AIは方言から人種差別をする?

3月13日号のNature誌に「Chatbot AI makes racist judgements on the basis of dialect」というタイトルの記事が出ている。直訳すると「チャットボットAIが方言(なまり)に基づいて人種差別的な判断をする」となる。 

最近、LLM(Large Language Model=大規模言語モデル)という言葉がよくつかわれるが、この大規模なモデルと高速コンピュータによって、生成AIはこれまでよりももっと円滑にチャットなどの会話が可能となってきた。オープンAI社のChat-GPTやグーグル社のBertなどがこれらの代表例だ。 

しかし、今回のNature誌で指摘されたのは、このようなAIが人種差別的な反応をする可能性がある点だ。大規模なデータが集積され、計算速度も速くなったため、コンピュータが瞬時に判断することが可能になったのだが、その大規模データにバイアスがあれば、当然ながら、偏った判断をしてしまう。 

かつて、ナチに賛同する対応をしたり、アフリカ系の人の顔写真にゴリラと判定したケースなど、AIが好ましくない反応をしたことが報告されていたが、集まったデータに偏りがあれば、間違った答えを導くことになってしまう。問題点の指摘によって、修正されていくとは思うが、意図的に悪意を持ってデータを操作する危険は残るのだ。日本は相も変わらず、どうなっているのか暗闇の中だ。 

キックバックの問題も、和歌山県連の馬鹿な会合問題も重要だが、政治が機能しなければ、行政も機能しない。もっと国として議論すべき大きな問題が置き去りにされている。何をしているのか、この国は?

 

鳥が何羽見えるかな?



 

CAR-T細胞を自己免疫性疾患に応用!?

最近は忙しすぎて、論文を読む時間もブログを書く時間が不足している。さらに、花粉症か寒冷アレルギーなのかわからないが、朝出かける際や夜遅く歩いていると、突然呼吸困難に陥っている。胸が苦しくなると、キラキラと眩しく感じ、めまいが襲ってくる。1-2分休むと回復するし、朝の気温が5度以上の場合には何も異変は起こらない。

これまで花粉症も起こったことがないので、不思議だ。ChatGPTに病名候補をあげてもらうと下記のような回答があった。

(質問)寒い朝に呼吸困難で胸が苦しくなり、目が眩く、めまいがします。1-2分静かにしていると収まりますが、どんな病気が考えられますが?

ChatGPT

寒い朝に呼吸困難や胸の苦しさ、目の眩みやめまいを感じる場合、いくつかの原因が考えられますが、特定の病気を診断することはオンライン上では難しく、医療専門家による評価が必要です。しかし、一般的に以下のような状態が考えられます:

  1. 喘息:
  2. 心臓疾患:
  3. 貧血:
  4. 低血圧:
  5. パニック障害や不安障害:

とあり、お決まりのように「このような症状が続く場合は、医療機関を受診し、適切な検査と診断を受けることが重要です。自己診断やインターネットでの情報に頼るのではなく、専門家の意見を求めてください。」と続く。残念ながら、寒冷アレルギーは出てこないし、2は否定はできないが、他は考えにくいし、5などであれば、周りの人が腰を抜かすだろう。

標題の話題に戻ると、2月22日のNatureに「CAR-T therapy for multiple sclerosis enters US trial for first time」と言う記事が掲載されていた。CAR-T細胞はB細胞由来のリンパ腫や白血病で劇的な効果を示すことが知られている。B細胞を認識できる抗体とTリンパ球を活性化する部分を繋ぎ合わせて、抗体部分でB細胞を捕まえてT細胞がB細胞を殺す仕組み(キメラ様に遺伝子を組み合わせたことからChimeric Antigen Receptor: CAR)を利用した治療法だ。がん細胞特異的な治療法と言っている医師も少なくないが、正常なB細胞を含めてB細胞を攻撃する。したがって、治療後にB細胞が非常に少なくなったり、無くなってしまうこともある。

自己免疫疾患は自分の細胞に反応する抗体が産生されている場合が多く、自分で自分の細胞を攻撃することによって種々の病気が起こっている。抗体によって、攻撃する細胞が異なるので、自己免疫病と言っても、いろいろな臓器に症状が出現する。その自己免疫病のひとつである多発性硬化症(Multiple Sclerosis)という病気に対して、抗体を作るB細胞をやっつけて改善を図る臨床試験が米国で始まるのだ。

もちろん副作用のリスクはあるが、治療法のない重篤な自己免疫病に対しての新たな灯となる可能性は大きい。現在利用されているCAR-T細胞の治療費は約500、000ドル(約7500万円)なので、効果が確認されると医療経済的なインパクトは大きい。

またまた、どうする日本だ!

