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がんプレシジョン医療;がんの治癒を目指して―(2)

プレシジョン医療には、当然ながら予防や早期発見も含まれる。肝炎ワクチンやパピローマワクチン(現在では、子宮頚がんだけでなく、頭頸部癌の予防につながると考えられている)など有効な手段だ。そして、個人ごとの遺伝的リスクに応じた、がん予防プログラムや検診プログラムの導入が必要だと思う。中韓では、すでに生命保険・医療保険企業と連携する形で、トータルヘルスケアシステムが開始されている。糖尿病など薬物治療ではなく、運動療法のアドバイスまで含めたサービスが提供されている。

 

日本では、肺がん検診、胃がん検診、乳がん検診、子宮がん検診などが実施されているが、検診率は、まだまだ、満足の行くレベルではない。大腸がんなどを本格的にスクリーニングするには、X線検査や内視鏡が必要だが、大腸を空っぽにする前処置が結構大変だ。私も何度か経験があるが、何度もトイレに駆け込むのは大変だし、油断するとお漏らししてしまいそうだ。

 

そこで可能性があるのがリキッドバイオプシーだ。リキッドバイプシーの利用目的の一つは、がんの早期発見だ。検査において重要な項目は、検査の侵襲性・感度・精度だが、リキッドバイオプシーは間違いなく、侵襲の程度は低い。しかし、理論的には、ステージ1・2のがんをすべて見つけることは難しい。大腸がんの場合、ステージ1・2で何らかの異常が見つかるのは50-60%程度だ。しかし、異常が見つかれば、何らかの病変の存在する確率は高い。

 

技術的かつ論理的な限界は、血液(血漿)中に含まれるDNAの量だ。一般的な検査としては、血液7-10ccで答えが出ないといけない。血漿から数十ng(ng(ナノグラム)は1グラムの10億分の1)が回収でき、そのうち5-10ngDNAが利用されることが多いように思うが、この量は結構厳しい。1個の細胞に含まれるDNAは約6.6pgpgピコグラムは1グラムの1兆分の1;ピコ太郎とは何の関係もないと思う)であるので、6.6ng1000細胞相当だ。一つの細胞には2ゲノムあるので、5-10ngだと2000ゲノム程度しかない。しかも、DNAの長さが短いので、遺伝子を増やす操作(増幅)する際にも効率が悪くなり、実際には1000分子相当分しか増幅できないことになる。検出率を上げようとすると、当然ながら量を多くした方が良いが、それに応じて、手間もかかり、検査料金も高くなる。新しい技術の限界を知った上で技術を利用すればいいのだが、それができないのが問題だ。

 

また、血液を採取してからDNAを回収するまでの時間が、どの程度解析結果に影響するのかも検討しなければならない。質の悪い研究者が、無茶苦茶な実験条件でごみの山を築き上げて、解析結果の解釈に混乱を引き起こす前に、技術の標準化が不可欠だ。米国のNIHには技術の標準化を専門にする研究機関があるが、日本にはない。また、「できるかどうかわからない場合に、何もしない」ことを選択する文化を捨て、「できるかどうかわからないなら、挑戦してみる」ことが必要だ。これができなければ、永遠にイノベーションなど生まれない。

 

私は、発見しにくいがんである、卵巣がん、膵がん、胆管がんなどでも大腸がんと同じレベルで検出可能なら、その臨床的意義は高いと考える。とにかく、有用性を急いで評価する方向で研究を進めたい。P53遺伝子の異常が検出されても、どこにがんがあるのかわからないの意味がないと、したり顔で偉そうにしている研究者がいるが、こんな人たちが日本の研究の足を引っ張っている。今日できないことが明日突然できるようになるのではない。地道な努力を続けることによって、日々、技術は改善され、実用化にたどり着くのだ。

 

卵巣がん・膵がん・胆管がん患者団体の方々、是非一緒にやりましょう。それ以外の患者団体の方々も、是非、できることがあれば一緒に行動を起こしましょう。

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リレ―フォーライフ@東京医科歯科大学

今、羽田空港にいる。昨日は久々にリレーフォーライフに参加していただいた。患者さんや家族の方と触れ合うと刺激になる。米国のように、患者さんたちと医師・研究者が一体となった行動を起こすことが必要だと思う。滞在中、プレシジョン医療という言葉も広く使われるようになったものだと感じたが、基本的なコンセプトをわかっている人が少ないため、内容が非常に矮小化されているようだ。

 

