医師の暴言や暴力が企業より深刻?!;記事のタイトルに喝だ!

共同通信に「医師の暴言や暴力、横行 パワハラ、企業より深刻か」というタイトルのニュースが掲載されていた。日本小児外科学会に所属する医師に対するアンケート結果で約280名が回答したそうだ。内容としては、暴言が89%、差別的な発言71%、暴力行為が65%、情報遮断(仲間外れ)59%、休暇中の出勤強制50%、理不尽な人事49%、飲み会の強制48%と続く。

 

メディアは何を主張したいのかわからないが、子供の命を預かっている外科医がミスをすれば人の命に関わるのだ。記事に「専門家は病院は上に逆らえない風潮が強く、ハラスメントへの意識が企業に比べて低いことが影響していると指摘する。」とあった。何の専門家か知らないが、適当なことを言うなと思う。部下が間違っていたり、トロトロとしていれば、どやしつけて何が悪いのだと、私のような昭和人間は思わずにいられない。自分の子供の主治医が厳しく教育されておらず、しっかりとしていなければ、子供の命を危険にさらすのに、何を寝ぼけたことを言っているのだろう。これをパワハラ意識が低いの一言で評価しようとするメディアの小児外科医という職業に対する無理解さに鳥肌が立つ。

 

私も大阪府立病院に勤務している時に、研修医の胸倉をつかんでつるし上げたことがある。当直明けで昼間に深く眠り込んでいたところ、看護師さんが飛び込んできて「・・先生を止めてください」と叫んだので、一目散に病棟にかけつけたところ、信じられない光景が目に飛び込んできた。小さな子供の熱傷患者の鎖骨下静脈に、研修医がカテーテルを入れようとしていた。何とすでに複数の大きな針穴が開いていた。経験したことのない医療行為を指導医もいない中で試みていたのだ。ひとつ間違うと大出血や肺に穴が開くので、技術力が必要な医療行為だった。体の半分以上に火傷を負っていた重篤な小児患者に、未経験の医療行為をしていたので、看護師さんが信頼のある私に助けを求めに来たのだ(といっても1年しか差がないのだ。一人自慢の褒めてなしだ)。もし、合併症が起こっていれば、言葉通り、命に関わることだった。

 

即座に「アホか!すぐにやめろ!」とどやしつけ、胸倉をつかんで「何を考えているんや!ここから出ていけ」と大阪弁でまくし立てた。私は医師として、患者を実験対象のようにしているとしか思えないこの医師の行為に、怒り心頭であったが、何も事情を知らなければ、周りは暴言・暴行に見えるだろうし、本人はパワハラと受け止めていたのかもしれない。手術中にもたもたしていても命に関わるので、瞬時に注意する必要があるし、当然言葉は荒くなる。

 

一人前の外科医、特に小児外科医になるためには覚悟が必要だ。記事の数字を見て、ミスをすれば命に関わる職業に携わっている人間として、覚悟や緊張感が足らないのではと思ってしまった。この職業を選んだ時点で、休暇中に呼び出されるくらいの覚悟をしていなくでどうするのだ。警察官、自衛官、消防士も緊急事態では休みなく働いでいるのだ。記事のミスリードかもしれないが、企業よりパワハラが深刻だと伝えている、近視眼的な記事のタイトルに喝だ!誤植や変換ミスは訂正すれば済むだろうが、小児患者相手のミスは「ごめんなさい」では済まないこともある。「このタイトルこそ、何を考えているんや。アホか」と言いたい。

「こんなブラックな環境でも、使命感に燃えて頑張っている」くらい書けないででどうする!