膀胱がんに対する抗がん剤治療;温故知新

日露関係が一歩進みそうだ。相手の大統領は曲者なので、油断はできないが、ベストより、ベターでいいのでは?四島一括返還が大前提と言うが、大半の日本人は「そんな事が叶うはずがない」と思っている。現状を理解していれば当然だ。言霊主義にも限度があると思うし、一歩目がなければ、二歩目はないのだから、現実的な判断ではないかと思う。しかし、これって、鈴木宗男氏が提案していたものではなかったのか?

 

もはや、戦後73年で、その間、ソ連・ロシアの実効支配が続いているし、1万人以上のロシア人が暮らしている。1956年の日ソ共同宣言からも62年を経ている。戦後に生まれた私でさえ、あと何年生きることかをできるかを考える年齢に達しているのだ。日韓の問題もあるが、いい加減に、「戦後」が終わって欲しいものだ。

 

そして、今日は、膀胱がんの術前化学療法についての話題だ。JAMA Oncology誌に「Downstaging and Survival Outcomes Associated With Neoadjuvant Chemotherapy Regimens Among Patients Treated With Cystectomy for Muscle-Invasive Bladder Cancer」というタイトルの論文が掲載されている。筋肉層まで浸潤している膀胱がんに対する3種類の術前化学療法について報告したものである。824症例の膀胱がん摘出術を受けたステージ2以上の膀胱がん患者を対象として、術前化学療法の種類別に有効性を比較した結果だ。

 

ダウンステージ(化学療法によってがんが縮小し、ステージが2期や3期からから2期や1期へ下がるような場合)、完全緩解(完全にがん細胞が消える)、全生存率を比較したデータである。15年位前に、岩手医科大学の藤岡知昭教授のグループと共同で遺伝子発現情報データをもとにMVAC療法(メソトレキセート・ビンブラスチン・アドリアマイシン・シスプラチンを併用した抗がん剤治療)の効果予測法を研究していたので、この論文が目に留まった。MVAC療法に対する予測法をまとめ上げた頃に、GC療法(ゲムシタビンとシスプラチン)、あるいは、CaG療法(カルボプラチンとゲムシタビン)が広く使わるようになって気落ちした記憶がある。

 

それでも、気を取り直してCaG療法の効果予測法を構築し、MVAC療法とCaG療法が効く患者集団がかなり異なっていることを報告した。やってみないとわからない治療法を提供するよりは、効く効かないが80-85%の確率で予測できる方がいいに決まっている。しかし、ある程度の規模の臨床試験で確認するだけの予算もなく、残念ながら、診断法としては確立できていない。

 

と、いつもの愚痴は忘れて、本論に戻そう。この論文のMVAC療法は従来のものではなく、ddMVAC療法だ。ddとはdose-denseの意味で、抗がん剤の投与期間を短くするることで、抗がん剤の濃度を高く維持して、より効果的にがん細胞を叩くことができるとの考えによるものだ。

 

824名の膀胱がん患者のうち、332名の患者が術前化学療法(ddMVAC,GC, CaG、その他)を受けた。内訳は、GC療法204名、CaG32名、ddMVACが46名、その他50名であった。私的な医療保険を持っていた患者さんでは42%が術前化学療法を受けていたのに対して、メディケア保険加入者では31%であった。これがアメリカだ。

 

摘出した膀胱にがんが見つからなかった(消えていた)患者さんの割合は、ddMVACGCCaGで、それぞれ、41%、25%、9%となっていた。ダウンステージが認められた患者さんの割合は、ddMVACGCCaGでそれぞれ、52%、41%、27%であった。かつて、MVACGCでは有効性に差はなかったと報告されていたが、集中して抗がん剤でがんを叩くddMVAC 療法は従来のものとは違うようだ。そして、生存率で見ても、ddMVAC療法がかなりよく、3年後での全生存率はddMVACGCでは約80%と60%弱の差があった。

 

