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真珠湾攻撃から75年+意味不明の禁煙関連記事

真珠湾攻撃から75年を迎え、私は、また一つ、齢を重ねる。安倍総理とオバマ大統領が、月末に真珠湾を訪れるとのニュースは衝撃的だった。オバマ大統領の広島訪問の返礼として、安倍総理がハワイを訪問するとの噂はあったが、トランプ氏と会談したことで、もはや、真珠湾訪問はないと考えていたので、意外だった。賛否両論あるようだが、「長い戦後」に区切りをつける意味では、その意義は大きいと思う。私は、物心ついた時から、誕生日を迎えるたびに「真珠湾攻撃の日」「太平洋戦争」を強く意識してきた。米国側からの視点、日本側からの視点、この攻撃に対してはいろいろな考え・想いがあるだろうが、この戦争に関わった人が非常に少なくなってきた今、過去に一区切りをつけて欲しいと願っている。歴史から学び、悲惨な戦争を繰り返さない術を身につける必要はあるが、今の若い人たちに、悲惨な出来事の罪を背負わせるべきではないと思う。この日の誕生日ゆえ、太平洋戦争について考える機会・時間が他の人よりは多かったので、若い人たちには未来志向で、日米間に強い絆を構築していって欲しい。もちろん、アジア諸国を含め、世界中の国と絆を深めて欲しいと願っている。

と、重い話題になったので、軽い話題に移したい。産経新聞に「兵庫県西宮市の兵庫医科大病院で、敷地内や周辺は全面禁煙と決められているのに、30代の男性医師が禁止区域の病院前の公道で喫煙していたことが6日、病院への取材で分かった。病院は医師の処分を検討している。厚生労働省近畿厚生局兵庫事務所や病院によると、病院には禁煙外来があり、敷地内の全面禁煙を条件に禁煙治療の診療報酬が支払われている。病院は6日、同事務所や保健所など関係機関に報告。条件に違反すると報酬返還となる可能性があるため、同事務所と協議する」とあった。

まことに不可解な記事だ。大学病院は敷地内での禁煙規定策定と、職員や訪問者に対してそれに倣うようにする事は可能だ。しかし、記事には「禁止区域の病院の公道で喫煙していた」とある。禁止区域が「病院だけ」なのか、「公道」にも及ぶのかは不明だ。意識的に曖昧にしているのかとさえ思ってしまう。しかし、常識的には、病院の権限が、病院の前の「公道」に及ぶはずがない。西宮市が条例で禁煙区域として定めていれば、それに違反するだろうが、それでも大学の禁煙規定とは無関係だ。敷地外で、喫煙していたことに対して、大学が文句を言う筋合いではない。職員であれ、一般の人であれ、公道でタバコを吸うことに対して、病院にはそれを禁止する権限などあるはずがない。職員が敷地外でたばこを吸おうが、それ自体は本人の自由意志である。勤務を終わって、敷地の外に一歩でも出れば、吸って悪いはずがない。

勤務時間内に敷地外でサボっているなら、勤務規定違反になるかもしれないが、休憩時間なら、何が問題なのかさっぱりわからない。これを「禁煙外来」とは関係づけるには無理がある。大学内の敷地内禁煙規定が、公道での禁煙規定として拡大解釈できるとは思えないのだ。どのような根拠で、どのように医師の処分を検討しているのか、興味深い。禁煙治療に対する診療報酬を巡って、大学側が神経質になっているのだろうが、何がどのように問題なのか、全く判然としない記事だ。

正直、この医師には同情を禁じえない。私は禁煙推進派だが、この医師は気を遣って、外で吸っているのだから、ちょっとくらいの息抜きくらいいいのではないかと思う。本当に世知辛い世の中になったものだ。こんなことで厚生労働省が協議するのも、税金の無駄だと思うのだが。

まあ、こんなことでブログを書く私も、これを読む読者も時間の無駄かも???

