Scienceの2月2日号に「Citation manipulation found to be rife in math」と言うタイトルの記事が出ている。科学者の評価の指標の一つとして、論文の引用(citation)回数が用いられることが多くなってきた。その指標の信頼性を根底から揺るがす事象が起きている。一部の数学研究者がカルテルを組んで仲間の論文を引用し合い、カルテルメンバーの論文引用数を故意に引き上げている(targeted citation)というのだ。
論文捏造工場に加えて、このような引用回数を人為的に操作するようなカルテルが横行すれば、科学に対する評価基準が失われることになる。最低限の守るべきモラルが次々に損なわれ、カオスの時代になりつつあると言っても過言ではない。数学の分野だけでなく、他の分野でも起こりそうな(すでに起こっているかもしれないが)予感がする。科学は一歩一歩積み上げていく必要があるが、その一歩・二歩がフェイクであれば、地盤が大きく崩れ去るような事態が生ずるに違いない。
2008年―2010年の間で最も引用された上位1%の論文には、UCLA(カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校)とプリンストン大学から発表された論文がそれぞれ28編、27編が含まれていた。しかし、2021年―2023年には数学の分野でほとんど実績がなかった中国・サウジアラビア・エジプトの研究機関が上位を占めていたそうだ。名指しされていたのは中国医科大学(瀋陽)にとサウジアラビアのキング・アブドゥルアズィーズ大学だ。3年間に数百の論文を発表し、その中で最も引用の多かった論文を多く引用していたと指摘されていた。
これに対して、クラリベートなどの調査企業やジャーナル出版会社は頭を痛めているとのことだ。大泥棒の石川五右衛門が辞世の句として「石川や浜の真砂子は尽くるとも世に盗人の種は尽くまじ」を残したという。浜の砂は尽き果てても、悪人の種は尽きないほど、悪の種は次から次と生まれてくる。論文捏造工場、論文引用カルテルなど十数年前までにはなかった非道徳的行為がモグラたたきのように続発する。「天網恢恢疎にして漏らさず」で見つかるに決まっているのだが?
正直者が馬鹿をみる社会であってはならないと思うが、道徳観が喪失する現実に悲観的にならざるを得ない。「もしトラ」が現実になると、さらなる悪夢が現実になってしまいそうだ。