がんプレシジョン医療;入門-3

次に、がんの遺伝的要因について話を進めたい。日本では、十分な遺伝学教育、特に病気と遺伝子の関連性に関する教育、が欠けているため、がんの発症に決定的な役割を果たす因子(決定因子)とがん発症の確率をわずがに高める危険因子が混同されることが多い。専門家と称する人たちでも、この点が識別されていないことが多い。まず、決定因子の話から進める。

特定の遺伝子に変異があると非常に高い確率でがんを発症する疾患(決定因子による遺伝性がん)としては下記の例などが挙げられる。これらの原因遺伝子に異常があっても、家族性大腸腺腫症(ほほ100%の確率で大腸に多数のポリープが生ずる)を除いて100%の確率でがんを発症するわけではない。比較的確率が高いBRCA1/BRCA2異常の場合でも、生きている間に乳がん・卵巣がんを発症する割合(生涯リスク)は60-80%と推定されている。Cowden病の場合などは不明な点も多く、がんが発症する生涯リスクは10%程度と低い。ただし、75%前後が乳腺の良性疾患と診断されるとのことだ。

これらの遺伝子が見つかり始めた25年ほど前、「将来がんに罹ると診断するなどおぞましいことだ」と無知なコメントを発していたメディアが少なくなかった。医学・科学を理解しない、一面的かつ感傷的なコメントであった。そのような姿勢が今日に至るまで継続されていて、それが日本の医療のガラパゴス化を引き起こす一因になっている。

疾患名

原因遺伝子

がんができやすい部位

網膜芽細胞腫

RB1

網膜

Li-Fraumeni症候群

p53

骨軟部(脳・副腎など)

家族性大腸腺腫症

APC

大腸

遺伝性非腺腫性大腸がん

DNAミスマッチ修復遺伝子

(MLH1,MSH2,MSH6,PMS1,PMS2)

大腸・子宮(卵巣・胃など)

Wilms腫瘍

WT1

腎臓

家族性乳がん・卵巣がん

BRCA1,BRCA2

乳腺・卵巣

Von Hippel-Lindau病

VHL

腎臓(脳・副腎など)

多発性内分泌腫瘍症I型

MEN1

下垂体・膵臓(内分泌)・副甲状腺

多発性内分泌腫瘍症II型

RET

甲状腺・副腎

Cowden病

PTEN

乳腺・甲状腺・子宮など

遺伝性黒色腫

p16

皮膚(メラノサイト)

 

上記の疾患は、常染色体優性遺伝性の疾患である。もちろん、突然変異によって、両親には存在しない遺伝子変異が子供にだけ生ずることがあるのだが、親がこれらの遺伝子変異を持っていれば、50%の確率で子供に伝えられる(継承される)。遺伝子診断を受けるか、受けないかは、個人の自由だが、診断を受けて陰性であれば、精神的な負担から開放される。この点が全く理解されていない。陽性であれば、頻回に検査を受けることによって、がんで命を落とすことを回避できる可能性が高くなる。

生命倫理学者の中には、何か足らないことを批判することだけに生き甲斐を感じている人たちが少なくない。陽性と判断されれば、「いつ、がんが発症するかもしれないという精神的な負担が生ずる」ことは否定できない。これだけを強調して、「遺伝子診断は恐ろしい」と、さも自分たちこそ弱者の味方だというフリをする。しかし、優性遺伝である以上、親がその疾患に罹患していれば、子供は50%の確率で決定因子を受け継ぐのだ。この世に生まれてきた以上、「50%確率」という運命は変えられないのである。この現実を前提に、がんで命を落とさないためにと考えることはできないものなのか?もちろん、陰性にならば、「50%確率」という不安から解き放たれる。問題を提起した人たちは、陽性の方たちの精神的不安を和らげるための活動などをするわけでもないし、患者さんが抗がん剤治療で苦しんだ末に、がんで命を落としても、何の責任を取ってくれるわけでもない。無責任な評論家が人の命を軽視しているように思えてならない。