欧米崇拝のNHKスペシャルは、多くの患者さんに幻想を引き起こしたためか、、患者さんたちにはあまり評判が良くなかったようだ。あまりにも日本の現状認識に欠けていたと思う。しかし、少なくとも何かが起こりつつあるという問題提起にはなったのではないか?また、正しい知識をどのように共有していくのかという課題を明らかにした。しかし、この問題の解決は非常に難しい。医療関係者と一般の方の知識ギャップだけでなく、医療関係者間の知識ギャップも大きい。教育の問題、メディアの不見識、隙あらばと狙っている詐欺師たち、このような課題を個別に解決するのではなく、抜本的な対策が必要だ。

 

今回の8日間の日本滞在中に、日米韓中の4つの企業と会合を持った。ゲノム医療を実地医療として広く利用できる方策を検討するためだ。特に、中国・韓国の企業は、メディカルケアとしてのゲノム医療ではなく、ヘルスケア(病気のリスク判定やスクリーニング)まで視野を広げて、個人個人の健康管理を提供する企業としての発展を目指している。ある企業は、国外も含め、患者さんに最適の医療機関を紹介することも含めたビジネスを考えている。

 

がんプレシジョン医療は、薬の効果に関連する遺伝子を調べて患者さんを選別するといった狭い定義のものではない。米国の大統領が、推進すべき国策としてそのような狭義なものを一般教書演説に含めるはずなどないのだ。がんを治癒することを目指した「ムーンショット計画」は、壮大な計画であることは疑いもない。少し頭を働かせれば、遺伝子で薬を選ぶといった単純なものではないことがわかりそうだが、日本のメディアにはそのあたりの相場勘が欠けている。

 

プレシジョン医療計画・ムーンショット計画ともに、医療を一変させることを目指したもので、医療の質を向上させつつ、医療費の増加傾向を抑制する効果があると私は信じている。次回は、再び、プレシジョン医療に関する内容に戻りたい。

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がんプレシジョン医療;かんの治癒を目指して(1)

今、金沢から東京へ向かう新幹線の車中にいる。自宅が羽田空港に近いので、今朝は飛行機で金沢に向かったが、夕方は東京駅近辺で用件があるため、新幹線にした。北陸新幹線に乗るのは初めてだ。この列車は東京まで3時間かかるので、結構体にはきつい。でも、若い時(といっても、もう、半世紀も前の話だが)、大阪から夜行列車を利用し、金沢・富山・糸魚川経由でスキーに行ったことが懐かしい。

 

しかし、今朝は腹立たしいことがあった。離陸前の機内で、若い女性二人の非常識な行動に、思わず、「コラ!」と叫んでしまった。私が座っている前を横切って、左側の通路から右側の通路に移動するのはいいが、まず、最初の女性が私の足の親指を踏んだのだが、謝る素振りもない。二人目は、鞄を私の膝にぶつけていったが、こちらも何の反省もない。そこで思わず、言葉が出たのだ。日本の道徳教育はどうなったのだろうか?

 

話を本題に戻し、表題のプレシジョン医療、がんゲノム医療の講演内容を数回に分けて紹介したい。少し前に紹介したが、がんの治癒には早期発見、早期治療が重要だが、肝臓がんや膵がんのようにステージ1でも10年生存率が30%のがんもある。これらのがんに対しては、もっともっと研究が必要だ。それにしても、レストランでの受動喫煙を減らすことに反対する人たちや子宮頸がんワクチンに反対する人たちなど、日本のがん予防対策はかなり大変だ。がん死亡を減らすには不可欠なのだが、利権や感情論が予防を難しくしている。科学的なリテラシーの不足が、客観的な議論の妨げとなっている。ワクチンの場合、社会全体の利益と個人の不利益の対立構造になっているが、前者の利益が後者に比して歴然と大きい場合、国は全体の利益を優先しつつ、個人の不利益を科学的に最小限にしていく責任があるのだが、こんなまともな議論さえできないのが現状だ。副作用には絶対に何らかの原因があるはずなので、感情論でワクチンそのものを葬るのではなく、原因解明のためにゲノム解析などを進め、被害を最小にする努力が必要だと考えている。少数の人権を無視するのではなく、後に起こる子宮頸がんによる死亡という現実を直視することが重要だと思います。

 

また、がん全体の10年治癒率をあと20%高めるには、これらの予防対策に加え、いくつかの具体的なアクションが必要だと思う。そのアクション項目を下記に列記した。しかし、これらのアクションは、個々の研究者の目標ではなく、国が組織として取り組むべき課題だ。数百万円から数千万円の研究費ではなく、国の仕組みとして確立するために、数百億円―数千億円単位で進めていくべき課題だ。

