ユタ州と米国FDAの対立

4月1日のScience誌NEWS欄に「Utah flouts FDA with law greenlighting placental stem cell therapies”という記事が出ている。「flout」は「あざける」「馬鹿にして従わない」など強い意味があり、ユタ州が、米国FDAを無視して、胎盤から取り出した幹細胞を利用した治療にゴーサインを出したという内容だ。

 

ユタ州の上下院は、米国FDAが承認していない「胎盤から取り出した幹細胞を利用する細胞療法」を、州法で可としたのだ。しかも、このような治療法を提供できる人は、医師に限らず、薬剤師、看護師など多業種の人が提供できるというから驚きだ。

 

日本でも白血病治療として、臍帯血輸血を行うことが可能だが、胎盤や臍帯には多くの幹細胞が存在しており、増殖力が高く、それらが肝臓、すい臓、心臓、軟骨、骨、血管、血液、筋肉などに分化することが報告されている。動物実験でも、心筋梗塞や創傷の治療に利用可能であることが示唆されている。しかも、胎盤から取り出した幹細胞は強い免疫反応を起こさないようだ?

 

胎盤の重量は平均約500グラムであるし、多くは出産後廃棄されるとのことだ。もちろん、妊婦さんから同意を取れば医学研究用に利用することは可能だ。ただし、市販されているプラセンタ(胎盤のことだ)成分が含まれた化粧品などはどのようにされているのか、私は知らない。

 

ユタ州にはすでに数十の医療機関がこの胎盤幹細胞治療を提供しているとのことだ。もちろん、可能性に期待する声を上げる人がいる一方で、この米国FDAを無視してユタ州の州法で強引に進めようとする動きに、反対する人は多い。当然、効果が証明されているのかどうか疑義を呈する人は少なくない。紅麹ではないが、細胞を調整する過程で、混入物がないかなど、どのように検証していくかに疑問が残る。

 

しかし、心筋梗塞で心筋細胞のダメージが大きい場合など、早急に幹細胞治療をすれば、生存の可能性が広がるかもしれないし、その患者さんにとっては「今」しかない。「安全性を確認してから」と言う言葉は、「ジタバタせずに生きるか死ぬか黙って待て」と言うに等しい。臨床効果を確認する患者数が十分でない希少疾患や時間がない進行がん患者さんに、平然と「効果と安全性の確認を待て」と言う倫理学者は多いが、自分や家族がその立場に置かれても同じ言葉を吐くのかどうか聞いてみたいものだ。

 

健康な人にとっての「利益とリスクバランス」基準と、時間が限られている患者さんたちの「利益とリスクバランス」基準は違うはずだ。こんなことさえまともに議論できないこの国はおかしい。裏金問題は小さい問題ではないが、この国が直面している大きな課題に議論を展開して欲しいと願わざるを得ない。台湾の地震対応など見ていると、この国の政治・行政は何をしているのだろうと思いが強くなる。常に有事を想定している国と、平和ボケが続く国の差と言えばそれまでだが。