言うまでもないが、優性遺伝という現実を前提に、最終的に遺伝子診断を受けたくないという選択をする自由は確保されるべきである。

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がんプレシジョン医療;入門-2

親から子へ受け継がれる遺伝子多型で、がん治療に関係するものも当然ある。有効性に関連するものとしては、乳がんの治療薬タモキシフェンと薬剤代謝酵素CYP2D6がある。これに関する研究は、相対する研究結果が多数発表されたが、結果的には、質の悪い研究がいかに真実を捻じ曲げるかを明らかにした点で、科学史として残す価値があるくらいのものだ。(http://yusukenakamura.hatenablog.com/entry/2014/11/20/035013

乳がんの80%程度は、その細胞の増殖に女性ホルモンが重要な役割を果たしている。女性ホルモンがその受容体と結合すると、細胞が増殖(分裂)する命令を出す。タモキシフェンは、ホルモン受容体に結合して、受容体の有する増殖刺激を抑え込む性質を持っている。しかし、これだけでは、この薬剤の働く仕組みは十分ではない。患者さん自身の肝臓の中で、タモキシフェンが、CYP2D6という酵素によって変化を受けてエンドキシフェンと呼ばれる物質に変化を受けて(下図参照)、初めて薬剤としての効果を発揮する。タモキシフェンとエンドキシフェンでは、受容体に結合する力が100倍違う(エンドキシフェンのほうが高い)。

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したがって、エンドキシフェンを効率よく作ることができない患者さんは、タモキシフェンを服用しても効果が不十分となる。タモキシフェン治療だけを受けている乳がん患者さんで比較すると、この酵素の働きは低い/ない患者さんでは、死亡率が有意に高かった。私の研究室に在籍していた前佛均さん(現在、がん研究所プレシジョン医療研究センター)は、CYP2D6の機能が下がっている(と考えられる遺伝子型を持つ患者さんに対して全くない場合は難しい)、タモキシフェンの増量で対応できる結果を示しているが、このような情報は全く拡散されていない。少しの工夫で医療の質を上げることができると思うのだが、簡単なようで難しい(その理由は、「がんプレシジョン医療」シリーズの最後の方で話をしてみたい。1回に少しずつ書いているので、最後まで書き綴ると何回分になるのか、自分でもわからない。頭の中で整理している感じでは15-20回と言ったところか?もっとわかりやすい図を加えて、本として出版してくれる会社があればウエルカムだ)。

また、副作用と関連することで、すでに臨床応用されているのが、UGT1A1という酵素の遺伝子多型である。この酵素は。イリノテカン(抗がん剤)にグルクロン酸を付け加える働きがあり、それによってイリノテカンの働きを失わせる。したがって、この酵素の働きが弱ければ、イリノテカンは血液内で高いレベルで維持され(濃度が高くなり)、副作用が強く出てしまうのだ。このUGT1A1の働きが弱いと考えれれる遺伝子型を持つ患者さんへは、イリノテカンの投与は望ましくない。

「がんゲノム医療」では、がんで起こった体細胞変異(後天的にがん細胞で生じた遺伝子変化)に焦点が当たっているが、親から子へ受け継がれる遺伝子多型は、薬剤の効果や副作用に影響するし、もちろん、いろいろながんのリスクにも関連する。さらに、家族性乳がん・卵巣がん、遺伝性の大腸がん(家族性大腸腺腫症や線腫症を伴わない家族性大腸がん)などに代表される遺伝性のがんに病因となる遺伝子多型(遺伝子変異)も重要だ。

いずれにせよ、薬剤を投与した場合の患者さんは、効果・副作用によって下記の4群に分類される。もし、遺伝子情報だけでなく、いろいろな指標で効果や副作用がある程度の精度で予測できるなら

効果(+)副作用(-) 薬を投与すべき

効果(ー)副作用(-) 薬を投与すべきでない

効果(-)副作用(+) 薬を投与すべきでない

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の判断は非常に明確だ。毒性の強い抗がん剤の場合、効果(-)副作用(+)のケースも少なくなく、これが、何が何でも「抗がん剤拒否」という日本の異様な文化を醸成してきた。国の中核機関が、「抗がん剤は毒にしかならない」という一部医師の非科学的コメントに何の手も打たなかったことも、大きな要因の一つだ。

 