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がん検診率を向上させることは、早期発見につながる。たとえば、胃がんは検診システムが普及している日本では早期がんの状態で見つかる患者が多い。したがって、中国の胃がんの5年生存率と比較すると、日本のそれは数十%も高くなっている。かといって、大腸がん検診を、レントゲンや内視鏡で実施するとなると、医療現場は対応できないのは明白だ。便に血が混じっているのを調べる潜血検査は、擬陽性率(陽性と診断されたが、検査では腫瘍が見つからなかったケース)が90%を超える。新しいスクリーニング法の確立が急務だ。

 

新しいスクリーニング技術として、いろいろな方法が提案されているが、血液中のマイクロRNAやアミノ酸変化などを調べる方法には、私は極めて懐疑的だ。定量的な方法(ある分子が増えたり、減ったりしているのを調べる方法)は限界がある。正常値に幅があることや数字が連続的であるため、どこかで線を引くと、擬陽性が少なくない。もちろん、偽陰性(がんがあるが、検査では陰性となる)もある。すでにがんがあるか、ないのかわかっている条件で、ある分子の量の多寡で分類すると必ず、ある一定の割合でがんと関連しそうなもの(マーカー候補)が見つかる。

 

統計解析をしてP値が0.05であると意味があると信じて疑わない人が多いが、0.05という数字を反対から見ると、100種類調べると5個くらい関連があると間違って判定される可能性があるということだ。そして、このような可能性のあるマーカーを複数組み合わせると、いかにもがんが確実に診断できそうに見えてくるのである。これをオーバーフィッティング(うまく出来すぎ)と呼ぶ。私も苦い思いをした経験があるので、偉そうには言えないが、15年以上前から問題が指摘されている、このような統計学の罠を学習していない(勉強していない)研究者が、想像以上に多いのだ。

 

この点、定性的な測定法(がん細胞だけにしかない性質=DNA変異)を利用する方が白黒が明白だ。もちろん、偽陰性は起こるが、擬陽性は少ない。そこで、リキッドバイオプシーが重要となってくる。今の技術では正常細胞DNA:がん細胞由来DNA1000:1の割合であればほぼ確実に見つけられるところまできている。人間には60兆個(60㎏)の細胞があるので、1000分の1だとがん細胞が600億個(60g)にまで増えないと見つけられないのかというとそうではない。がん細胞は分裂が速いため、日々死んでいく細胞の数も多いので、これより2桁くらい少ない数でも、血液中に混入するがん由来DNAは検出可能と考えられる。現に、ステージ1の大腸がんでも40%で程度で血漿に存在するDNAを調べると遺伝子異常が検出されている。このリキッドバイオプシーの現状と課題については次回詳しく紹介したい。

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革新的技術と規制+トランプ政権NIH予算カット

昨日は先進医療推進フォーラムに参加した。私を含め、3名ががんに関係する話、1名が心臓の再生医療に関わる話だった。最初の演者が、「がんには3大治療があり、外科、化学療法、放射線療法だ」と発言した時には、愕然と、ずっこけてしまった。私も、私の次の演者の東京大学医科学研究所の小沢敬也先生も免疫療法の話をする予定だったからだ。今の時代に、ここまで大胆に免疫療法を無視できるのは大したものだ。やはり、一度頭に染みついた「免疫療法はまがい物」という固定概念を消し去るのは難しいのかな?

 

最後の演者の澤芳樹大阪大学教授は医療イノベーション推進室にいるときに活動していた仲間だ。彼が嘆いていたが、新しい技術が開発された場合、今までの尺度で評価できないにもかかわらず、それを既存のルールに当てはめようとするから物事が進まなくなる。やけどなどの治療に使われる皮膚の細胞シートは医療機器、心筋の細胞シートは医薬品と分類され困った経験を話されていた。このブログでも何度も触れているが、免疫チェックポイント抗体治療薬を含む免疫療法などは、これまでの抗がん剤の基準で評価することができない。法律などの規則が古く、審査する側が不勉強だと、話がかみ合わず、革新的事案が宙に浮いてしまう。審査する体制の強化、特に、先進的なことを理解できる人材の育成が不可欠だ。

 