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「プレシジョンメディシン」の誤解・幻想

先週までの暖かな気候が終わりを告げ、今朝は眼下に銀世界が広がっていた。一部の木々に残っていた黄色い葉も、重い雪と風でほとんど散ってしまった。来週の半ばにはマイナス20度近くまで下がるとの予報が出ている。いよいよ本格的な冬の始まりだ。

今日は改めて、「プレシジョンメディシン」について語ってみたい。言葉自体の意味があまりよく理解されていないようで、オーダーメイド医療という言葉と同じように捉えている人が多いようだ。それに加えて、NHKスペシャルが大きな誤解を生じさせ、日本の医療現場は困っているようだ。少し前にも触れたが、日本のメディアのリテラシーの低さがこのスペシャル番組には「てんこもり」だ。がん分野では大きな変革が起こりつつあるのは事実だ。しかし、日米のがん医療環境、ゲノム情報を利用できる環境は大きく異なっている。しかも、人工知能の正体も知らずに、視聴者に伝えるから、たちが悪い。国全体の科学リテラシーの課題だと思うが、病気に例えると、かなり重篤な症状だ。

私は、日本ではゲノム情報の利用を推進する立場にいたので、ゲノム医療に関して、いくつかの重要な提案をしてきた。特に、新しい情報を医療現場で利用するためには、専門家だけでなく、一般方々の理解が必要だと訴えてきた。それには、メディアの協力が不可欠だが、番組を作り、記事を書く人たちの基本的知識量が欠けているために、情報が不正確で、医療現場の実態と乖離しているため、誤解・幻想を生み出す。今でも、それはほとんど改善されていない。

そして、ゲノム情報という究極の個人情報を保護するためには、罰則規定が必要であり、米国のような「遺伝子差別禁止法」の成立を図る必要がある。遺伝子情報自体が差別を生み出すのではなく、われわれの心に潜んでる差別する心が、遺伝子情報を悪用することを防ぐ措置が必要である。何もしないでいると、結婚差別・就職差別につながるリスクは大きい。性善説では無理なのである。たとえば、心の病の確率が1.3倍などの医学的価値の全くない情報に振り回されてはたまったものではない。氾濫する情報の中には、詐欺師や悪人が潜んでいる。しっかりと多様性を認め合う教育と、厳罰主義で遺伝子情報の悪用の抑制を図ることは、国の責任であると思う。

この番組では米国での取り組みをもとに、一部の日本での例を紹介した。全容を理解していない人たちが、幻想を作り出したのだ。米国と日本の医療現場での大きな差を知らない一般の方に、日本でも簡単にプレシジョン医療ができ、新薬の治療を受けることができるかのような印象を与えてしまったのは大きな問題だ。そもそも、日米での新薬・新適応の臨床試験数が桁外れに異なっていることが考慮されていない。アクセス可能な治療薬数や臨床試験数が大きく異なるのだ。

米国で承認され、日本では保健適応でない薬剤に関しては、個人輸入という形で、アクセス可能だが、薬剤費は全額患者さんの負担になるし、白衣を着た詐欺師たちが、がんのことも薬剤のリスクも知らないままに利用している実態をどのように考えているのか?この番組の影響で、遺伝子診断を受け、個人輸入をした患者に重篤な副作用が出た場合、どのように責任を負うのか?経済的な負担で、所得によって受ける医療に差が生ずることをどうするのか?是非、答えて欲しいものだ。さらに、米国においてのみ、臨床試験が行われている場合、患者さんはどのようにアクセスすべきなのかも、是非、答えを提示して欲しい。とにかく、実態を知らない、上滑りの情報提供なのだ。

日本には、バラエティーのような医療番組が多いが、もっと科学的な情報をしっかりと伝えない限り、日本が世界の医療をリードすることは、絶対にありえないと思う。医学に限らず、科学全体に対する教育のレベルがあまりにも差がありすぎる。人工知能と言っても、ピンからキリまで玉石混交で、単なるパソコン遊びを人工知能と称している人たちがあまりにも多すぎる。今回の番組でも、人工知能を力説していたが、限られた数の分子標的治療薬を探すには、家庭用のパソコン程度でも十分に対応可能なのだ。番組の作り手が幼稚すぎるのだ。薄っぺらに物事を見るのではなく、十分に知識を身につけ、目の前の事象を注意深く観察し、プラスの側面、マイナスの側面を評価し、プラスを最大限にして、マイナスを最小限にする方策まで考察すべきではなかろうか?