現実的には、多くの薬剤では、効果(+)副作用(+)の状況だ。このような場合、効果と副作用のレベルは個人差があるので、一概に判断を下すことができない。効果が副作用より大きいなら、投与した方がいいのであろうが、効果/副作用の比が重要だ。代わりとなる薬剤があるかないかによっても、この判断は変わってくる。プレシジョン医療の最終的な目標は、個々の患者さんに対して、この効果/副作用比を予測するシステムの構築と、それの臨床現場での実用化である。

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一部の医師や研究者が最重要視している臨床試験で得られた「エビデンス」の大半は、薬を投与したグループと薬剤を投与しなかった(別の薬剤を投与された)グループの比較である。「個」を重要視しているプレシジョン医療の時代には、彼らの信ずる「ランダム化比較試験」の概念だけでは通用しないのである。

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がんプレシジョン医療;入門-1

「プレシジョン医療」という言葉は、オバマ前米国大統領が2015年の一般教書演説で、「プレシジョン医療イニシアチブ」を提案したことから、広く利用されることになった。オバマ氏の発言を借りて、「プレシジョン医療」のゴールを説明すると、「the right treatments at the right time, every time, to the right person」(必要な患者に、必要な時にいつでも、必要な治療法を)となり、私が1996年に提唱した「オーダーメイド医療」にほぼ重なる意味合いを持つ。

このイニシアチブの背景は“Doctors have always recognized that every patient is unique, and doctors have always tried to tailor their treatments as best they can to individuals. You can match a blood transfusion to a blood type — that was an important discovery. What if matching a cancer cure to our genetic code was just as easy, just as standard? What if figuring out the right dose of medicine was as simple as taking our temperature?”という素朴な質問から始まる。

私の意訳では「医師は個々の患者さんの違いを認識してきたし、それぞれの患者さんに最適の治療を提供しようとし続けてきた。輸血する時には、血液型を調べる必要があることは、偉大な発見だった。どうして、がんを治癒するために、遺伝子情報を簡単に利用することができないのか?どうして、最適の薬剤量を見つけることが、体温を測るように単純にできないのか?」となる。薬を選ぶことが、血液型判定や体温測定のように簡便にでき、すべての患者さんが容易にアクセスできることを目指すプロジェクトだ。

 個人個人の生まれ持った遺伝的特徴やがん細胞などで生じた遺伝子異常情報に基づいて、より安全に、より効率的に薬剤の利用を図るものである。生まれ持った遺伝的な特徴を、われわれは、「私は……体質」、「私はこの薬は苦手」、「私の家族は……に罹りやすい家系」などと認識し、表現している、生まれ持った遺伝的特徴は、遺伝子多型という科学で説明することができる。身長や目の色などの特徴に関連する多数の遺伝子もすでに見つかっている。私は、20年前以上前に、このような遺伝子多型情報を、医学的には副作用などの回避につなげることが可能と思っていた。そして、20年間で、多くの薬剤の効果や副作用に関連する遺伝子情報が明らかにされている。米国医薬品食品局(FDA)は、ウエブページ上に数百に上る「薬剤使用時のバイオマーカー」っを「Table of Pharmacogenomic Biomarkers in Drug Labeling」として公開している。https://www.fda.gov/Drugs/ScienceResearch/ucm572698.htm (がん細胞などで生ずる後天的な遺伝子変化も含まれている)。 

がんの話題から少し外れるが、スティーブンス・ジョンソン症候群と呼ばれる薬疹(薬の服用がきっかけとなって、皮膚や色々な部位の粘膜などにアレルギー症状の副作用が起こるもの)の原因は、20年前にはまったくわからなかった。まさしく、原因不明の難病であった。しかし、今では、特定の薬剤と特定のHLA(白血球型抗原)の組み合わせが原因で、自己免疫反応を起こすことが明らかになっている。下記に示した薬剤を、右に示したHLAを持つ患者さんに投与すると、非常に高い確率でスティーブンス・ジョンソン症候群を含む重症型の薬疹が発症し、一部の患者さんは致死的な状況に至る。

