最悪の行政サービス:運転免許試験場

今日は心底から、怒りが込み上げてきた。今頃、こんな公的サービス機関があるとは信じがたい。日本の免許証が失効していたので、米国の免許証から日本の免許証に切り替えるために、鮫洲の運転免許試験場に行った。なぜか分からないが、米国の免許をJAFで日本語に翻訳してもらわなければならない。JAFという指定があるのもおかしな話だ。これで半日以上、時間を費やさなければならない。国際化はどうなっているのだろう?英語でさえ、利用できないとはどういうことだ。

 

そして、朝830分に試験場に行くと、順番に受け付けるので待っていて欲しいと言われた。830分から開始で、830分に行ったのに、9番目と言われた???小1時間待ち、930分に書類を提出した。1030分過ぎに、「あと、どれくらいかかりますか?」と尋ねたところ、「1時間少し」と言われた。11時を過ぎたころ、トイレに行きたくなったが、もう少しと思って我慢して座っていた。12時になっても(書類提出後、2時間30分、試験場に来てから、3時間30分)、何も言われないままに待たされ、堪りかねてトイレに行く。空腹を感じたが、何処にも行けない。

 

そして、パソコンのバッテリー残量表示も赤色となり、携帯電話のバッテリーも少なくなってきたので、「次の予定があるので、あとどのくらいかかるのか教えていただけませんか?」と怒りを抑えつつ、静かに再質問する。「1時くらいまでには」との返事。「こんなに時間がかかるなら、最初からどうしてそのように言わないのか」と心の叫ぶ。膀胱が破裂していたらどうしてくれるのだ。

 

そして、1時過ぎ、次の予定もあるので、「どうでしょうか?」と尋ねると「あと、20-30分」と答える。「その20-30分は間違いなのですか?」と聞くと、「わかりません」。そして、「急ぐなら、審査を中断しますか?」と。それを言うなら、12時に聞いた時に言えばいいのだ。どこが、日本のおもてなしだ。

 

そして、120分、試験場に到着してから5時間近くとなって、ようやく名前を呼ばれ、「調べましたが、若葉マークは不要です。」「時間がないようですので、視力検査と写真を取るために、また、お越しください」「視力検査と写真も含め、あと2時間はかかります」とさりげなく言う。若葉マークが必要かどうかを調べるために、4時間もかかるのか???4時間も待つなら、若葉マークを付けて運転した方がましだ。これくらいなら、データベースにアクセスすれば、1分もかからないはずだ。そして、視力検査と写真で2時間?イリノイ州の免許証の翻訳も含めると3日かかることになる。今日粘っていても、午後4時近くまでかかっていたことになる。

 

実は4月帰国時の午後早くに、行ったことがある。その時には、「書類審査に4-5時間かかるし、それから2-3時間かかるので、今日中には終わりません」と言われて諦めた。警察には日本で最高レベルのデータベースとコンピューターがあるはずなのに、何をどうすればこんなに時間がかかるのか、不思議だ。これでは、海外から日本に派遣されてきた人が、日本の免許を取得する場合、ここで日本の印象が悪くなるはずだ。前回は白人女性が怒っていたし、今回はアジア系の男性が窓口で大声を出していた。

 

私も、怒りを抑えつつ、「いつ終わるともわからないままに、だまって椅子に座らせるなど、考えられない。あなたは、1030分に聞いたとき、あと1時間少しと言ったはずだ。もう、午後1時を過ぎているのですよ。おおよその時間を言ってくれれば、予定の変更もできたが、こんな対応の悪い行政サービスはありえない。」と伝えた。今日の予定が滅茶苦茶になった。こんな無責任なサービスをしていたら、病院なら必ずつぶれてしまう。モリカケよりも、このようなサービスの悪さについて国会で取り上げて欲しいものだ。前回予告は次の回で。