日本でもっと臨床試験を支援する予算を組み、世界で最先端の薬剤に患者さんがアクセスできる環境を作ること、そして、それらの薬剤に「日の丸」印をつけるためにどうすればいいのか?もっと広い視野をもってもらいたいと願っている。99%は無理だとわかっているが、1%の望みを託したい!

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卵巣がん増悪予防にPARP阻害剤!?

現在、外気温は1度。明日の朝は、今秋(季節的には、もう冬だが)初めて氷点下になりそうだ。気温が冷え込む中、心も凍てつきそうな事件が起こった。我が家から直線距離で150メートルほどの公園で、射殺事件がおきた。頻繁に通っている日本料理店からは、50メートルもない。しかも、事件が起こったのが午後3時少し前だ。さすがにシカゴでも、まだ明るい時間帯である。大学から事件のメールが送られてきたのだが、被害者は大学関係者ではないものの、頭を撃ち抜かれて、その場で死亡が確認されたそうだ。歩いて帰宅するつもりだったが、気が萎えてバスを利用した。現場近くを通りかかった際、5台くらいのパトカーの灯りが見えたが、寒々とするような青い光が目に焼き付いた。犯行動機は、まだ不明だそうだが、まるで、CSIの世界に迷い込んだような感じがした。

 

と、暗い話はこのくらいにして、卵巣がんの再発予防について話をする。今週号のNew England Journal of Medicine誌に、PARP阻害剤が卵巣がんの増悪抑制効果があるという論文が掲載されていた。対象患者は、化学療法(プラチナ製剤)で効果のあった再発卵巣がん患者553名だ。化学療法が終了後に、PARP阻害剤を投与した群と偽薬を投与した群を比較した結果だ(化学療法が無効であった患者は参加できない)。遺伝的に遺伝性乳がん(卵巣がん)遺伝子BRCA1/2に異常を持つ患者とそうでない患者で分けて検証いるので、下記の4つの群で比較されている。

 

遺伝的にBRCA1/2遺伝子のある患者 203

A.  PARP阻害剤投与群 138

B.  偽薬投与群 65

 

遺伝的なBRCA1/2遺伝子異常のない患者 350

C.  PARP阻害剤投与群 234

D.  偽薬投与群 116

 

A群とB群の無増悪期間中央値は21.0ヵ月対5.5ヶ月、C群とD群では9.3ヶ月対3.9ヶ月であった。BRCA遺伝子異常の有無にかかわらず、明らかな効果があるが、遺伝性乳がん・卵巣がん患者群(遺伝的BRCA遺伝子異常群)の方が、効果がより顕著だ。PARPDNAの修復に重要な役割を果たす分子であり、BRCA遺伝子はDNAの修復に関与する。がん細胞は早く分裂するので、DNAの複製時のエラーの発生頻度が高く、エラーが修復できないと細胞にとって致命的となる。したがって、BRCA遺伝子に異常がある卵巣がんにPARP阻害剤を投与すると、致命的なDNA複製エラーを起こしやすく、これががん細胞死につながり、より効果があるようだ。

 

しかし、興味深いのは、遺伝的BRCA遺伝子異常なし群を、がん細胞での後天的な相同組み換え機能低下homologous recombination deficiency=HRD、DNA修復異常の一つのタイプ)を測定して、このHRD陽性群を調べた結果だ。HRDを調べる方法の詳細については省くが、ユタ州にあるMyriad社が提唱している方法で、この検査法自体も臨床試験中だ。簡単に言うと、HRD陽性群はDNA修復の能力が低下しており、後天的にDNA修復機能が落ちていると想定される。

 