アバカビル

抗HIV薬

HLA-B*5701

カルバマゼピン

てんかん治療薬

HLA-A*3101

カルバマゼピン

てんかん治療薬

HLA-B*1502

オクスカルバゼピン

てんかん治療薬

HLA-B*1502

フェニトイン

てんかん治療薬

HLA-B*1502

ネビラピン

抗HIV薬

HLA-B*3505

アロプリノール

痛風(高尿酸血症)治療薬

HLA-B*5801

フェノバルビタール

てんかん治療薬

HLA-B*5101

 

などがある。一般に市販されている解熱鎮痛剤により生ずる薬疹の候補HLA因子も見つかっている(上の5個に関してはすでに米国FDAのリストに掲載されている)。

このうち、カルマバゼピン(HLA-A*3101)やネビラピンとHLAとの関係については、われわれは報告したものである。台湾やタイでは、薬剤投与前の遺伝子レベルでの検査が行われている。薬疹に関する遺伝性を示すデータはほとんどないが、これは同じ薬剤が20-30年以上の長期間利用され、親子で同じ病気に罹患し、同じ薬剤を服用したケースが少ないからである。「私は親子で起こった例など見たことがないので、遺伝的であるはずがない」とうそぶく医師もいるが、単に科学的考察力が足りないだけだ。HLAは親から子へと50%の確率で受け継がれること、今後、長期間生き残っていく薬剤が増えてくるので、重篤な副作用を回避するためにも、これらの常識は医療関係者や一般の方が共有することが重要だ。このような知識は、絶対的に学校教育の場で教えていくべきであると思う。

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早とちりの大失敗;「魚釣島」と「釣魚島」

―昨日、時事通信のニュースを見て、日本名の魚釣島を、中国名(釣魚島)と早とちりし、下記の批判を書いてしまった。正直なところ、日本名で魚釣島があると思わなかった。「魚」と「釣」とあると反射的に中国名と思い込んで、毒づいてしまったのだ。ブログに投稿直後、ある方から指摘され、ブログ記事をすぐに削除した。お酒も入り、眠くて、意識レベルがかなり下がっていたので、本来はお詫びと訂正を明記すべきだったが、頭が働かず、とにかく削除することにした。昨日はいろいろと時間を取られ、このブログを書く時間的な余裕がなかった。こんな早とちりに不安があるので、ツイッターはしないことにしているのだが、思わずやってしまった。記事を書かれた記者の方、時事通信社、1時間弱公開していた間に記事を読まれた方、申し訳ありませんでした。

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時事通信のニュースで「沖縄県石垣市の尖閣諸島沖で15日、中国海警局の「海警」3隻が日本の領海に侵入した。(中略)午前10時15~25分ごろ、魚釣島北北西の領海に侵入した」とあった。

「魚釣島北北西の領海に侵入」??????

いつから、日本で「魚釣島」と呼ぶようになったのだ。

いったい、どこの国の人間だ!

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言い訳にしかならないが、「魚釣島」(日本名)と「釣魚島」(中国名)とは、複雑だ。しかし、私が馬鹿だった。「尖閣列島」=中国での呼び名「釣魚島」としか頭になかった。自分の知識が欠けていたと反省だ。日中関係が少し雪解けかと思っていたら、中国の潜水艦が接続水域に侵入したとあったので、過敏に反応してしまった。

それにしても、日中・日韓の関係はあまりにも脆く、危険な状態になっている。中国はこんな国だと思って納得するしかないが、日本国内で湧き上がる嫌韓感情は如何ともしがたいものがある。そして、悲しくもある。朝日新聞が慰安婦に関わる記事の捏造を認めてから、「慰安婦」問題には、うんざりであるとの気持ちが強くなってきているように思う。私のように高齢者と分類されるようになった世代でも直接関与しているわけでもなく、今の30歳くらいから下の世代にとっては、祖父・曽祖父の時代の出来事だ。特に若い世代にとっては、2-3世代前のことに対する繰り返しの謝罪請求には、反感が多くても当然だと思う。私は、この問題が蒸し返される度に、「慰安婦」という環境に置かれた女性たちに申し訳けない気持ちから、日本は謝罪と補償をすべきであると考えていた。そして、「最終的かつ不可逆的に解決した」と聞いたときには安堵したものだ。