MVAC療法はGC療法と比べて効果は同じだが、副作用が強いので、劣った治療法だというのがこれまでのエビデンスだ。ここで思考停止してしまい、この論文にあるような科学的な思考で、より高い治療効果を求める姿勢がなければ、この成果はない。日本に欠けているのは、がんを治癒させたいと思う信念を持つことと、科学的な思考でがんを治そうとする手法を目利きできる人材だ。もちろん、治癒させるための戦略とそれを実行するために必要な予算も必要だ。今の仲良しクラブ的な研究支援体制・研究費評価体制で、それが実現できるはずもない。

 

そして、ddMVAC療法にしても、GC療法にしても、効果を期待できる患者さんは半数前後しかいない。10年前のMVACCaG効果予測法が、ddMVAC療法に応用できるかどうかわからないが、ぜひ、岩手医科大学泌尿器科のメンバーには抗がん剤使い分け法の確立に向けて頑張ってもらいたい。

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標準化=マニュアル化、機械化、無味乾燥化?日本のがん医療

一昨日、福岡がん総合クリニック主催の講演会が、福岡で開催され、1時間の講演をさせていただいた。会場には500人前後の方が参加され、熱気を帯びていた。講演に参加された講師陣とも話をしたが、多くの進行がんケースでは、標準療法の先には暗黒の断崖絶壁が待ち構えている現状については、疑問の声が強かった。標準療法は、誰しもが受けることのできる最低限の治療法であり(それを受けることが患者さんの義務のようになっていることも疑問だが)、もっともっと患者さんの生きたいという思い・願いに寄り添う医療が必要ではないかと思う。

 

しかも、分子標的治療薬のように有効率の高い治療法はともかく、旧来の抗がん剤は、「やってみないとわからない」状況だ。「効く可能性は20-30%で、患者全体で見ると3か月の生存延長が期待できる」との説明を受けて、抗がん剤治療を受けたくないと考える人は決して少なくない。もちろん、どのような伝え方をするのかによって、患者さんの受け止め方は大きく異なる。「この病院ではこれ以上の治療はできない。他の病院か、緩和ケアに行ってください」が、国を代表する病院の標準というのも悲しい。

 

ある医師が、マニュアルを読むかのように淡々と伝えるなら「人工知能」でもできると言っていた。私は、知識量・判断能力では近いうちに「人工知能」が優るようになると思っている。しかし、患者さんの気持ちなどを慮って対応する部分は、まだまだ、人間しかできないと信じているが、その部分が失われつつあるような気がする。もし、自分の子供が、連れ合いが、親兄弟が同じ環境に置かれても、このような機械的な対応を許容することができるのだろうか?

 

そして、データは見るが、患者を診ない診療現場にも憂慮している。ある患者さんは、腹水の貯まったお腹を見ようとも、お腹に触れようともしなかった医療機関から、別の医療機関に移った時に、お腹を触診されたことに感激したと言っていた。この患者さんにとって、幸せだったが、正直なところ、私はこのコメントに愕然とした。こんな無味乾燥な医療が、標準療法として均霑化されていいものなのか?

 

確かに、医療現場は忙しい。しかし、医療現場で患者さんを診ることは、レストランなどで、テーブルなどをきれいにしておくのと同じくらい、基本的なことなのではないのか?医療は高度化、複雑化、多様化しているので、標準化は必要だが、標準化=マニュアル化、機械化、無味乾燥化ではない。医学教育の質が問われている。

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免疫チェックポイント抗体治療はいつまで続ければいいのか?

Lancet Oncology誌の11月号に「Nivolumab plus ipilimumab or nivolumab alone versus ipilimumab alone in advanced melanoma (CheckMate 067): 4-year outcomes of a multicentre, randomised, phase 3 trial」というタイトルの論文が発表されている。

 

英国の雑誌なので、米語の「center」が「centre」、「randomized」が「randamised」と英国スペルになっていることに少し違和感があるが、なつかしい。私は中学1年生の時に、英国語の教科書で習っていて、2年生から米国語に変わって戸惑ったことを記憶している。センターは「center」と書く方がなじみやすい気がする」が、ブリティシュなまりの口の中でこもったような発音だと「centre」の方がぴったりくるのだろう。英国はEUから離脱寸前だが、英国の混乱が世界中に波及しないことを願っている。

