AIホスピタルプロジェクト(3)

日本の医療のデジタル化は大きく遅れている。その象徴のひとつが、私も体験したワクチン接種券の二重配布である。私は4月中にワクチン接種を受けたが、一カ月以上過ぎた5月に区役所からワクチン接種券が送られてきた。保険証を通して個人情報が紐づけされているはずだが、接種券配布前に情報が共有されていないことが明らかだ。市町村のワクチン接種予約と国によるワクチン接種予約の二重予約も報道されていた。一方の予約取り消しをしてほしいというのはその通りだが、なかなか繋がらない電話をかける気にならないだろう。制度が整備されていないのだから、取り消しに何時間も電話をかけ続けて欲しいという方が間違っている。システムができていないのだから、役所も個々の照合は面倒だ。心配なのは、今後、ワクチン接種証明書が必要となった時にその確認が問題なくできるかどうか心配だ。

マイナンバーカードと保険証、そして、保険証と健診・診療情報がつながれば、ワクチン接種はもっとスムースにできたはずである。台湾では、台中の病院で受けた検査情報を、台北の病院で共有することが可能なので、重複検査は不要である。国民の健康と命を守るためには、大震災があっても、大水害があっても、旅先や出張先で体調に異変が生じても、個人個人の診療情報を即座に知ることが必要だ。そうすれば、救える命を救える可能性が高まる。東日本大震災時の体験をまったく生かそうとしない国の姿勢は大いに疑問である。ただし、これは自民党だけの責任ではなく、旧民主党政権の罪も大きい。

そして、救急搬送先を探すために、救急隊員が病院に電話をかけ続けるなど、昭和のシステムから進歩がない。私が救急医をしていた40年以上前と何ら変わりがない。救急処置中に電話がかかってくるのも煩わしかった。一刻を争う処置をしている時に無神経にかかってきた新聞社やテレビ局も面倒だった。今なら、広報室が対応してくれるだろうが、処置室に電話がかかってきたものだ。

この救急時の連携については、救急車は総務省、 病院は厚生労働省という縦割りの弊害が、一本化したシステム構築を阻んでいる。救急車内で得られる種々の情報が、患者さんが病院に到着する前にリアルタイムで病院で待っている救急医に届けられれば、治療がわずかでも円滑に進められるはずだ。今の体制では助けられない患者さんを助けることができる可能性も高まる。

大病院では、病室や手術室は診療科単位ごとに割り振られているので、なかなか柔軟な運用ができない。また、共通に利用できる診断機器類も、診療科単位になっていると効率的な利用ができない。診察室も、午後遅くになっても多くの患者さんが待っている診療科がある一方、他の診療科ではすでに診療が終わっていることも少なくない。このような課題は、AIといった高度なものではなく、簡単な交通管理システムのようなを応用すれば解決できそうな課題である。日本の課題は、縦割りとそれに付随する大小の利権・権益といっても過言ではない。

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