しかし、今回の韓国政権の立場は、こんな私でも限界を超えるものがある。日本人の大半が戦争を知らない世代となった今、今回の蒸し返しには、さすがに「もう、いいや」という雰囲気が漂って当然だ。読売新聞の世論調査では、83%の人が、「韓国政府からの追加要求には応じないとする日本政府の方針を支持する」と答えたそうだ。さもありなんだ。韓ブームで両国間の関係が良くなったにもかかわらず、このようになってしまったのは残念だ。

私の周辺の韓国人の人たちは、礼儀正しく、勤勉で、誠実な人たちばかりで、日本大好きであるので、どうしてこのような状況になるのか不思議でならない。もう一度韓ブームのような日韓関係に戻る日を願って、彼らとの接点を広げていくしかない。これからも、韓国の人たちや韓国の企業と一緒に、がん患者さんのために共同研究・共同事業をやっていきたい。地道にお互いを理解していくしか、道は開けない。

そして、遺伝学的には日韓は非常に近いのだ。

がん予防は可能か?ガラパゴス的「日本の禁煙・ワクチン」施策

「CA Cancer Journal for Clinicians」誌のオンライン版で「Proportion and Number of Cancer Cases and Deaths Attributable to Potentially Modifiable Risk Factors in the United States」というタイトルの論文が公表された。日本語で意訳すると「人為的に減らす可能性がある危険因子が関与する、がんの発症数や死亡数とその割合(米国)」といったところか?生活要因やウイルス感染症などが、がんリスクに関わることはよく知られているが、この論文は、それぞれの要因のがん死亡への寄与度を数字で示したものだ。

 

改善することのできるがん関連リスク因子(米国、30歳以上のケースで推測)

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とあった。

 

米国のがんによる死亡数は約60万人であり、禁煙対策や肥満対策で多くのがん死を減らすことができる可能性がある。正確な表現ではないが、この表からは、喫煙をなくすと、がんの死亡数を25%、肥満予防で6.5%減らすことができる可能性があるということだ。今でも、喫煙の影響を否定する人たちがいるが、科学の世界では絶対に受け入れられない話だ。「喫煙や飲酒は欠かせない、野菜は大嫌いだ、運動したくない」は、もちろんそれぞれの自由だが、喫煙や過度の飲酒ががんリスクを高めている科学的事実は否定できない。利権が科学的事実を歪めることがあってはならない。

 

そして、日本として大きな問題は、パピローマウイルス(HPV)感染予防だ。HPV感染症は、子宮頸がんだけでなく、頭頚部がんにも関連している。この観点から、女性だけでなく、男性にもワクチン接種を勧める動きがある。先進国では例外的に日本だけが、子宮頸がんワクチン接種が足踏み状態にある。原因は明白で、科学的な根拠ではなく、情緒的煽動で、必要な施策が捻じ曲げられているからだ。いつもエビデンスが重要だと言っている国立がん研究センターは、この問題には頰被りのようだ。10-20年後、日本だけが子宮頸がんによる死亡数が高止まりした場合、誰が責任を取るのか?科学的素養に欠けるメディアか、役所か、それとも、国立がんセンターか?

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エイズに罹るサル・罹らないサル;どこが違うのか?

今朝は気温が久々にマイナス一桁台となり、歩いて通勤した。先週は完全防備していても2-3分歩くだけで体の芯まで冷え込む気候だったが、10度上昇すると体感的には全く違う世界だ。日中も、零度を超えて4度まで上昇した。この気温で暖かく感ずるのだから、人間というのは不思議な動物だ。木曜日には14度まで上昇し、過去最高気温記録(11度)を更新する予報がでている。体にも優しい気温となる。

1月4日号のNature誌に「Sooty mangabey genome sequence provides insight into AIDS resistance in a natural SIV host」(自然界に存在するサル免疫不全症ウイルス抵抗性を尾長ザル(?)のゲノム解析から考察する)というタイトルの論文が掲載されていた。「Sooty mangabey」をどのように訳せばいいのかよくわからないが、どうも尾長ザルの一種のようだ。SIVSimian immunodeficiency virusの略で、サルにエイズを引き起こすウイルスだ(人でエイズを起こすウイルスはHIV)。しかし、この尾長ザルでは、ウイルス感染症は起こすのだが、エイズの症状には至らない。