PS:多発性硬化症についてのChatGPTによる説明

多発性硬化症(MS:Multiple Sclerosis)は、中枢神経系(脳と脊髄)に影響を与える病気です。自己免疫性の疾患であり、身体の免疫システムが誤って健康な神経組織を攻撃してしまいます。これにより、神経細胞を覆っている保護膜であるミエリン鞘が損傷し、神経線維の炎症や傷害を引き起こします。これが神経信号の伝達障害を生じ、さまざまな身体的及び認知的症状を引き起こす原因となります。

症状

多発性硬化症の症状は人によって大きく異なり、症状の種類や重さも様々です。一般的な症状には以下のようなものがあります:

  • 視力の問題
  • 筋力の弱さ
  • 疲労感
  • 歩行困難
  • 痺れや感覚の低下
  • 調整障害や不安定な歩行
  • 認知機能の低下
  • ムード変動やうつ病







「働き方改革」よりも「働きがいのある改革」を

韓国政府、現場離脱した研修医の免許停止手続きに突入という記事が出ていた。

医学部の定員増(約3000人から5000人)を引き金とする研修医の退職騒ぎが収拾せず、韓国政府が約7000人の医師免許停止手続きを進める強硬手段をとるところまで事態が切迫している。医師数の不足を解消するために定員増にした結果、現在の2年分以上の医師免許の停止に至るのはどう考えても理屈に合わない。医師の意地と政府の面子の張り合いだ。

医学部の定員を1.6倍以上に増やすのも驚き、研修医の退職騒動も驚き、医師免許の停止も驚きだ。研修医が何を守ろうとして退職しようとしているのかも疑問だ。研修医側は「医療は研修医の犠牲の上に成り立っている」と主張しているのももっと不思議だ。そもそも誰のために働いているのだろうか?そして、犠牲を強いられているのなら、医師数を増やせば負担が減るはずだが、「自分は大きな犠牲を払っているのに、後輩は楽をするの」が不満なのだろうか?

そもそも、医師を目指すのなら、単なるサラリーマンではないという覚悟が必要だと思う。使命感をもって医師を目指しているなら、若い時の苦労は「買ってでもする」気持ちが不可欠だ。昭和の考えだと言われようが、単に偏差値が高かったので医師になった人が増えれば、他の医療従事者も患者さんにも不幸は広がるのは言うまでもない。

医師という職業の使命感がなければ、医療の質は低下する。「働き方改革」よりも「働きがいのある改革」を進めて欲しいものだ。

 

サル不足に鈍感な国;これでいいのか日本は?!

2月23日のScience誌に「Giant monkey facility could ease U.S. shortage」というタイトルの記事が出ている。米国ジョージア州の人口14,000人の街に、30,000頭のサルを飼育する施設を造り、米国のサル不足を解消する計画を紹介している。コロナウイルス感染症流行前後で研究用に利用するサルの価格が1頭7千ドルから2万ドルに高騰したという(日本で聞く話では1頭70万円から500万円になった)。

米国では年間70,000頭のサルを研究用に利用していたが、その半分以上が中国からの輸入であった。しかし、コロナ感染症流行後の2020年以降、中国がサルを輸出しなくなったため、全世界的にサルが不足し、価格が高騰したのだ。研究や薬剤開発に利用するサルを減らす動きはあるものの、現時点においてゼロにするのは無理である。再び、感染症の流行が起こった時の備えとしても、一定数のサルを維持しておくことは国家的な危機管理対策として、絶対的に必要なことだ。

国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所には霊長類研究センターと薬用植物センターがあり、前者は約2000頭のカニクイザル、後者は3000-4000種類の薬用植物の種子を維持している。恥ずかしながら、理事長に着任するまでは、このような日本の医学研究の根幹を成す重要施設があることは知らなかった。

日本の国家安全保障の常識的な観点で考えると、90%を輸入に頼る薬用植物の維持管理や感染症対策やバイオテロ対策としてサルの維持管理は不可欠だ。特に病原性のある細菌やウイルスにさらされない環境で飼育されているサルは、新規感染症対策として極めて重要だ。米国の危機意識が現れているのが、冒頭の「町を挙げてサルの飼育する施設」の話だ。もちろん、動物愛護の観点で反対する声もある。

この国には、先のコロナ感染症流行で目にしたように、国を守るためにという十分な危機意識がない。だからPCR検査の備えもなかった。防衛装備だけで国を守ることができると思ったら大きな間違いだ。永田町にも霞が関にも科学的なリテラシーが決定的に欠如している。どうする日本は!