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シカゴから戻って1週間:標準療法と個別化医療

目が回るほど忙しい日が続いている。「シカゴ便り」でなくなることを契機にブログをどうしたものかと悩んでいたが、昨夜、食事をした友人から、「中村先生は、人が言いたいことを、よくあれだけズケズケと言えますね。他の人は怖くて言いたいことが言えないのですよ。でも、ブログを読んでスッキリしている人がたくさんいると思いますよ」と言われた。

 

そして、昨日の朝に、以前から相談を受けていた19歳のがん患者さんをお見舞いに行って(様子を見に行って)来た。直後に、お父様から連絡をいただき、感謝の言葉を頂いた。電話の向こうで泣いている様子が伝わり、私ももらい泣きしてしまった。少しでも多くの患者さんに希望を提供することが重要だと思い、これからもできる範囲で情報を発信していくことに決めた。もちろん、最終的なゴールは希望を提供するだけではない、希望を現実にすることが私の人生の目標だ。

 

日本に戻って1週間、もっとも辟易としているのが、標準療法を金科玉条のように唱える人達と接する時だ。旧来の抗がん剤による治療は、極端な言い方をすれば、1000人ずつのがん患者に薬剤Xと薬剤Yを投与して、統計学的に有意差を検証する形で標準的治療が確立されてきた。例えば、患者さんの半数が死亡した期間が、薬剤X6ヶ月で、薬剤Y8か月と伸びて、しかも、統計学的解析でP値が0.050.01を下回ることによって、薬剤Yが推奨され、それが標準医療の位置を獲得してきたものだ。

 

これらの結果をもとに、Yは絶対的にXよりいいのだと主張してやまない医師が多い。これは、がん患者さんを集団として捉えて、何も考えずに統計学を盲目的に信じているからだ。集団の中で、効いた人、効かなかった人の種々の背景を判定する道具がなかった時代ならともかく、今や、個々の患者さんの違いをゲノムレベルで捉えることができるようになったにもかかわらず、科学的に考察できない医師が多すぎるのだ。

10人中、薬剤Xを投与すると2人に有効で、薬剤Yを投与すると3人に有効であるケースで、統計学解析だけを信じ、何も考えずにYXよりいい薬だと結論付けるのは、今の時代には愚かな考えだと思う。

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薬剤XではAさんとBさんが有効で、薬剤YではABCが有効だと信じているようだ。人間の顔はみんな同じだと信じているようなものだ。

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f:id:ynakamurachicago:20180620223340j:plainしかし、当然ながら、上図のようなケースではAさんとBさんは最適治療の機会を失することになる。最初の図のように、今やAからJさんのがんの個性を調べることができる。がんゲノム医療の定義を、分子標的治療薬の使いわけのように矮小化しているから、日本のがん医療は遅れるのだ。標準療法を順序付けて、1、2,3と順番をつけていくことは、それぞれのがんの個性を無視しているのと同じことだ。現実的には、匙加減で治療をしている医師は少なくない。治療経過を見て、患者さんの顔を見て、本能的に治療法を使い分けているのだ。長年の経験値をもとに、直感というアルゴリズムを頭の中で構築しているのだ。

 

全ゲノム・エキソーム解析や遺伝子発現解析をしてデータを蓄積すれば、人工知能が、科学的に、分子標的治療薬だけでなく、旧来の抗がん剤、抗体医薬品、放射線治療などの効果予測をしてくれるはずだ。岩手医科大学泌尿器科の前教授の藤岡知昭先生とわれわれは遺伝子発現解析によって、膀胱がんに対する二つの抗がん剤療法の使い分けを提唱してきたが、「XYの効果は同じで、副作用が低い」というエビデンスに押し切られてしまった。今考えるともっと頑張ればよかったと思うが、統計学というエビデンスを信じる人たちに負けてしまった。

 

