サル不足に付け込んだ野生猿のロンダリング

日本は相も変わらず、国際的な情勢に無関心である。おおよそ80年前に焦土と化した過去を忘れ、ウクライナ問題などもはや忘れ去られている。国民や領土を守るための基本事項、たとえば、実験動物、とくにサルの確保には何ら手を打っていない。

11月16日のNature誌のNews欄に、「How wild monkeys ‘laundered’ for science could undermine research」という論文が掲載されている。マネーロンダリングは、違法手段で稼いだ金をきれいなお金に換えて使うことを指す。先日見たアメリカのドラマでは、ギャングが違法に得た金を、弱みを握った高齢者に渡し、カジノで負けさせて、カジノからの真っ当な収入に見せかけようとした場面があった。この論文では、本来捕獲してはいけない野生猿を捕まえて、実験用に飼育されたサルと偽って輸出をしていたために医学研究にいろいろな問題が生じていることを報告したものだ。

まずは、輸入業者から20頭のサルを輸入したが、1頭が結核菌に感染していたことが発覚し、すべてが利用できなくなった研究者の訴えから始まる。コロナ感染症流行前は1頭7500米ドルであったサルが、55000ドルに急騰している。何と7倍以上だ。円安を考慮すると日本円では約10倍の1頭約800万になっている。上記の研究者のように20頭利用しようとするとサルの購入価格だけでも1億5000万円も必要となる。

世界的なサルの供給不足の最大の理由は中国がコロナ感染症流行後輸出を止めたことにある。サルに限らず、抗生物質や解熱鎮痛剤も、輸出に頼っていた影響で不足気味だ。ただし、後発品製造メーカーでの不正の発覚で生産能力が低下していることも一因だ。

これだけ高く売れるなら、悪の尽きない世の中だから、野生猿を捕獲して一攫千金を企む人が出てきても当然だ。しかし、2022年11月にはカンボジアで野生猿を捕獲して、飼育サルと由来を偽って米国に輸出したことが発覚して、6人が逮捕されている。2018年にはカンボジアから約1万頭のサルが輸出されていたが、2019年と2020年の2年間で約3万頭が輸出されたそうだ。飼育しているサルの数を考えると年間で5000頭も輸出数が増えるはずがないことから発覚したらしい。「天網恢恢疎にして漏らさず」ではなく、「頭隠して尻隠さず」レベルのお粗末なやり方だ。

当然、飼育されたサルとは異なり、野生猿は感染症などに罹患している可能性もあり、育った環境などで、免疫状態も不均一だ。再現性のある信頼できるデータの取得は、医薬品、特に感染症ワクチンなどの開発には不可欠だ。やっていいこと、悪いことがわからない人が多くなると、不正の連鎖が止まらない。