 

韓国で研修医の4分の1が集団退職?

韓国の聯合ニュースによると「韓国各地の病院で19日、政府が発表した大学医学部の入学定員増に反発する専攻医(研修医)が退職届を提出したり、その一部が実際に医療現場を離脱し始めたりしている。」との報道があった。

 

韓国全体で専攻医数千人が辞表を提出したとのことだ。大統領が「医学部入学定員増」を打ち出したことが引き金となってこのような状況になっている。専攻医数は13000人なので約4分の1がこの行動に参加していることになる。

 

2020年にも医学部入学定員を増やそうとして医学界からの反発で撤回に追いやられたそうだ。日本では医師のステータスが低下しつつあるが、韓国では医師は依然として超エリートなので、医師数を安易に増やすことへの反発心は強いようだ。

 

医師数を増やすと言う人力作戦で医療需要増に対応しようとした結果の混乱だが、AIやデジタル化が日本よりも進んでいる韓国で、医師数を増やすことで医療供給増に対応を図ったのは少し不思議だ。科学的に考えれば、出生率が日本よりもはるかに小さく、急速な高齢化が進んでいる韓国こそ、AI・デジタルに舵を切るべきだと思うのだが?

 

世の中はよくわからない。

 

生成AI「Sora」が文章から動画を作成!

ChatGPT-4を提供しているOpenAI社がテキストから動画を生成する「Sora」というシステムを生み出したと報告した。

Video generation models as world simulators (openai.com)

 

簡単なプロンプト(文章での指示)によって驚くべき映像を生み出しているのだ。上記のリンクで登場する画像は日本なのか、中国なのか、韓国なのかわからないような背景だが、「驚き、桃ノ木、山椒の木」だ。これをわかる人も少ないだろうが、とんでもなく驚いたという意味だ。

 

Soraは日本語の「空」から取ったという話もあるが、本当に可能性が無限大に広がっている。もちろん、フェイクを生み出す可能性も無限大だ。フェイクを見つけ出すAIも開発中だそうだが、人工知能に支配されないか不安が募る世の中になったものだ。

 

脳に埋め込まれたチップが心を読み取る!

イーロン・マスク氏のNeuralink社が、Brain-Computer Interface(BCI)(脳の思考をコンピューターに伝える装置)を初めて人の脳に埋め込んだと、マスク氏がツイートしたことに関連するニュース記事が2月2日号のNature誌の掲載されていた。記事のタイトルは「Elon Musk’s Neuralink brain chip: what scientists think of first human trial」である。

自分の考えが伝えられない一部の患者さんたちにとっては希望の光であることは間違いない。埋め込んだチップが脳の考えを読み取り、ワイアレスでコンピューターに情報が送られ、テキストや話し言葉で伝えられるようになるのである。病気が進行したALS患者さんは文字盤上の字を目の動きで追いかけて言葉を読み取ってもらっているが、このような技術が利用可能となれば、簡単に意思伝達を行うことが可能となる。

当然ながら、頭皮上に着けた装置と比べれば、埋め込み型チップは感染症のリスクやチップによる短期的・長期的な副作用問題が起こる可能性は否定できない。日本だと安全性を確認してから・・・・と非科学的な指摘が起こるであろう。しかし、考えを読み取る実験をマウスでできるはずもない。死に直面している患者さんに、安全性を確認するのが優先すると言って、常識的にはその患者さんの望みを絶つことが日常茶飯事として起こっている。

イーロン・マスクのこの臨床試験が、米国の臨床試験データベースClinicalTrial.govに情報が登録されておらず、透明性が保たれていないという批判がある。ただし、米国FDAはこの臨床試験の実施を認めたそうだ。オープンな形で情報共有すれば、もっと研究開発が早く進むと透明性を強く求める声は多いが、技術開発が知的財産権につながるので、世の中は綺麗ごとだけではすまない。いつも言っていることだが、米国から新しいものが生み出されるのは、この可能性に賭ける精神だ。今朝新聞を読むと、「日本製のクラウド創出に6億円の補助金がでる」ことが一面で取り上げられていた。桁が3桁ほど少ないのではないのか。誰が考えても、「Too Little」だ!

必要なものに、必要な資金を提供しないと、すべて水泡に帰す。