C群とD群のうちの、HRD陽性群での比較では、無増悪期間中央値12.9ヶ月対3.8ヶ月であった。遺伝的なBRCA異常群ほどではないが、C群とD群の単純な比較よりも差が大きくなる。DNA修復機能に異常のあるがんに焦点を当てると、PARP阻害剤はある程度効果が期待できるようだ。もちろん、生存期間がどの程度伸びるのかというデータ待つ必要があるが。

 

しかし、課題は副作用だ。早く分裂する細胞ではDNA複製エラーのリスクが高くなる。したがって、DNA複製エラーを修復するPARPの働きは重要だ。予想通り、細胞分裂が速い造血細胞系への毒性はかなり強い。PARP阻害剤治療群の約3人に一人がグレード3・4の血小板減少症、約4人に一人がグレード3・4の貧血、約5人に一人がグレード3・4の好中球減少症を起こした。12人に一人が重篤な全身倦怠と高血圧だ。これでは、分子標的治療薬というよりも、毒性の強い抗がん剤に近いような気がしてくる。

 

しかし、当初は期待外れと思われたPARP阻害剤が、DNA修復能の低下したがんを対象に、その威力を示しつつある。治療薬開発も、診断薬開発も、日々の日米の差は開くばかりだ。心がもっと寒々としてきた。

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“21st Century Cares Act”;医療イノベーションの加速か、患者の危険増大か?

オバマ政権からトランプ政権へと、政権交代の狭間にあるにもかかわらず、医療に関連する重要法案の採否が検討されつつある。法案の名は「21st Century Cares Act」(21世紀ケア法案)で、名称からは内容がわかりにくい。米国臨床腫瘍学会や大学関係者から、この法案の通過を支援するようなメールが送られてきた。法案そのものを読んではいないが、メールやニュースから推し量ると、バイオメディカル研究の推進を図ること、医薬品や医療機器の治験手続きを改革(簡略化?)することなどが盛り込まれているようだ。

一般的に共和党政権下では、米国NIH予算は絞り込まれる方向にあるのだが、共和党から提案されたこの法案が成立すると、NIH予算を増やし、オバマ大統領が提案した「Precision Medicine Initiative」やバイデン副大統領主導の「Moonshot」計画を政権交代後も後押しする結果になるかもしれない。認知症研究の推進も含まれており、トランプ次期大統領は、認知症研究を優先課題に挙げていた。

米国臨床腫瘍学会が強調している、この法案によってもたらされるであろう変化は、

(1)電子カルテに対するアクセスをもっと広げて、治療や研究の円滑化を図ること(2)がん研究や治療開発推進につながる、NIHや医薬品食品局(FDA)の予算の拡大(3)研究審査や治験審査の中央集約化による臨床試験の加速化とデータ標準化の促進(4)患者の声を薬剤開発につなげることや、患者の経験を生かしたリスク-ベネフィットの解析への活用

などである。一方、民主党大統領予備選挙で最後まで残ったバーニー・サンダース議員などは、治験のハードルを下げることによって患者さんを危険に晒し、企業が儲けるのを手助けするだけだ、と言って反対している。

がんの分子標的治療薬開発に際しては、対象となる患者さんの数が限定されることになる。また、いわゆる稀少がんの場合、これまでのランダム化試験を行うと、治験期間が非常に長くなるし、それに伴って治験費用が大きく膨らむ。これが、医薬品の高騰化として跳ね返ってくる。ましてや、第1相試験で、これまでは何の治療法もなかった患者群の10例中2-3例で顕著な効果があった場合、コントロール群として何の治療もしない群を設置して第2相や第3相臨床試験を実施することが、科学的に、倫理的に妥当かなど、やはり考え直さないといけない点だ。

このブログでも何度か触れているが、健康な人のがんの新薬に対する「リスク・ベネフィット比」は、治療法がなく、命が限られたがん患者さんやその家族の「リスク・ベネフィット比」とは相当違っているのだ。私は悲痛な患者さんや家族の思いを数え切れないくらい耳にしてきた。