個別化医療、プレシジョン医療の実現には、遺伝子パネルではなく、もっと多くのゲノム・遺伝子情報が不可欠だ。次回は、この膀胱がんのデータをもとにゲノム解析の重要性を伝えたい。

シカゴ便り最終回:NHK報道「免疫療法はエセか、患者の希望か!」

NHKニュースが、米国臨床腫瘍学会では免疫療法が中心的話題だと新しい流れを大々的に報道する一方で、クローズアップ現代では、免疫療法の大半をエビデンスがないと否定するような報道をした。クローズアップ現代冒頭で「詐欺師まがいの遺伝子治療」の例を紹介したが、免疫療法とは全く無関係の話なのだ。しかし、後段の部分とつなげると、明らかな「免疫療法の大半は悪だ」という印象を与えるような番組の構成だ。画面の背景として樹状細胞ワクチンが大きな文字で示されてされていたが、これは強烈な印象操作である。

多くの人たちは、「エビデンスのない治療法」という言葉を使って、新しいことをすべて否定する傾向にある。特に、国の中心にいる人たちにこの傾向が強い。国内外の製薬企業の下請けをすることが世界と競っていることだと誤解しているから、日本のがん医療が遅れてきた現実を直視して欲しいものだ。

歴史を振り帰ってみよう。国立がん研究センターは「遺伝子治療」を試みたことがあるのか?自分たちで免疫療法のドアを開けようとしたことがあるのか?国立がん研究センター東病院で熱心に免疫療法に取り組んでいる医師をどう評価するのか?「抗がん剤は毒だ」との批判コメントに何の対応もしなかった。この影響で、抗がん剤治療を回避して、救えたかもしれない命を失ったことに対して、どのように責任を感じているのか?そして、若尾医師のコメントが、国立がん研究センターの正式なコメントなのか、はっきりして欲しいものだ。

「エビデンス」は検証することによって始めて生み出される。しかし、人での「エビデンス」を検証する前には、基礎研究で、そして、動物実験で「エビデンス」が積み重ねられる。これも、また、「エビデンス」なのだ。効果がないと結果を受けての「エビデンスなし」なのか、評価が出来ていないという意味での「エビデンスなし」なのかを区別することもできていない。基礎知識のないメディアも「エビデンス」を振りかざし、日本の医療の進歩を遅れさせてきたという意味では同罪だ。心臓移植も、骨髄移植も、生体肝移植も、人で検証する前には、人で有効だというエビデンスはなかったのだ。新しいことに対して、国やそれにつながる機関が率先して取り組んでこなかったから、日本は遅れているのだ。

私はペテン師のような医師を「白衣を着た詐欺師」と批難してきた。まじめに取り組みながらも、治療成績をはっきりさせてこなかった医療施設にも責任はある。NHKの番組では、すぐに米国の例を出して、米国と対比させるが、人的資源が日米では全く異なるのだ。臨床試験の実施数も桁外れに少ない。日本では相談しても、標準療法の先の治療法がないのだ。日本の批判をして、米国を礼賛し、日本の実情を顧みない提案をする。本質的な問題を全く理解していない。根源的な問題を掘り下げて、対案を示さない限り、標準療法後の「がん難民」には何の助けにもならない。

米国国立がん研究所のローゼンバーグ先生は、賛否両論あるが、いろいろな免疫療法の試みをしてそれが評価されてきた。先週、彼のグループが、複数の転移巣のある乳がん患者に対して、腫瘍浸潤リンパ球を増やして治療したところ、完治したとの報告をした。このリンパ球は、がん特異的抗原を認識するものだ。これを含め、ネオアンチゲン療法、樹状細胞ワクチン療法(クローズアップ現代が、暗に、批判していた治療法だ)、そして、ネオアンチゲンを認識するTCR遺伝子を導入したT細胞療法ががん免疫療法の未来だと私は確信している。

