「オリンピック開催を支持」と「オリンピック開催に向けた努力を支持」

「オリンピック開催を支持」と「オリンピック開催に向けた努力を支持」、同じように聞こえるが解釈はかなり異なる。「開催を支持」するのは、文字通り、オリンピックの開催を支えるという意味だが、「努力を支持する」は頑張ってくださいね、努力されていることを応援しますよという意味である。「科学的に安全であれば」とバイデン大統領のスタンスは変わっていない。日米首脳のコメントは重要な点で異なっており、日本の政治特有の言葉遊びが続いている。

「コロナ感染を乗り越えた証のオリンピック」という言葉も消え去り、「世界団結の象徴としてのオリンピック」にすり替わった。このような目くらましは、安倍政権以降の特徴ではなく、民主党政権時にもあった、言葉をいじくるだけの劣化した政治の象徴である。政治から誠が失われると、国民からの信頼が低下するだけでなく、国としての信用は失墜する。東京都は緊急事態宣言の発出を国に求めるそうだが、大阪のような医療壊滅的な状況になれば、オリンピックは夢のまた夢だ。 

と愚痴ばかりでは暗くなるので、明るい話題を一つ。先週号のNature誌に「A vaccine targeting mutant IDH1 in newly diagnosed glioma」というタイトルの論文が報告されていた。IDH1という遺伝子はグリオーマという脳腫瘍で異常を起こしている頻度が高い。今回の論文は、私がいつも紹介しているCD8細胞傷害性リンパ球(キラーT細胞)を誘導するネオアンチゲンではなく、HLAのクラスII分子によるヘルパーTリンパ球を活性化するネオアンチゲンを利用して評価したものである。

33名の患者さんに対して投与されたが、このうち、31名でネオアンチゲンワクチンに対する免疫反応が確認された。治療後3年の時点での無増悪率、生存率はそれぞれ63%と84%であった。免疫反応が認められた患者さんに限ると、2年の時点で増悪が認められなかった患者さんの割合は82%と高かった。免疫反応が見られなかった2人の患者さんは共に2年以内に病気が悪化した。画像の見かけ上で増悪が見られ、その後縮小した偽増悪症例では腫瘍内での免疫反応が起こっていることも示唆された。統計学ではない、立派な科学がここにはある。治癒率の低いがんに対しても、標準療法があると嘯いていては、医療は進歩しない。治せないがんを治すために、最先端の技術と情報を活用することが医学の進歩につながる。医師が、医療人としての患者さんに寄り添う心を忘れ、単なる技術屋になると医療も劣化する。

コロナ対策もそうだが、しっかりと基礎科学的な検証もエビデンスであると考えることが大切だ。日本には統計学がすべてという似非科学的思考が根付き、本物の科学的な思考力が失われてしまった。日本の科学力の低さはコロナ対策で実証されているが、それに何の危機感も感じないことが、最大の問題点であり、危機なのである。

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