その点、米国は国を挙げて革新的な医薬品の開発に取り組んでいると書きかけようとした瞬間、トランプ政権の2018年度予算案が漏れ出してきた。Science誌によると、NIH予算が約20%6兆円減で計画されているという。これが事実なら、前年度までの研究計画の継続で手いっぱいで、新規研究計画が完全にストップするかもしれないくらいの衝撃的な数字だ。

 

ムーンショット関係者からは、トランプ大統領はがん研究などには好意的だと聞いてただけに、この減額の大きさは予想外だった。研究支援体制は、一たび崩壊するとそれを再構築するのは簡単にはいかない。研究にとって最も重要な人材の流出が起こると、人を育成するために何倍もの時間が必要となるからだ。日本のがん研究分野の人材も漸減傾向にある。予算もポジションもなければ、研究者は他の分野に転身していくしか、生き延びる道はない。二人に一人以上ががんに罹る時代、がん研究は日本の浮沈を握る研究分野なので目に見える研究支援策の強化が急務だ。

 

次期がん対策計画では、是非、研究者が本気でがん対策に取り組むことができるような希望あるビジョンを提示して欲しいと願っている。

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制御性NK細胞?!

今、シカゴ・オヘア空港にいる。私は長旅は嫌いだが、今週と来週の土曜日の講演会に加え、今回はプレシジョン医療を本格的に始動させるために、いろいろな方々とお会いする予定で忙しい。さらに、金沢への日帰りもある。土曜から土曜までの8日間で予定されている会議・夕食会の回数は20回を超える。プレシジョン医療の立ち上げは、私が考えていた予定よりも少し遅れているが、ようやくエンジンがかかってきた。

 

しかし、驚いたのは空港の荷物検査だ。靴も脱がなくていいし、パソコンも鞄から出す必要もない。トランプの影響かどうか知らないが、靴を脱がされるという屈辱的な行為をしなくていいのはいいことだ。これが彼の指示ならプラス10点だ。

 

とここまではよかったのだが、ユナイテッド航空のラウンジは最悪だった。座る場所がないというひどい状況はありえない。係員に聞いても、多くの飛行機が遅延しているからだと説明するだけで、日本のように「申し訳ありません」というわけでもない。「そこで待ってくれ」と言われたので待っていたが、後から来る人たちが勝手に奥まで入って空いた席を占拠するので、いつまでたっても席につけない。15分ほど待ったが、何も言ってこないので、「どないしているんや」(もちろん丁寧な英語でだが)と苦情を言ったら、そこにどうぞと奥にあった席を提供してくれた。この国はこのような国だ。座る席がないならもっと順序立てて案内すればいいと思うのだが、それを期待するのは無理だろう。

 

話を格調高い科学に変えよう。今日は、Nature Medicine3月号に掲載された、制御性NK細胞の話題だ。がん組織内には、がん細胞だけでなく、多くの種類の細胞が含まれていることは、このブログでも何度か紹介してきた。この中にはNK(ナチュラル・キラー)細胞が含まれている。この細胞は、細胞の表面にCD56という分子(リンパ球ではNK細胞に特異的だとされている)を発現している。CD56を持つNK細胞は、がんを殺す役割があると知られているが、がん組織内に存在するCD56細胞の中には免疫の働きを抑える役割を持つものがあるのでは?というのがこの論文の趣旨だ。

 

著者たちは、がん組織から取り出したリンパ球を培養したところ、CD56細胞が多いとCD8細胞(CD4細胞も)が増殖しにくい傾向を見つけ、それをもとにCD56細胞の中に、腫瘍組織内での免疫を抑えている可能性を示したのだ。CD4ヘルパー細胞の中に、免疫を抑える制御性T細胞が見つかったのと同じで、細胞傷害作用があってがん治療に応用されている細胞の中に、CD8細胞などの増殖を抑えている細胞があるというのだから驚きだ。これが本当ならば、NK細胞療法を根底から考え直さなければならないことになる。

 

免疫システムのバランスのとり方は、知れば知るほど複雑怪奇だ。次々と新しい機能を持ったサブグループが見つかり、免疫細胞は一筋縄ではいかないことを再認識した。おそらく、今後ももっといろいろな機能を持った新種が見つかるだろう。ひとつひとつの細胞を詳細に解析することが可能になってきているが、多くの研究者が統一性なくデータを出せば(方法などを標準化していかないと)幻のデータに振り回されかねない。必要なことをするために、必要なシステムを構築するのは、当然のことだが、これにはリーダーシップが不可欠だ。是非、将来を見据えた研究体制の構築を急いでほしい。