日本で活動している免疫治療施設も、効いたと謳うなら、正々堂々と効果があった症例とその患者のデータを公開すればいいと思う。心ある人たちが集まって、治験を行い、データを集積して「エビデンス」を示していけばいいのではないのか?一部メディアの味噌と糞を一緒にした免疫療法バッシングで、日本の免疫療法は危機を迎えている。日本に戻り、心ある人たちの集団に参画して、患者さんを救えるように全力で取り組みたい。逆風が吹き荒れて、玉砕するかもしれないが、玉砕する時は、桜のように美しく散っていきたい。

PS: これを書きあげ、親友となったHans Schreiber教授と奥様Karinさんから頂いたカードに目を通した。読み進むうちに、目の前が曇ってきた。この6年余りの風景が走馬灯のように脳裏に流れる。しかし、「I want to contribute to help cancer patients」の一言は、頭の中に鮮明に浮かび上がっている。この言葉に心から共鳴できる人たちと一緒に頑張りたい。いよいよ、あと10分で搭乗だ!

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シカゴ生活あと3日弱

一昨日の夜、研究室に残っている人たちとシカゴに在住しているOBをステーキハウスに招待をし、お別れの会をした。シカゴ大学で研修医をしている人、ノースウエスタン大学の助教授となったシンガポール人、来年医学部を卒業予定のケニア人、来年医学部入学を目指しているエチオピア人、シカゴ大学の他の部屋に移った中国人、後片付けを手伝いに日本から来てくれた二人を合わせて合計14人が集まった。男性4人、女性10人の女性優位の会だった。

6年間で39人の部下や学生が集って楽しく研究をした。彼らにとっては、辛いこともたくさんあっただろうが?国別の内訳は、日本が12名、中国8名、韓国4名、アメリカ合衆国2名、ギリシア2名で、あとは、エチオピア、トルコ、シンガポール、マレーシア、ドイツ、ケニア、シリア、ベトナム、インド、台湾、ナイジェリアが1名ずつだった。日本人は現在いる1名を除いて全員に日本に戻った。韓国人のうち2人は韓国には戻らず、オンコセラピーで勤務している。日本以外の27名の内、19名が女性だった。

お別れの会の冒頭に挨拶をしたが、やはり、別れは寂しく、こみ上げてくるものがあった。彼らを通して研究者を育てる難しさを改めて感じた6年間であった。日本以外の15カ国は、当然ながら、日本とは歴史的・文化的な背景が異なっており、多種多様な文化・考え方に接することが出来た。中国人の8名は、非常に日本人的な中国人と、とても私には理解できない中国人がいた。しかし、このような多様性を受け入れていることが米国の強さを作り出している根源だと思う。多様な国々の人たちとの人脈形成は個人レベルでも、国家レベルでも極めて大切だ。米国で学んだ人たちが、母国に戻って影響力の大きな人物になれば、いろいろな形で、外交的な力にもなってくれるだろう。

日本人の留学生が減少し、中国・韓国・インドからの留学生が急増している。日本は、近い将来に、これらの国と比して、外交的なパワーが弱体化していくだろう。外交と言っても、最も大事なのは、人と人のつながりだ。医療分野でもそうだが、10年、20年、50年先を見据えた国家戦略に欠けているのが、日本だ。その観点では、よくても悪くても、中国は長期的な国家戦略を持っているように見える。

いよいよ、米朝会談が始まる(最後まで、本当に始まるかどうかわからないが)。世界は一気に激変するかもしれない。医療分野も激変しているが、これでいいのか日本の医療は?

