日本の将来を担う若手研究者を励ます施策を!

NatureのCareer News欄に「Postdoctoral researchers warn NIH that cost-of-living pressures are gutting the workforce」というタイトルの記事があった。簡単にいうと「ポスドクたちの生活苦が労働意欲を削いでいるとNIHに警告した」と言った感じか?

米国ではポスドク研究者の数が減ってきており、米国NIHがサポートしているポスドク数は2020年から2022年に9.5%減、NSF(国立科学財団)が支援する科学、健康分野のポスドク数は2020年から2021年で、それぞれ4.1%と3.8%減だそうだ。コロナ感染症流行の影響もあったので、この数字が2023年以降に回復するかどうか注視が必要だ。ただし、EUから脱退した英国ではこれほど大きな影響はでていない。 

米国内には約7万人のポスドクがいるそうだが、その平均年俸は49,000ドルで、日本円に換算すると約700万円で高そうに見えるが、ラーメン一杯が(チップも加えると)3000-4000円と伝えられる状況ではそれほど恵まれているとも言えない。NIHのポスドクの年俸は博士号取得直後でも56,484ドルで、全体の平均より100万円以上高いが、同じレベルでも企業では90,000ドルとのことなので、余程アカデミア指向が高くない限り、企業の方が経済的にはるかに魅力的だ。 

問題は、同じ研究室内であっても、どの資金で支援されているかによって、医療保険やチャイルドケアなどの支援が異なっていることだ。海外からのポスドクは条件が恵まれていないと嘆くケースも少なくない。かつては(少し前までも)、生活費を自分で支えるなら研究室に来てもいいなどと、無報酬の労働者として雇用されたケースも多かった。欧米で箔をつけるために遊びに来るようなレベルの研究者もいたので、足元を見られていた。

しかし、これらの状況は 他人事ではなく、最近では、日本に来るアジア人研究者も少なくなってきた。日本に魅力がなくなったのだ。科学立国を掲げつつも、若手研究者に薄給しか手当てできないのが日本の現実だ。若手研究者の独立が必要だと実態を理解しない幻想のような施策が取られ、その結果として、独立した若手研究者は書類と会議に膨大な時間を割いていて、研究どころではなくなった。私生活を犠牲にしなければ成り立たないような制度改悪が、日本でも若手研究者の意欲を削いでいる。研究もわからない、研究者の苦労もわからない役人が、机に座って鉛筆を舐めながら、机上の空論を振り回し、その甘言に乗せられて動く政治家が改悪を後押しして出来上がったのが日本の惨憺たる現状だ。

若手研究者が研究に集中できる環境の整備を真剣に考えないと日本の明日はない。