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ムーンショット計画の行方

医療(一般) 医療(がん免疫・免疫ゲノム学)

バイデン前副大統領が久々に公の前でスピーチをして、「私はがんを克服する大統領になりたかった」とコメントをした。そこれ気になるのが、がんの治癒を目指す「ムーンショット計画」の行方だ。計画に携わっている人によると、トランプ大統領も計画の内容自体には肯定的だそうだ。オバマ前大統領の施策を、オセロゲームのように次々と裏返しにしているが、がん克服計画は生き延びそうだ。ただし、「ムーンショット」という名称がそのまま残るかどうかは疑問視されている。

 

私も、今週・来週の講演会では「がんの治癒を目指す」ことをテーマに話をする。今は、がんと診断されても約半数が10年間生存=治癒を期待できる。この50%70%にすることはそれほど難しいことではないと考えている。国の政策を一捻りすれば、実現可能な数値だ。あえて、国の施策と言ったのは、研究者が個々の研究に精を出しているレベルではなく、国家として取り組まなければ、この数字の達成は難しいからだ。

 

キーワードは、がん検診・プレシジョン医療・標準医療を超えた医療への取り組みだ。土曜日の講演会の後、講演内容を数回に分けてこのブログで紹介したいが、今日は、標準医療をどう乗り越えるかだ。抗PD-1抗体(ニボルマブ=日本ではオブジーボと呼ばれることが多い)は腎臓がんでも承認されたが、分子標的治療薬が効かなくなった、あるいは、副作用で治療継続が難しくなった患者さんに対してだけしか投与できない仕組みになっている。

 

臨床試験も、多くの場合、標準的な治療が尽きた患者さんしか登録することができない。自分の意思で抗がん剤治療・分子標的治療を拒否した患者さんは、臨床試験を受けることもできず、自費診療で治療を受ける道しか残されていない。公的機関では、標準治療を拒否すると、その病院での診療を継続することも難しくなる。

 

近藤誠氏の影響で、日本では標準的な抗がん剤治療を拒否する患者さんは10%を超えているようだ。これでいいのか疑問は大きいが、逆の観点で考えると、これらの患者さんは、免疫細胞のダメージがないため、免疫療法の恩恵を享受できる可能性が高い。科学的な考察をすれば当然の帰結なのだが、「標準療法」に命を懸けている医師の多くは、この単純な科学的思考を受け入れることができない。メディアも無責任に抗がん剤治療を批判するのではなく、そろそろ自ら対案を示せばと思うのだが、日本のメディアは、野党と同じように、批判することを生き甲斐にしている人が多く、手遅れになってしまう患者を生み出している自らの瑕疵には至って鈍感だ。

 

自ら勉強した上で、抗がん剤を受けない選択をした患者さんたちも、それではどんな治療法を受けたいと考えているのか、自分の手で考えていく必要がある。近藤氏の言う「がんもどき論」は現在の科学的知見からは逸脱している。がんは放置すれば、早晩、死につながる。闘わない選択は、死を受け入れることに等しい。闘わない選択をしても、痛みや苦しみに我慢しきれず、その時点で闘いを始める患者さんたちもいるが、ボヤであれば消える火事でも、燃え広がれば家を失う可能性が格段に高くなるのと同じで、がん細胞が千億個になってからでは勝てるはずがない。

 

抗がん剤を受けたくない患者さんたちは、是非、自ら、がんとの闘いに勝てる方法を模索して欲しいと思う。

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東北大震災から6年

雑事

2011311日の東北大震災から6年が経った。地震が起こった瞬間、帰宅できずにさまよった多くの人たちの混乱、テレビで見た津波による惨状、南相馬市を訪問した際の驚くべき風景、避難所で目にした現地の人たちの忍耐強い生き様、それらは忘れとしても忘れることができるはずがない。そして、人を大事にしなかった政府の無策は、今でも憤りを感ずる。

 

私が最も気にかけているのは、30万人にも及ぶ津波サバイバーの方たちの生活だ。この方たちの生活を支援し、健康に留意をすることが最重要だと思った。生活を取り戻すためには、交通網の整備や箱モノの整備も大事だが、家族を失い、友人を失い、家も失った人たちの心を支援することが十分に行われていたのか、今でも疑問が残る。私自身、もっと彼らのために何かすることができなかったのか、今でも自問自答しているが、答えは見つからない。

 

いずれ日本に戻った時には、南相馬市の人たちのために、何か貢献したい

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