シカゴ便りも、いよいよ、シカゴ時間の12日朝に発信する便りが最後になる。日本に戻って、がん患者さんや家族のために立ち上げたいと考えていることを紹介したい。

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恥ずかしくて、心温まるエピソード

米国臨床腫瘍学会(ASCO)で5日間連続外食の昨日、とんでもない事態が生じた。引っ越しの準備、学会、毎夜の外食で、集中力が落ちていたのか、いろいろな事を考えすぎていたのかわからないが、事の顛末は、下記のようだ。

 

会食のため、電車(Metra)でダウンタウンに行くため、5時に大学を出て、駅に向かった。プラットホームに上がると電車が来たので、少し早いなと思いつつも乗ってしまった。いつもガラガラなのに、今日は乗客が多いなと感じたが席に着いた。車内で検札に来たので(今でも、駅に人はおらず、自動改札機もなく、車内でチェックする)、車掌に乗車券を渡したところ、

 

怪訝そうな顔で「どこに行くのだ?」と聞かれた。

「ミレニアムパーク(美術館に近いダウンタウンの南側の終点駅)」と返事したところ、今度は憐れむような顔で「方向が違うよ」と言われた。

外の景色を見ると、確かに見慣れない風景だ。

思わず、「どうしたらいいの?」と聞き返す。

「Madison駅まで行って、反対向きに乗り、引き返したらいい」と教えてくれた。

Madison駅が何処かわからないが、「わかった。ところで、Madison駅までどれくらい時間がかかるの?」と問い返した。

「30分くらい」。心の中でオー・マイ・ゴッドと叫ぶ。運悪く、これは急行だったが、後の祭りだ。家から駅のホームに向かう場合と、大学からホームに向かう場合で、ホームの階段が左右反対なのだが、6年目にして初めての大ポカだった。自分がアンビリーバブルだ。

 

見慣れない車外の風景を眺めつつ、待ち合わせ相手のメールを探そうとしたが、引越し準備で数時間前に大規模に整理したため、携帯からは見ることが出来ない。急いで、LINEで、シアトル在住だが、今でも手伝っていただいている秘書のHisayoさんに連絡を入れる。日本人とメキシコ人の相手に連絡を取っていただいて助かった。感謝感激だ。

 

しかし、Madison駅までは急行だったが、折り返しの電車は、各駅停車だった。時間を調べると、6時45分に目的の駅に到着だ。6時の待ち合わせなのに、もう一度、オー・マイ・ゴッドだ。まさに、行きはよいよい、帰りは恐いだ。心が焦っても、電車はマイペースで走る。結局、20分間弱電車に乗る予定が、1時間半も乗ってしまった。到着した時は、もちろん、相手に平謝りだった。

 

でも、少しだけ、いい話がある。車掌さんは切符にパンチを入れず、「折り返し電車の車掌に説明すれば、この切符で大丈夫だよ」と言ってくれた。その通り、折り返し電車の車掌もOKと言ってくれた。1時間30分も乗って500円だった。損をしたのか、得をしたのか、複雑な心境だ。そして、車掌さんは、Madison駅に着く直前に、「乗り間違ったお客さん、次の駅で、反対側の電車に乗ってください」と車内アナウンスしてくれた。そして、後ろに座っていた乗客に「あなたのことよ」と言われた。恥ずかしかったが、なんとなく、心が温かくなった。

 

しかし、無事に日本に帰れるかどうか、自分の心と体が心配だ。

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遺伝子検査で70%の乳がん患者が化学療法が不要とわかった??!

ネットニュースで「Gene Test Shows About 70% of Breast Cancer Patients Can Skip Chemo」という標題の記事が目についた。これを訳すと「遺伝子検査で70%の乳がん患者が化学療法が不要とわかった」となる。読んでみると情報源が、New England Journal of Medicine誌で発表された「Adjuvant Chemotherapy Guided by a 21-Gene Expression Assay in Breast Cancer」という論文だった。

論文の主旨は、21遺伝子の情報に基づく遺伝子解析結果で、再発リスクが中等度と判定された6711名のホルモンレセプター陽性・HER2陰性・リンパ節転移陰性乳がん患者を、ホルモン治療群とホルモン治療+化学療法群に分けて経過を報告したものだ。9年後の無浸潤疾患生存期間(invasive disease–free survival)、浸潤性の病変がなかった割合を調べたところ、ホルモン治療群では83.3%とホルモン治療+化学療法群では84.3%で、統計学的な差はなかった。遠隔転移がなかった割合は94.5%と95.0%、全生存率は93.9%と93.8%とこれも差はない。