実は、日曜日にダウンタウンを歩いている時に、2年近く前に、シカゴ大学に治験を受けに来たが、治験を受けることができずに失意のまま帰国した日本人患者とそのお嬢さんが滞在していたマンションの前を通りかかった。(http://yusukenakamura.hatenablog.com/entry/2014/07/31/124757

あの時の何とも言えない、自分の無力さが脳裏を過ぎる。そして、がん研究者、特に若い研究者に、患者さんや家族の声をもっともっと聞いて欲しいと願う。

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公共の利益と個人の不利益、科学と情緒のバランス

米国臨床腫瘍学会は子宮頸がん予防ワクチンの啓蒙活動として、ビデオを作製し、Youtubeで公開している(https://www.youtube.com/watch?v=O_OQK030tUw)。HPV(ヒトパピローマウイルス)が子宮頸がんと関連することが明確であり、ウイルス感染の予防が、子宮頸がんの予防につながることから、世界的に広がっており、今年になって中国でも承認された。最近では、頭頚部がんや咽頭がんの発症にも関与していることから、女性だけでなく、男性もこのワクチンの投与が始まっている。

この子宮頸がんワクチンに限らず、日本のワクチン行政は、情緒的・非科学的なメディア報道によって長年歪められてきている。もちろん、行政が筋を通した対応ができてこなこったことに問題があるのだが、常に公共の利益と個人の不利益、科学と情緒といった対立構造で語られるため、議論がかみ合わず、その時々の副反応と感染拡大の振り子の傾きによって、ワクチンの是非が決められているように思う。

副反応が大きく報じられると、ワクチンが中止され、感染が広がって問題が生じると、ワクチンが再開される。このブログで何度も語っているが、同じものを同じように同じ量を投与しても、100%同じ結果とはならない。結果の違いは、不幸にも起こった副反応・副作用は、医療を行ったものの責任でも、薬剤やワクチンの責任でもない。人間の多様性といった、生物の進化の基本に由来する問題だ。

DNAを合成する遺伝子など、大腸菌から人間まで保存されているような遺伝子には遺伝子多型(遺伝暗号の違い)は少ない。このような細胞の複製・分裂に基本的に不可欠なタンパク質に変化をもたらすと生物は生存することができない。しかし、長い歴史の中で、感染症が拡大したり、新種のウイルスや細菌が登場した場合、免疫系などの遺伝子に起こった遺伝子変化が有利に働くことがあるため、遺伝子多型(多様性)が蓄積されてきた。また、気候変動(たとえば寒冷期)に対応できるような遺伝子多型を持った生物が生き延びることができたのである。飢饉に耐えることができる糖質などの吸収のいい人やエネルギー消費の低い人は、肥満につながりやすいはずだ。

免疫系遺伝子は一般的に多様性に富んでおり、HLA(白血球型遺伝子)、T細胞受容体、B細胞受容体など特に多様性に富んでいる。これらの複雑な多様性ゆえに、ワクチン投与によって思わぬ副反応が出る場合がある。特定の薬剤を特定のHLA型を持つ人に投与すると、死に至るような薬疹がでることはすでにわかっている。今では、一部の薬剤では事前にHLAを調べることも実施されている。十数年前までは謎の副作用であったものが、副作用予防まで進展しているのである。

これらの科学的な事実は、公共の福祉を最大にして、個人の不幸を最小にすべき方法をわれわれに提示しているはずである。社会全体としてこのような情報を共有して、われわれの持つ多様性を科学的に理解し、感染症やそれに由来するがんを防ぐために何をすべきなのか、科学的に議論できないものだろうか?正確な科学的情報を共有していくシステムの構築が不可欠だと思う。

そんなことを考えている時、産経新聞で、ある会社の健康サイトが閉鎖になったというニュースを読んだ。利用者による自由投稿の中に問題のあるものがあったからだそうだ。詐欺師たちは目を皿にようにして獲物を探している。今時、自由投稿にすれば、このような問題が起こるのは時間の問題だったはずだ。自由投稿は、提供できる情報量を、安価に増やすことにつながるが、それは、みんなが善人である前提があってこそ機能する。詐欺事件が横行する時代に、健康情報に対して、自由投稿はないだろうと思う。情報量も重要だが、内容に誤りがないことが最優先だ。

