コロナ感染から1年;未来に向けた科学的なウイルス対策を!

日本のコロナ対策を批判しても生産的でないという声があるが、批判は科学的側面を持ち、非難とは異なる。今のままではコロナ感染患者だけでなく、助けられるはずの多くの他疾患の患者の命も失われてしまう。現在の惨状を改善するために、人の動きを止めることは当然だが、中途半端に緊急事態宣言を解除すれば、同じことが繰り返される。当然ながら、どこでボタンを掛け違えたのかを検証せずして、この危機的状況から早期に脱出する方法を導き出すことは難しい。 

昨年の2月以降、最大の失敗をあげるとすれば、PCR検査を拡充できなかったことである。感染対策の基本である「検査と隔離」を無視して、「検査で感染者を見つけると医療崩壊が起こるので、検査をすべきでない」という本末転倒の声が専門家からの意見として強かった。梅雨のころには4-5月の緊急事態宣言と気候の変化で一息ついたが、このウイルスは手強かった。これによって、専門家たちは、「PCR検査を徹底してしなくてもいい。医療供給体制は何とかなる」という、「日本モデル」という虚構に自ら酔って油断をしてしまった。

そして、昨秋の欧米での急速な感染拡大を横目に見つつも、抜本的対策をとることなく眺めていた。医療関係者からの発せられた再三再四の危機意識が共有できていなかったことも響いた。そして、今日に至るまで、自分たちの大失策を改めることもなく、100万人当たりのPCR検査数が、世界の150位前後というお粗末で、無様な状況が続いている。「最初に決定した方針を守り抜くという」面子のためだけだとしか思えない。自分の説を曲げなかったと言われている森鴎外を想起させる専門家集団がそこにいる。そして、とうとう、クラスターを追い続ければ感染を抑え込めるという幻想は消え去り、感染数は急拡大となっている。

昨年3-4月の時点で、すでに下記のことがわかっていた。

(1)一定の割合(20%前後)で無症状感染者がおり、この人たちも感染を広げうる。

(2) 症状が出現する約2日前から、他者に感染を引き起こすことができる。

(3) 熱帯地域でも感染が広がっていたので、インフルエンザのように暑くなれば感染が収まるとは考えにくい。(トランプ大統領の楽観説は、夏場になるとウイルス感染は収束すると信じていたところからきている)

(4) 感染症2類に分類したために、コロナ感染陽性者を、症状の有無にかかわらず、全員入院させなければならない制度上の欠陥(あの時点で、軽症者を自宅療養やホテル療養できるような制度にすれば、医療崩壊を防ぐためにという本末転倒の議論は消えていたかもしれない)

(5) そして、PCR検査を偽陰性ですり抜ける患者がいることも、クラスター追跡でわかっていたはずだ。

(6) 米国の東海岸と西海岸のウイルス型の差が、感染の拡大と重症度に関連する可能性も示されていた。

(1)(2)(6)から、症状が出てから濃厚接触者を見つけて抑え込めばいいという、これまでの感染症の常識からクラスターを追いかけ続けることが非科学的であると、多くの人は判断したのだが、日本の専門家はそうでなかったことは歴史の教訓として残すべきである。検査を徹底しなければ無症状感染者からの感染は止まらないのは、難しい推論ではない。

ただし、中国のように徹底したPCR検査体制がどうしてできなかったのかという闇を今追及しても何も生まれない。そして、医療供給体制をどのように整備するのかは行政と医療関係者の使命感に任せるしか手はない。医療側の努力が限界にきていることは否めない。補助金で何とかなるというのは幻想であり、人的資源が尽き果てつつあることを前提での対策が必要だ。ワクチン接種が行き届けば、事態の改善が期待されるが、調査では半数が副反応を恐れて受けないという。もっと少なければモグラたたきのような危機的状況は何年も続く。現在は崩壊したともいえる状態の医療供給体制を維持するための議論が中心だが、コロナを完全に抑え込むための方策の準備も不可欠である。

それには

  • 1日数百万検体レベルでのPCR検査体制を構築する。全自動検査機器を用いて整備すれば、1か月に50万ずつ増やすことは間違いなく可能だ。全自動なので人的資源の確保は最低限でいい。検査のコストももっともっと下げられるはずだ。テレビで放映されている検査の姿などあまりにも前近代的である。
  • 今は難しいが、少し落ち着いた時点で、感染者周辺のPCR検査を徹底して行う。しかし、この際の対象者の選別が容易ではない。COCOAという感染者の近くにいたことを見つけ出すアプリがあるが、どの程度利用されているのか不明だ。COCOAの導入を義務付けると保健所の負荷を抑えることができる。プライバシー侵害は確実に起こるが(国は起こらないと言っているが、こんな誤魔化しは通じない。国に対する信頼感が揺らぐ中で、プライバシーを侵す危険性も周知すべきだ)、ごまかしではなく、命を守るために重要であることを呼びかけてほしい。それほど事態は悪化しているのだ。ただし、この近くにいたかどうかという情報だけでは、日本の通勤電車という特殊環境の中では収拾がつかなくなる可能性がある。
  • 保健所への問い合わせや救急搬送システムをデジタル化、自動化する。医療機関や検査センターへの問い合わせのかなりの部分は、人工知能で置き換えることが可能だ。われわれのコロナ人工知能相談アバター(英語・中国語の対応も可能)は2週間ほどで準備できた。必要な情報を集めれば、有能な技術者はすぐに実用的なものを作ることができるはずだ。
  • ワクチンの副反応をリアルタイムで集めるシステムの構築。これもQRコードやスマートフォンをうまく活用すればできる。頭の中のアナログシステムを断捨離しなければならないが、役所でなく企業に任せればできる。
  • ウイルスゲノムを全例解析するシステムの構築。現在利用されているワクチンは、コロナウイルスのスパイク蛋白を利用したものである。ウイルスが変異すれば、感染力や重症化率にも影響を及ぼすだけでなく、ワクチンが効かなくなる可能性もある。たとえそうであっても、ゲノム情報をもとに、日本人のためのワクチン開発にすぐつなぐことができる。抗体にばかり目が向いているが、感染細胞を殺すT細胞の強化も必要だ。そして、言うまでもないが、副反応に要注意だ。もし、重篤な副反応の頻度が高ければ、ワクチン接種を受ける割合は激減する。これは最悪のシナリオであり、日本の経済的ダメージはさらに大きくなる。