいと依頼してきたのを受けての面接だった。私が採用しないと1週間後にはアフリカの母国に強制送還になるという状況であった。

心の中では、強制送還されるような人物を雇用するのは・・・・という気持ちだったが、彼と会い、話をして何とかしたいと強く思った。真剣な眼差し、澄んだ瞳で、「米国で頑張って、医師になり、母国の医療に貢献したい」と訴えかけた。さだまさしさんの「風に立つライオン」に出てくる美しい瞳のアフリカ人を体現していた。

情にもろい私は、彼を採用すると即断し、彼は強制送還を免れた。2年間ほど働いた後、医学部に進学したいと申し出た。もちろんイエスだが、本当に医学部に入学できるのか不安だった。しかし、数か月後、ノースウエスタン大学医学部に入学できることになったと喜色満面で報告してきた。あの笑顔を今でも忘れない。

そして、私がシカゴを去る前、「私が今日あるのは、あなたのお陰だ・・・・・」と手書きで綴った手紙をくれた。読んでいる間に、曇って字が読めなくなった。その彼が、卒業して数年しかたっていないにもかかわらず、アフリカ諸国で放射線診断医を教育する活動に携わっていること、そして、日本にも協力して欲しいとメールを寄こしたのだ。アフリカ諸国で放射線診断を育てようとしている姿に、初対面の彼の言葉に嘘はなかったと感激した。まさに、「風に立つライオン」になろうとしているのだ。嫌なことや頭を下げることばかりで、気持ちが滅入っていたが、何となくさわやかで、自分が誇らしくもある。

私には、国を動かす力はないが、日本はこんな地道な活動を支えてこそ、国の将来があると思っている。札束で相手をひれ伏すような国ではなく、人の心を動かすような国になって欲しいと願っている。明日の1億円を欲しがる国ではなく、10年後20年後に日本という国と共に歩みたいと相手が言ってくれるようなそんな国であって欲しい。

防衛費も大事だろうが、人の心に突き刺さるような支援はもっと大切だと思う。