老化を抑えるタンパク質がボケ症状を改善?!

Nature Aging誌に「Longevity factor klotho enhances cognition in aged nonhuman primates」というタイトルの論文が出ている。「長生きに関係するklothoは霊長類の認知機能を高める」となる。このklothoという因子は、1997年に鍋島陽一先生(京都大学名誉教授)のグループが発見したものだ。この遺伝子に異常が起こると、老化現象が早く起こるし、老化に伴ってklothoの発現が減少するので、長寿につながる遺伝子として、発表当時はかなりセンセーショナルに取り上げられた。

鍋島先生は、私が赴任する前に、癌研究所生化学部の主任研究員をされていたので、私にとっては先輩に当たる方だ。学会などで会うたびに声をかけていただいたことを感謝している。Klothoと老化(長寿)の研究は脈々と続けられていたのだが、今回は、私も気になっている記憶力の改善につながるというタイトルを見てかなり気になった。

Natureの7月4日のNews欄にも「Anti-ageing protein injection boosts monkeys’ memories」と、取り上げられている。サルに対する実験の詳細は省くが、高齢のサルがおやつを置いた場所を記憶できている率を調べたものだ。人間では「歳をとると駐車場のどこに車を停めたのかを忘れるようになるが(最近は他人事ではないので感覚的によくわかる)、それがどの程度改善されるのか」を調べる形で行われた。Klothoを注射すると10回に5-6回覚えていなかったのが、それが4回程度に減るそうだ。血糖値の違いで、日々の記憶力の違いを実感しているので、それがどの程度意味があるのかよくわからないが?アルツハイマー病患者でも、Klothoの値が高い人は症状が軽いと報告されているそうだ。

ただし、klothoタンパクは脳血流関門を通らないので(血管を通過して、脳の細胞に届くことはない)、注射したklothoタンパクが直接脳神経細胞に作用しているのではなさそうだ。Klothoには膜型(細胞膜に結合している分子)と分泌型(細胞膜に結合していない細胞外に分泌されるタイプ)の存在、分泌型でも複数のタイプがあることが報告されているので、分解されたものが脳内に入って作用している可能性や他の因子に作用して2次的に効いている可能性などが考えられている。

いずれにしても、この研究が再現して確認されれば、物忘れというやっかいな老化現象の改善に希望の光となる。1回の注射で2週間程度の症状改善につながるようなので、早く人での評価が進むことを期待したい。もちろん、私を含めた高齢者の記憶力改善につながって欲しいものだ。