みんなが信頼できるデータベースの構築が必要なのだが、国営にすると経費は毎年削減され維持・運営が大変だ(私の限られた経験では、継続して維持することの重要性が理解されることがなかった)。民間で運営した場合、どのように収入を維持するのかが大変だ。しかし、このようなデータベースを構築しなければ、いろいろな形で生ずる不幸を減らすことはできない。

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おにぎりで窒息にAED(除細動器)???

今日は、休日でない金曜日だが、研究室には私以外に誰もいない。他の研究室にも人影が少ないというより、ほとんど人がおらず、まさに、ブラックフライデーだ。11月の第4木曜日はサンクスギビングデーで祭日だ。祭日は公式には1日だけだが、前日の水曜日の午後から人影が少なくなり、休日でないはずの翌日の金曜日も、どういうわけか、まるで人がいない。水曜日の午後から、勝手に4.5日間の休日となってしまう。日本も元旦だけが祝日なのに、年末の29日くらいから長い休日となってしまうのだから似たようなものだが。

こんな中、ポスドクが水曜日の夜遅くに論文を送ってきた。最近は、祭日前日や週末の金曜日の深夜に、論文を送り付け、自分は悠然と休日を楽しむ連中が増えてきた。しかも、内容は非常にお粗末だ。このポスドクは、あと2週間余りで母国に帰るので、私は、いい加減さに腹を立てて上昇している血圧を意識しつつ、論文を手直するために週末も働き続ける。責任感を持てと言っても、大人になってから、責任感を身に着けさせるのはほぼ不可能だ。楽しむことを犠牲にしなくとも、最大限の努力をしていると信じているようだ。

それにしても、今年のシカゴは依然として暖かい。10月に瞬間的に雪の散らつくのを見たが、東京のような本格的な雪はまだない。天気予報を見ても、11月中の雪はなさそうだ。今後1週間、氷点下にはならないようで、5年間で最も暖かい秋だ。例年なら、完全に落葉している木々にも、まだ、葉が残っている。

話は全く変わるが、数日前にネットニュースを見ていたら、おにぎりの早食い競争中に、おにぎりが喉に詰まって窒息死したという痛ましい事故が流れていた。亡くなった方は、まだ、20歳代であったように記憶しているが、ご家族の悲痛な気持ちは察するに余りある。是非、このような事故を繰り返さないように努めて欲しいものだ。

しかし、私はニュースを聞いていて、非常に気になったことがある。それは、「AED(除細動器)を利用した」と流れていた一言である。詳細はわからないので軽々に批判すべきではないことは十分承知しているが、このような事故の場合、おにぎりであれ、モチであれ、ゼリーであれ、最重要で不可欠なことは喉に詰まった異物を吐き出させることだ。窒息のために、結果として心室細動を起こせば、それを止める必要はあるが、「呼吸ができない」という最大の問題を解決しない限り、命は救えない。

掃除機を利用して、喉の異物を吸い取る方法なども紹介されているが、屋外で起こった今回の事故のような場合、近くに掃除機はない。どうするのか?最も簡便な方法は、胸を一気に圧迫することである。肺活量の検査でもない限り、われわれは空気を全部出し切ることなどないので、リットル単位の空気が肺の中には残っている。これを利用して異物を押し出せばいいのだ。顔を下や横に向け、胸部を強くたたくと、肺の中の空気が一気に吐き出され、空気鉄砲のように気管内の異物を押し出すことになる。力を加えすぎるとろっ骨を折る危険性もあるが、静かに押しても効果はなく、一気に強く圧力をかける必要がある。

話を元に戻すと、AEDは普及したものの、多くの人はどんな場合に利用すべきなのかを知らない。心室細動がある状態ならともかく、今回のような事例は、空気が往来できる道筋を回復するのが何よりも優先される。ニュースでは、食べ物をのどに詰まらせて窒息死する事例があとを絶たないが、その対処法を伝えるのは稀だ。もちろん、このような緊急事態では、ネットを調べる時間的余裕などないので、一般の方々に知識として記憶してもらうように努める必要がある。窒息死という事実を伝えるだけでなく、このような状況にどのように対応すべきなのかを伝えるのも、メディアの責任ではないのか??