50歳以下の患者では、無浸潤疾患生存率と遠隔転移がなかった割合で、ホルモン治療+化学療法群が数%よかったが、全生存率では差がなかった。再発抑制効果が多少あっても、化学療法によるダメージで生存期間では差がなくなるとも解釈できる。論文の結論は、二つの治療群では全体的には差がなかったが、50歳以下の患者では化学療法は少し意味があるかもといった感じだ。ネットニュースの標題である、「70%の乳がん患者は化学療法が必要ない」とは、かなり印象が違う。しかし、論文を読む限り、私の印象も、ホルモンレセプター陽性・HER2陰性・リンパ節転移陰性乳がんには、ホルモン療法だけで十分で、化学療法は不要ではないか、である。昨夜、MDアンダーソンがんセンターの上野直人先生と食事をした際、「化学療法をしなくてもいい人がわかった意義は大きい」と話されていた。拡大・併用から、患者さんの負担をミニマムにする時代への転換点かもしれない。

もう一つの話題は、「Vaccine」という雑誌に発表された「Effectiveness of HPV vaccination against high grade cervical lesions in Japan」という論文についてだ。自治医大の今野良先生や対がん協会の垣添忠生先生らが著者である。子宮頸がん検診を受けた女性において、high grade precursor lesions of cervical cancer(子宮頸がんの前がん病変=ネットで調べたが、非常に早期のがんと前がん病変の定義が今ひとつよくわからなかった)がどの程度見つかったかを比較したものだ。このような研究に対して、必ず、被験者(対象となる人たち)のバイアスがないのか批判する人はいるだろうが、私はこの規模でやったことに素直に敬意を表したい。

 

ワクチンを受けていない20-24歳(14171名)、25-29歳(6603名)の女性での検出率は、それぞれ、0.58%と0.71%であったのに対し、HPVワクチン接種群では、20-24歳(1590名)、25-29歳(379名)で、それぞれ、0.19%と0.26%であった。ワクチン接種群では、わずが3名と1名の陽性しかいないので、1-2名の差で数字が大きく揺らぐ可能性は否定できないが、日本国内のデータとしては非常に貴重だ。30歳代では2番目に多いのが子宮頸がんであるし、国際的に予防可能ながんとして捉えられている代表的ながんである。もっと、オールジャパンでエビデンスを蓄積することができないものなのかと悲しくなってくる。10年後、日本だけ子宮頸がん発症率が高止まりしていたら、誰が責任を取るのだろう。メディアは、他人の責任を批判する資格はないと私は思う。

 

そして、医療に関するデータベースを充実し、それをAIと組み合わせれば、日本の抱えている超高齢社会や社会保障問題、あるいは、医療現場の疲弊に対する解決につながるのだが、これもなかなかオールジャパンとは行かない。出来レースを覆した反動なのか、他のプログラムも同じような仕組みなのかわからないが、私の案に対する某省庁からの攻撃は続いている。会話の文章化など、医療現場に負担を増すそうだ。人工知能の進歩を考えれば、数年前と今では、様変わりなのに。DNA解析など、2010年前後の数年間で3桁スピードが上がったことは、このブログで何度も紹介してきた。AIによる将棋や囲碁の進歩も驚くばかりだ。さらに、5年後、10年後を見据えた医療データベースの中に、ゲノムを一切含めないなどありえないと思うのだが?国の将来より、役所の論理が優先するのか?不思議の国アリスだ。