そこで、研究者たちは、エイズを発症するサルと発症しないサルのゲノム配列を比較して、エイズに対する抵抗性に関連する遺伝子を見つけようとしたのである。そして、免疫に関与する分子のうち、細胞接着に関連するICAM2と自然免疫に関連するTLR4という二つの分子が、エイズを発症する人やサルと、エイズを発症しない尾長ザルで異なっていることを見いだした。ICAM2は細胞の表面出でていてリンパ球が動き回ったり、どこかに入り込んでいくことに重要な役割をしているようだが、調べられた尾長ザルでは重要な部分が違っているために細胞の表面に出て行けないようだ。それが、どのようにエイズの発症にかかわっているのか不明だが、これらの差が発症に重要な鍵となっているなら、それを手懸りに新薬の開発につなげることができるだろう。

人ではすでに、CCR5という遺伝子が作るタンパク質が、HIVが細胞の中に入り込むために重要であることが証明されている。HIV感染リスクが高いにも関わらず、感染症を起こさなかった人に共通する遺伝子多型を調べた結果、CCR5遺伝子多型が発見され、これを手懸りに新しいHIV薬剤が開発されたのである。HIVに限らず、ウイルスはウイルスの持っている遺伝子(ゲノム)が作り出すタンパク質だけでは増殖できない。したがって、ウイルスが増えていくためには、細胞内に入り込むことが不可欠である。HIVCCR5タンパクにくっつくことによって細胞内に入り込むのであるが、このCCR5遺伝子多型によって作られたCCR5タンパク質はHIVと結合する性質をなくしているため、HIVウイルスが細胞内に入り込めないのだ。

そして、ウイルスは、単に細胞内に存在している道具や材料を、ひっそりと無断借用して自らを増やしていくだけでなく、ウイルスが細胞内に入ることによって、ウイルスの増殖に必要な道具を感染した細胞内で作らせるための刺激を起こすようだ。その道具の一つとしてMELKという分子が重要であるらしいことが、「Molecular Cellular Proteomics」誌の4月号(2017年)の「Kinome Profiling Identifies Druggable Targets for Novel Human Cytomegalovirus (HCMV)」と言う論文に公表されていた。私はこの論文には全く気づかず、昨年末に、共同研究者から教えられ、初めて知った。MELKはがん幹細胞に重要だと考えて十年以上前から研究に取り組み、オンコセラピー・サイエンス社が低分子阻害剤を開発、そして現在、白血病や乳がんを対象に治験を行っている。論文には、サイトメガロウイルス(cytomegalovirus)感染後24時間で、細胞内のMELKの発現は非常に大きく上がっているようだ。しかも、このMELK阻害剤によって、ウイルスの増殖は劇的に抑えられている。

 

妊娠初期にサイトメガロウイルス感染症が起こると、胎児にいろいろな生育障害が生じるし、骨髄移植後の強力な免疫抑制下でのサイトメガロウイルス感染症は時として致死的となる。後者に対しては新薬の開発が進んでいるが、われわれの阻害剤も、役に立つかもしれない。

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米国の行き過ぎた分業化による個人の無責任さ:私の2時間を返せ!

今日はコメディータッチで。

1年間の体の疲れをとり、気持ちをリフレッシュするために、12月25日から30日までマイアミビーチに行っていた。予約をした際には想像もできなかった厳寒のシカゴを少しでも回避できたのは幸いであった。最高気温27-28度で、真夏のミシガン湖より水温は高く、海で泳ぐことができた。おそらく、もう、2度と来る機会もないので、フロリダ半島の先端に続く島々の最先端にあるKey Westまで行くつもりで、レンタカーを予約しておいた。最先端まで約250キロであり、ハイウエイとそれに続く一本道(島々が橋でつながっている)を行けば3-4時間弱で先端までいけるはずだ(った)

