アルツハイマー病治療薬;期待と懸念の中でFDAが承認

明けましておめでとうございます。

 

思いもしなかった大阪暮らしが始まって9カ月経ちました。理事長職というのは名誉職のように思われている方が少なくないのでしょうが、結構大変です。特に、光熱費の高騰は研究所の財政を直撃し、新しいことに挑戦するような余裕は吹っ飛びました。皆さん必死に頑張っておられるので何とかしたいとは思うのですが、無い袖は振れません。個人的には、がんのネオアンチゲン免疫療法を大阪発で進めたいです。もちろん、難病という大きな壁に挑戦するのが研究所のミッションですし、これを支えていく術を考えています。

 

21世紀に克服すべき大きな難病の一つが、認知症です。この代表例のアルツハイマー病については、現在、新薬に対する期待と懸念が交錯しています。12月9日号のScience誌In depth(深層)欄に「Alzheimer‘s drug stirs excitement- and concern;Antibody slows cognitive, but death, brain bleeds, and swelling mar results」というタイトルの論文が掲載されていました。エーザイ/バイオジェンが開発したアルツハイマー病に対する抗体治療薬に対する期待と懸念が書かれていました。臨床試験対象者の認知機能の低下を防ぐことができるようですが、同時にその副作用への懸念が記述されています。

 

12月23日のScience誌には「Scientists tie third clinical trial death to experimental Alzheimer’s drug」というタイトルの記事があり、抗体医薬投与後に脳出血を起こした患者さんの詳細なデータが示されていました。Science誌がこの問題に大きな関心を持っていることがうかがえる内容です。すべての人に安全で、すべての人に効果がある薬は絶対にないのですが、異例の取り上げ方です。

 

話は少しそれますが、コロナワクチン接種後に抗体が増えない例は5-10%あると報告されていますが、90%の人の抗体価があがることは素晴らしいことだと思います。しかし、その副反応に関する噂が広がり、コロナワクチンのみならず、ワクチン全体に対する疑念を生んでいます。透明性のある客観的事実の報告が科学には不可欠です。

 

今回のアルツハイマー病治療薬も全員に効くはずもないし、副作用が出ないはずもありません。副作用が強く出て、効果がなければ薬としての疑問符がつくのは当然です。アルツハイマー病の場合、徐々に認知機能は落ちますが、その速さは個人差が大きいです。日によって比較的はっきりしている時も、低くなっていることもあり、認知機能は判定が難しいのが実情です。

 

こんな議論の中、米国FDAは昨日、この新しいアルツハイマー治療薬を承認しました。アルツハイマー治療薬の新しい幕開けとなるのか、期待が広がればいいのですが。