 

話は逸れたが、本論に戻そう。上述の論文は、ステージ3、もしくは、4の無治療メラノーマ患者に対する、抗PD-1抗体(Nivolumab)・抗CTLA-4抗体(Ipilimumab)・両者の併用療法の比較試験における4年経過時点での結果を報告したものである。早い時点での結果は既に報告されており、生存期間でみると併用療法がNivolumab単独より少し良く、両者はIpilimumab単独よりもかなり良好であるという結果には変わりはない。平均生存期間中央値は、併用療法では46.9か月の追跡期間内では数字は出ていない。Nivolumab群では36.9か月、Ipilimumab群では19.9か月となっている。免疫療法は、抗がん剤で患者さんを弱らせる前に投与する方が効果が高いと改めて思った。

 

ただし、グレード3-4の副作用発症頻度は併用療法で59%313名中185名)、Nivolumab単独群で22%(313名中70)Ipilimumab単独群で28%311名中86名)となっており、併用群での副作用発生頻度はかなり高い。同じ免疫チェックポイント抗体と分類される二つの薬剤だが、その作用機序は異なるため、併用療法では、免疫抑制のシステムを抑え込みすぎるために(自分自身のがん以外の正常細胞に対する免疫反応も抑えきれなくなり)、自己免疫反応がかなり強く起こると考えられる。

 

上記は、これまでの復習のようなデータだが、私がこの論文で最も注目したのは、副作用のために治療が継続できなかった患者さんと治療を継続しできた患者さんとを比較したデータだ。差はわずかだが、副作用によって治療を中断した患者さんの方が生存率は高い。副作用の強く出た患者さんの方が、がんに対する免疫反応が強かったという解釈ができる。しかし、生存が長いということは、薬剤投与を中止しても、がんに対する免疫反応が維持されていることも意味する。この事実は重要だ。

 

高額な医薬品をいつまで使えばいいのかは、医療費の観点から非常に重要な課題である。免疫ゲノム学的な解析をすれば、患者さんの体内でがん特異的細胞が維持されているかどうかは科学的に解明できる。数千億円の薬剤費の削減につながる研究分野だ。シカゴ時代にMDアンダーソンがんセンターとの共同研究で、TIL(がん組織に浸潤していたリンパ球を体外で増やした後、患者体内に戻す治療法)療法後の血液を調べたところ、効果があった患者さんでは体内に戻したリンパ球が長期間維持されていることを見出した。効かなかった患者さんではTILはすぐに体内から消えた。

 

Immunopharmacogenomics(免疫薬理ゲノム学)(免疫反応を調べるゲノム学と薬理ゲノム学の融合)の重要性を提唱して5年になる。オーダーメイド医療は社会に認知されるのに20年近くかかった。これとと同じように、免疫ゲノム薬理学の重要性が認識されるまでに、あと十年以上経なければならないのだろうか??失われたゲノムの10年を取り戻すためにも、大きな取り組みを始めてほしいものだ!

 

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抗免疫チェックポイント抗体療法は膀胱がん患者の膀胱温存につながるか?

Journal of Clinical Oncology」誌のオンライン版に「Pembrolizumab as Neoadjuvant Therapy Before Radical Cystectomy in Patients With Muscle-Invasive Urothelial Bladder Carcinoma (PURE-01): An Open-Label, Single-Arm, Phase II Study」というタイトルの論文が報告されている。

 

T3bN027症例)、T2N0(21)を主とする50症例の膀胱がんに対して、膀胱全摘出前にPembrolizumab(抗PD-1抗体)で治療を行い、膀胱がんに対する効果を調べたものだ。T3は膀胱がんの外の脂肪組織まで広がったもの、T2は膀胱の筋肉内にまで広がったがんを意味する。Pembrolizumab200㎎を3週おきに3回投与を受け、その後に、全症例が膀胱全摘出術を受けて、病理学的(顕微鏡的)検査で評価を受けている。