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若者を元気づける評価制度が必要

週末は一転して平年並みの気候に戻り、出勤時は氷点下3度まで冷え込んだ。マイナス10度までは歩いて通勤するようにしているが、今日は朝7時30分過ぎから会議があったので、バスを利用した。この程度まで冷え込むと、体も心もピリッとすると言いたいところだが、急激な温度変化についていくのが難しくなってきた。明日から10日間ほどは、また、平年よりも少し温度が高いようなので、体を慣らすにはちょうどいい。

そして、早朝からの会議だが、新しく申請しようとしているグラントに関するプレミーティング(事前相談のような会議)であった。大きな研究プロジェクトの応募に際して、米国の場合、NIHやNCIの専任のオフィーサーと事前に会議がもたれる。今日はその会議があった。新規薬剤の治験を実施する際にも、日本のPMDAや米国のFDAと事前相談をすることができる。私が知る日本の審査は、ずいぶん昔の話になるので最近は改善していると信じたいが、日米の基本的スタンスの差は、欠点をあげつらうのか(日本)、欠点の克服を助言するのか(米国)の違いである(あったという表現にしたいところだが、最近の事情は知らない)。これが、薬剤の開発を迅速に進めることができるかどうかの差になっている。

週末に、日本では「プレシジョンメディシン」を紹介するテレビ番組が放映されたが、メディアのリテラシーの低さが存分に発揮された。本質的な課題が全く理解できていない中途半端な番組だ。米国の有名女優が予防的乳房切除を受けた際に、米国に20年遅れで、遺伝性乳がんの遺伝子診断が騒がれた。これほど時代遅れではないが、やはり、医療の現場も、メディアも遅れている。世界の最先端を走るために、何が欠けているのか、まったくの勉強不足だ。新大統領になると、科学研究環境が厳しくなると予想される今こそ、米国を捉える千載一遇のチャンスだというのに!

朝の会議の話に戻るが、専任の人たちは、医学・医療の最先端を熟知しているので、質問も本質を突いてくるし、コメントも提案をできるだけいい方向に進めるような前向きなコメントだ。われわれ自身で検討した懸念材料をズバッとついてくるが、科学的に妥当なコメントは、心地よい。日本では、多くの事前審査、事後評価会議に出席したが、大半の質問は残念ながら、的外れなものが多かった。また、多くの審査委員が専門外なので、その分野の専門家(と称される研究者)が一言でもネガティブなコメント(それが全く時代遅れでも)をすると、その研究計画はそれで葬られる。さらに大きな問題は、以前からこのブログで紹介しているように、評価委員は絶対に責任を問われることがない。無知をさらけ出したようなコメントでも、そのままスルーだ。

大統領側近の問題などで、韓国では若者の間で、コネ社会に対する反発が大きく広がっている。しかし、日本の評価制度も、基本的には学閥・人脈というコネが、公正・公平な評価を歪めているのが現実だ。研究費予算が絞られれば、絞られるほど、歪みが大きくなる。将来を担う若者を育てるためには、大きな傘の下にいなくとも、斬新なアイデア・画期的な発想を公平に評価し、支援を受けることができるような仕組みを作らなければならない。隣国で問題視されている事態が、日本社会と全く無縁とは言い切れないのである。的外れで、不公正なコメントに対して、申請者が抗議できるような制度を取り入れない限り、若者たちはやる気をなくし、日本の国力も衰退していく。

今朝の3時間のミーティングは、米国にあって、日本にはないもの、そして、それらが国力の差につながっているであろう事を実感させられた。それにしても、一流大学で続発する女性暴行事件は嘆かわしい。

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