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声紋認証で個人を識別する人工知能

61日は母の19回目の命日である。私は母が19歳の時に生まれたので、母が亡くなった年齢に達したことになる。親が亡くなった年齢に達するのは、人生の節目のような気がする。心筋梗塞や脳卒中でも起こらない限り、そして、交通事故・事件に巻き込まれない限り、急死することはないだろうが、そろそろ、その時に備えての準備をしておく必要があるかもしれない。

内閣府のプロジェクトは5年間となっているが、成果が上がらなければ3年で終わるかもしれない。あと5年間、無事に過ごせる保証などないが、今まで通り、日々、全力で駆け抜けるしかない。シカゴに来て、すでに6年と2ヶ月が過ぎたことを考えると、5年はあっという間に過ぎてしまう。最近はあまりにも忙しく、朝型の私が、気がつけば日付が変わっている毎日を送っている。日にちの感覚が失われてきたが、気づけば、シカゴの生活もあと10日ほどだ。片付けるべきことを片付けようとしているのだが、周りの動きが。

ここで、話は一転するが、シカゴ大学での退職金積立金・年金の整理もあり、TIAAという会社のウエブページにアクセスした。本人確認のためにと、いくつかの質問があったが、驚いた。ありきたりの質問の後に、「あなたは1985-86年にどの州に住んでいましたか?」「2013年にはどの町に住んでいましたか?」、この程度は年金を納めて情報が把握されているので、当然の質問だと思った。以前もコメントしたが、1984年―1989年のユタ大学在籍当時の年金記録は、きっちりと残されていた。しかし、私の日本の年金記録は、まだ、つながっていない。電話をしても、たらい回しにされ、行方不明のままである。何回が試みてあきらめたが、誰も責任を持たないシステムは変わらないだろう。

ここで話を戻すと、第3問は「あなたの持っている(もう売却したのだが)トヨタRAV4は何年に作られたものか?」だった。最近売却したこともあり覚えていたが、買った中古車が何年製など普通は覚えていないだろう。しかし、ローンも組んでいないのにもかかわらず、買った車の情報まで社会保障番号?と連結されているとはたいしたものだ。そして、さらに驚いたのは、ウエブだけではどうしていいのかよくわからず、電話連絡した時だ。いろいろな本人確認のための質問が続いて、それをクリアした後、「あなたの声紋を記録して、本人確認に利用できる。今後はいろいろな質問に答えなくていい。これに登録するか?」と質問された。歯が抜けても、ちゃんと聞き分けてくれるとのことだった。虫歯の多い私でも使えそうだ。

これも一種の人工知能だ。米国の人工知能は進んでいるのか?私が知らないだけだったのか?クレジットカードなどでは、音声を聞き取って、必要な部署に誘導してつなげることがすでに行われているが、声紋による個人識別は初めての経験だ。これが家庭レベルでできて、血縁者の声紋を記録しておきさえすれば、「オレオレ詐欺」など簡単に排除できるはずだ。極端で実現するのは無理だと思うが、全国民の声紋を記録しておけば、犯罪抑制にもつながるかもしれない。しかし、いろいろな企業のオペレーターとの会話を記録を誰かが蓄積する気になれば、大きなデータベースなど簡単に出来てしまう。私の会話記録などANAにはたくさん残されているだろう。

いずれにせよ、音声を認識するシステムは、かなり進んでいるのが実情だ。内閣府のプロジェクトでは、診療現場でいろいろな言語・方言などを聞き取れるシステムを早く確立したいものだ。

PS:先ほどまで、ネオアンチゲンが重要ながん特異的抗原になると世界で初めて(1995年に)報告したHans Schreiber教授の自宅に招かれてパーティーに参加した。私が自宅に帰る時に車で送ってくれた。最後に一言、「I miss you, Yusuke. I do not want to be famous, but I want to do something for cancer patients.」とポツリとつぶやいた。「So do I.」と言おうとしたが、母の代わりにつぶやいたような気がして、胸に迫るものがあり、言葉がでなかった。

(あと11日でこの景色ともお別れだ!)

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