 

1症例が肝機能障害によって、3回の投与を終えることができなかった。21症例では、病理学的にがん細胞が検出されなかった。これらの症例を含め27症例でT1、あるいは、T0にダウンステージングが認められた。これは、筋肉層からがん細胞がなくなり、尿道から内視鏡を入れてがん細胞を切除して、膀胱を温存できる可能性を示している。特に、PD-L1の発現が高く、がんでの遺伝子異常数の多い症例で、効果が期待できるようだ。これらのがんでは、手術で摘出した組織内で強い免疫反応が起こっていた。この研究では、全症例で膀胱全摘出手術を行ったので、ダウンステージの患者さんに対して、内視鏡による膀胱温存術を行った場合での膀胱内再発率は検討できていない。

 

膀胱を全部摘出するということは、尿をためておく袋がなくなることを意味する。小腸や大腸を一部切断して、自分で排泄できるような膀胱を人工的に作る方法もあるが、多くの場合、尿管を皮膚に縫い付けて、尿を体外のバッグにためておく方法が取られている。したがって、膀胱を温存できるかどうかは、生活の質に大きな影響を与えることになる。

 

最優先されるのは、がんによって命を落とすことを回避することであると私は考えているが、患者さんによっては、膀胱全摘出を受け入れない場合がある。その気持ちは十分に理解できるし、従来も術前化学療法によるダウンステージングが図られていたが、患者さんへのダメージは大きい。それに対して、わずか3回の投与で、半数近くの患者さんで顕微鏡で調べてもがんが見つからなくなる。がん細胞での遺伝子異常数が多く、PD-L1陽性例では半数を上回る例でpT0となる結果は、患者さんの生活の質の観点からは極めて重要な情報だ。ただし、今後、これが再発を抑えるか、患者さんの命を救えるかどうかの評価は必要だが。

 

そして、このきわめて高い有効率は、免疫系が弱っていない条件下では、免疫チェックポイント抗体の効果がより高まる可能性を示すものだ。免疫力の低下を引き起こす抗がん剤療法を標準療法として受けることが、免疫チェックポイント抗体治療を受ける条件なるなど、科学的にどのように考えてもおかしい。がん治療革命が必要だと痛感した。

 

他人のやることをエビデンスがないと非難するだけでなく、患者さんのために、科学的な思考でエビデンスを積み上げるべく医師主導型臨床試験を進めることが、国をけん引するセンターの責任ではないのか。予算がなければ、がん患者さんや家族のために予算を確保できるように努めることも、彼らの責任だと思う。

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BSフジ「プライムニュース」に出演して

テレビ出演が終わった。周りから「生放送ですよ!」「言った言葉は消せませから!」「中村先生、お願いしますよ」と何回も脅かされていたので、最初はかなり緊張していた。私の普段の言動は、余程、過激らしい。しかし、キャスターの方もしっかりと予習をしていただいたようだし、塩崎代議士もフレンドリーだったので、次第に落ち着いて話ができるようになった。

 

6年間シカゴで着続けたスーツは、クリーニングでの高熱のアイロンのために、テカテカになっていた。これでテレビに出るのも恥ずかしいと思って、新たに買い(といってもオーダーメイドにするほどゆとりはないので、洋服の・・で買ったものだ)、勝負服で臨んだ。言葉が過激になっても、落ち着いたイメージを出すためにネクタイも地味目のもので控えめにした。テレビに出るのも気を遣うものだ。

 

しかし、生出演は取り消しができず、小心者の私にはかなりのプレッシャーであった(多くの方は信じないだろうが、チキンハートなのだ)。生出演は、シカゴに行く前に「あさイチ」に出演させていただいて以来であるので、7年ぶりとなった。日本に帰国以後、メディアの露出が多いことに対して批判的な声も聞こえてくるが、今、私が何を考え、何をしたいのかを伝えるにはこれが最も効果的だと思う。

 