しかし、しかしだ。午前9時20分に予約したレンタカー事務所に行ったが(予約時間は9時30分)、駐車場に全く車はなく、約10組くらいが待っており、事務所には険悪な雰囲気が漂っていた。しばらくして、オーバーブッキングで予約した車が手配できていないことがわかった。早い人は午前8時の予約だが、9時半でも車が手配できていないようだ。受付嬢が「少し待てば来る」と言ったが、待てど暮らせど車は来ない。まさに、蕎麦屋の出前だ。途中で怒って「もう要らない」と帰って行った人もいた。日本では考えられない、信じ難い光景である。ロシア人らしい女性は、受付嬢の言い訳を聞くたびに「ジーザス!」と声をあげていたが、ないものはない。神も仏もなく、あるのは分業化に伴う、カスタマーに対する無責任さだけだ。日本なら「申し訳ありません」の一言でもあるところだが、分業体制が極端に進んだこの国では、自分に関係ないことは知らんぷりだ。車が無いのは、彼女たちの責任ではないと割り切っている。そういえば、レストランでも、自分で皿をひっくり返したにも関わらず、「アクシデントが起こった」と他人事のように言い訳していた婦人がいた。そうしなければ、この国では生きていけないのだろうか?

話を戻すと、昔の私なら30分で怒りをぶちまけて「もういい!!」と帰ったところだが、歳を取ることは怒る気力をなくさせるものだ。米国の「Wait a minute」が「あと数時間まで含んでいる」ことを学んだこともある。激しい文句でも言おうものなら、某航空会社のように、ガードマンに力づくで事務所から追い出されるかもしれない。そして、「もう少し」を20回くらい聞いた午前11時になって、ピックアップトラックならすぐ手配できると言われた。もうヤケクソで「何でもいいから」と言ったところ、11時15分になってようやく車に乗ることができた。しかし、あまりの大きさに仰天だ!フォードF350というピックアップトラックだった。運転席に座った途端、後悔の念が湧き上がってきた。予約していた車とは、軽自動車とミニバン、駆逐艦と空母くらいの差だ。でも、ここでこの車は嫌だと言えば、あと何時間待たされるかわからない。予約など無効に等しいこの国のあり方は絶対におかしい。レストランを予約していても30分くらい待たされたことがある。飛行機など、オーバーブッキングで「300ドルで」「500ドルで」次の便はどうかとアナウンスしている場面は日常の光景なのだから。

気を取り直して、手足に力を入れて、ナビを見ながら目的地に向かったが、隣の車と接触しそうで恐る恐るの運転だ。市内を抜け、Key Westにつながる州道1号線に入ったが、渋滞につぐ渋滞で、目的地の半分まで行ったところですでに3時間以上かかって、目的地まで行くことは断念。しかも、ガソリンメーターは恐ろしい速さで「E」に向かって減っていく。しかし、島と島をつなぐ端から見る景色は美しかった。シカゴにはない、南国の雰囲気を十二分に楽しんだ、と言いたいところだが、運転に気を取られて、それどころではなかったのが本心だ。翌日は前腕部の筋肉が痛がったが、よほど力が入っていたのだろう。

レンタカーを午後5時過ぎに返しに行ったところ、受付嬢が「無事でよかった!」と一言。心の中で「それはどういう意味や。こんな大きな車しかないと言って押し付けておいて、何がよかったんや!」と心で叫ぶが、そこは大人だから声には出さない。そして、受付嬢が唐突に「あなたにこの会社のことを満足して欲しいので30ドル引きでどうだ」と申し出た。あまりに急なことなので返答を躊躇していたところ、「では、90ドルを40ドル引きで、50ドルでどうか」と言ったので、反射的にOKと返事してしまった。2時間も待たされたので、私のイライラの時給は20ドルの計算だ???「この会社を次に使う時は、米国内のどこでも20%引きにする」と微笑みながら付け加えたが、「アホか!二度とこんな会社使うかい!」と心の中で毒づいた!もちろん、私もニコッとしながら、「Thank you !」と返事した。

まあ、これが米国だと思っていたが、おまけがあった。クレジットの明細を見てびっくり。まったくディスカウントなく、90ドルが請求されていた。このレンタカー会社の名前は「En・・・・・・」。皆さん、メモしておいて下さい。それにしても、年末の休暇は鬼門だ。

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