敗軍の将、兵を語らず。

内閣府のSIP第2期「AIホスピタルプロジェクト」は私が人生の最後を賭けたプロジェクトだ。多くの機関の協力のもと、日本の医療のAI化・デジタル化に貢献し、さらに海外への展開を見据えて、第3期(あと5年)を目指していた。

 

私が国立研究開発法人・医薬基盤・健康・栄養研究所の理事長に就任したため、私はルール上、プログラムディレクターに立候補できる資格を失ったので(研究推進法人として指定されたので、その長はSIPプログラムの責任者にはなれないのが理由だ。利益相反にあたるとのことだが、これまでのディレクターが利益相反上、問題を抱えてきたのだろうか?)、これまで一緒にプロクラムを引っ張ってきていただいたサブディレクターに後任を託すつもりだったが、この度、第3期のフィジビリティ―スタディーのディレクターに第2期の研究開発に縁もゆかりもない人が指名された。下記は3月の予算委員会で岸田総理大臣が、公明党の三浦信祐議員の質問に対して行った答弁だ。

この総理発言も幻なのか?日本からイノベーティブなものが生まれない理由を象徴している。5年で一区切りという制度を硬直的に運用しているから、日本は変われないのだ。種から芽が生えて、若葉が育ちはじめた時点で、「自立せよ」と水をやらなければ、枯れ果てて花も咲かず、実も、さらに栽培を広げるための種も収穫できない。こんな常識さえ、この国では通じないようだ。種の選定からかかわってきた者としてやりきれない気持ちだ。

 

2011年東日本大震災後、政府に「津波被災者の健康をしっかりと調査し、健康維持に努める」ことを訴えたが、この時は某役所と某大学に見事に裏切られた。そして、内閣官房参与を辞任した。今回はその時よりもショックが大きい。11年前は何もないところからの提言だったが、今回は多くの人に協力を得て育てた若葉に価値がないと言われたに等しい。皆さんに申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 

高齢社会という大きな課題を抱えている日本にとって

(1)健康寿命の延長

(2)最適化個別化医療

(3)医療の質の向上

(4)医療費の費用対効果の改善

(5)医療費の増加抑制

(6)労働人口確保・働き方改革

(7)国際的競争強化

(8)大災害対策

のすべてを包含した大きなアプローチをしてきたつもりだったが、虚しく終わりそうだ。高度で先進的で多様な医療を、国内どこに住んでいても、いつでも、だれでもが享受できる社会、しかも、働き方改革を推進して、かつ、心温まる医療を目指していたのだが、残念だ!

 

これだけ、いろいろなことが停滞してきても、その根源となる問題を何も理解せず、何も変えようとしない国に未来があるのか。日本のシステムが根っこから腐ってきているのだ。とボヤいても、利権まみれの人たちには馬耳東風なのだろう。どこに制度の欠陥があるのかわからないが、予算を獲得する手柄獲得のための方便ばかりで、将来を見据えた長期的施策を立てることができない。こんなことはわかりきっていたはずだが、まさか総理大臣の発言でさえガン無視はしないだろうと考えた私が間抜けだった。敗軍の将、兵を語らずだが、責任はある。責任の取り方は、私が決めるしかない。

 

肉を切られれば、骨を切り返す。そして、反撃で首をはねられれば、桜のように美しく散るしかない。醜く咲き続ける人生よりは、潔く散る人生を全うしたい。