がん患者さんや家族に希望を与える、そして、治癒ができ、笑顔を取り戻すことができれば、死ぬときに「有意義な人生だった」と自分を納得させることができると思っている。これが生きた証だと誇りを持てる。しかし、「標準療法後に患者を見捨てないで希望を」という私のブログなどでのコメントに、「全国の臨床腫瘍内科医が怒っている」と言った人がいる。不愉快に思っている人が多いことは想像に難くないが、私のコメントに対して不愉快ならば、自分の言葉で伝えればいいと思う。できるなら、一緒になって希望を提供してもらいたいと願っている。

 

そして、残念ながら、がん研有明病院内にも、私のコメントや行動を不快に思っている人が少なくないようだ。もし、それが大多数ならば、私はがん研究会を去って新しい生き方を考えるしかない。もちろん、そうでないことを願いたいが。

 

私はがん治療の現状は、「医療の根源的な患者さんのためにという理念・理想・人間愛」からは距離が大きくなってきていると感じている。これだけ医療が進歩している状況で、「希望を絶つマニュアル医療・プロトコール医療が正しい」と信じ、平然と絶望を告げるのは、「患者さんのための」医療という本質が変質しているのだと思う。科学的な素養があれば、今、頑張れば、半年後、1年後には治らない病気が治る可能性を否定できないはずだ。緩和ケアという医療があるというが、自分の連れ合い、親、兄弟、子供、孫が「死を待つしか」選択肢がないと言われて納得できるのだろうか。私なら、子供がそのような状況になっても絶対に座して死を待つことはしない。子供に希望を見出すことを諦めはしない。

 

Cell」という雑誌にゲノム解析を通して、グリオブラストーマに対して期待できる新しい治療薬が見つかったことが報告されていた。「がんの治癒率を上げ、治せないがんを治す」ための大きな国家プロジェクトを始めて欲しいものだ。ただし、番組では言わなかったが、中央集権体制の中央に理念がなければ、先見性がなければ、実行力がなければ、予算は砂に撒いた水と同じだ。できれば、がん研究会を競争相手に指名して、等分の予算をつけて競わしてほしいものだ。

運動量をウエアラブルな装置でモニター

台中での学会で、運動量(歩数)をスマートウオッチで計測した結果に関する発表があった。数十万人分ものデータで、まず、女性の方が男性よりも歩数が少ないこと、20-30歳代をピークに加齢とともに運動量が落ちること、ニューヨークなどの公共交通機関が発達している地域の方が、公共交通腫手段の少ない所よりも歩数の多いことを確認したとの説明があった。

 

日本・アメリカ・イギリス・サウジアラビアの比較では、日本の歩数が米英よりも多く、サウジアラビアでは最も少なかった。データが取られた地域で比較すると、赤道に近い国での歩数が少なかった。暑くて歩けないので、当然だと思った。そして、日本では個人間での歩数のばらつきが最も小さく、サウジアラビアではばらつきが非常に大きかった。ばらつきの多い国ほど肥満の人が多いようで、運動量の非常に少ない人口集団が多くなるからだろう。

 

運動量が少なく、肥満が多いのは、米国では社会的問題の一つであり、運動量を増やすための米国内でSNSを利用した呼びかけを試してみたとのことだった。前述のデータは何となく常識的なものだったが、SNSのネットワークでお互いに競うと運動量増加につながり、運動不足の解消に有効だったことは興味深かった。検証前から歩数の多かった集団での影響は10-20%増と限定的であったが。1日に2000歩くらいしか歩かなかった集団では2倍程度に増えていた。増えても、まだ、わずかに4000歩程度だが、この集団には効果的かもしれない。

 

そして、最も興味を引かれたのは、SNS集団の男女比だ。男性や女性の一方に偏った集団(男女比の大きい集団)では、歩数増につながる影響は少なく、男女比が1に近い集団では、歩数増により大きく影響したようだ。同性よりも、異性に対して頑張っているところを見せたいという心理が働くようだ。

 

そして、会場から、データ利用に関する同意の有無が確認されたが、演者は同意を得た上で、匿名化して利用していると返答していた。どの会社のデータであるかを明かさなかったが、病気の予防効果があるかどうかは全く分からないようだ。超高齢社会の日本でこそ、このような身近な運動量に関するビッグデータとそれを利用した健康管理が重要だと思う。医療の質を落とさず、医療費の増加を抑制するためには、病気を予防する、病気の重症化を防ぐことに重点を置くべきである。糖尿病なと、かかりつけ医による運動指導、血糖管理が合併症を防ぐためにきわめて重要だ。医療の現場では革命的な変革が急務である。

 

PS: ミーティング会場があまりにも寒くて、治りそうだった風邪が悪化してしまった。金曜日にはBSフジの午後8-10時の生番組に出演予定なので、それまでにはしっかりと回復しておかないと大変だ。生番組に出演することで、私の周辺の人たちはみんな口が滑らないかと心配している。一旦放送された言葉は取り消しがきかない。体調が良くても、挑発に乗って棘のある言葉が出てしまうので、皆さん、ハラハラしながらご覧ください。

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PARP阻害剤のBRCA1/BRCA2異常を持つ卵巣がんの顕著な増悪抑制効果

台湾の新幹線に初めて乗車して、台中にやってきた。迎えの車がどこにいるのかわからず、台中駅からタクシーでホテルにやってきたが約20分で1000円とお手頃だった。明日の朝10時から特別講演をする。羽田から台北の松山空港までは約3時間30分と沖縄に行くのとほとんど変わらない。空港まで、シカゴ大学にいた弟子が迎えに来てくれて、昼食を共にし、新幹線の駅まで送り届けてくれた。東アジア、東南アジアにはたくさんの弟子がいるので楽ちんだ。

 

台湾では100万人の患者試料を集めてゲノム解析を計画しているとのことだ。台湾バイオバンクは日本の東北メディカルバイオバンクと同様に一般住民を対象にして始めたが、十分な患者数が集まらず、批判が集まり、大幅に予算がカットされたとのことだ。そんなことは、2003年に私がバイオバンクジャパンを始めた時に議論したことで当然の帰結だ。日本では、震災対策の延長の延長で東北バンクをかばい続けるようだが、5年後には第2の「もんじゅ」になるのではと心配だ。

 

そして、移動中にNew England Journal of Medicine誌に発表された「Maintenance Olaparib in Patients with Newly Diagnosed Advanced Ovarian Cancer」という論文に目を通した。BRCA1/BRCA2遺伝子に異常をもつ卵巣がん患者(詳細な卵巣がんの種類は省略)388名が対象で、オラパニブ(PARP阻害剤;PARPDNA修復に関係する重要な遺伝子)の投与による増悪抑制効果を調べた臨床試験の結果を報告したものだ。

 

新たに診断されたステージ3-4の卵巣がん患者のうち、BRCA1/BRCA2に異常があり、プラチナ系の抗がん剤に対して完全の腫瘍が消えたか、縮小効果が認められた患者が対象だ。388名のうち、2名を除いては遺伝的なBRCA1/BRCA2の異常であった。260名がオラパニブ治療を受け、残りがコントロールだ。追跡期間の中央値が41ヶ月であった。追跡3年の時点での無再発期間はオラパニブ群60%に対して、コントロール群では27%と決定的で圧倒的な差が認められた(P<0,001)。

 

オラパニブ群では、この論文の調査期間内では、増悪した患者の割合はまだ50%に達していない。10年前、5年前のデータで、マニュアルに沿って余命を告げることが、倫理的なのが、道義的なことなのか、最近の医学の進歩を目の当たりにして改めて疑問を覚えた。国際的には、本気で「がんを治癒させる」ことを目指しているのだが、日本ではごく少数で、これを言うと冷たい視線が飛んでくる。患者の前で平然とがんを治せないと宣言する医師が、国を代表する機関で大きな顔をしていることが、日本のがん医療の病根だ。

 

医者が最初に希望を捨て、患者に希望を捨てることを強要するかのようながん医療体制を破壊することが、がん医療革命の始まりだ。