前立腺がんや大腸がんの手術の意義?

先週、ようやく年金の手続きを終えた。私の年代の医師は、医局の指示もあり、転々と職場を変えた。その影響もあり、私の場合、10カ所の年金記録があった。また、合計11年以上の米国暮らしもあり、書類の準備が大変だった。先週の金曜日に、「これで書類はすべて揃いました」と言われたので、恐る恐る、「ところでいくらくらいいただけるのでしょうか?」と聞いてみた。「約58万円です」との返事に、月額ではありえないし、「まさか、まさか、これだけ働いてきたのに、年額?????」と動揺した。「これって年額ですか?」との問いに、相手も私の気持ちを察したのか、「働いていると、共済年金は支払われません。基礎年金だけです。」と。「働き続けていると全くもらえないのですか?」の質問には、つれなく「そうです。」との返事。何のために年金を納め続けているのやら????

 

と嘆きはやめて、本論に移る。外科的手術の必要性・重要性を示す二つの論文が発表された。ひとつめは、New England Journal of Medicine誌に報告された「Radical Prostatectomy or Watchful Waiting in Prostate Cancer – 29-year follow up」というタイトルの論文だ。198910月から19992月の10年にわたって登録された695名の限局性前立腺がん患者の追跡調査結果である。

 

695名のうち、347名は前立腺摘出手術を受け、348名は経過観察が行われた。2017年末までに、手術切除群では347名中261名が亡くなり、観察群では348名中292名が亡くなった。もちろん、高齢者はがん以外の病気でも亡くなるので、この数字だけを単純比較はできない。前立腺がんに起因する死亡数は 手術群では347名中71名で、観察群では348名中110名であった。観察群では、前立腺癌による死亡リスクは約11%高いことになる。23年間の追跡調査の結果からは、手術群の方が、生存期間が2.9年間長くなると期待された。手術群だけで見ると、被膜を超えて広がっていた患者は、被膜を超えていない患者よりも5倍死亡率が高く、グリ-ソンスコア8以上の群が、それより小さい群より10倍高かったそうだ。ホルモン療法なども受けているので、単純な評価はできないが、摘出できるがんは、取った方がいいということだ。

 

しかし、29年の間に前立腺がんの治療法は大きく変わった。最近では放射線療法(放射線を放出する小さな針の様なものを前立腺に打ち込む小線源療法を含む)、手術も内視鏡的切除が多く行われるようになってきている。この論文のような長期間のフォローアップデータは臨床的には非常に重要とは思うが、今のように次々と新しい治療法・治療薬が生み出される状況下では、このデータをどのように臨床の場で反映するのかは難しい。「目の前のがんは見過ごしにするな」がこの論文からの教えなのだろう。

 

もうひとつは、Lancet Oncology誌の「Surgical treatment and survival from colorectal cancer in Denmark, England, Norway, and Sweden: a population based study」というタイトルの論文だ。デンマーク、イングランド、ノルウエー、スエーデンの4か国における国に登録されたデータに基づく大腸がんに対する成績の比較だ。この研究の目的は、イングランドとデンマークの大腸がん生存率が低いことの原因の探索だ。

 

4か国のデータベースから合計139,457名の結腸・直腸がん患者(デンマーク、12,958名;イングランド、97,466名;ノルウエー、11,450名;スエーデン、17,583名)の患者情報を比較検討した。すべての結腸がん患者のイングランドとデンマークでの3年生存率(63.9%65.7%)はノルウエー(69.5%)やスエーデン(72.1%)よりも低かった。直腸がんの3年生存率では、イングランドが69.7%であるのに対して、デンマーク、スエーデン、ノルウエーは、それぞれ72.5%74.1%75.0%と高かった。これらの違いを検討したところ、その最大の理由は手術を受けた割合で、特に75歳以上で差が顕著だった。75歳よりも上の大腸がん患者で切除手術を受けた割合は、イングランドは59.7%31,946名中19,078名)に対して、スエーデンでは80.9%5.474名中4,429名)と大きな差があった。同じように、75歳よりも上の直腸がん患者の切除手術を受けた割合は、イングランドは45.7%10,195名中4,663名)に対して、スエーデンでは61.9%2,169名中1,342名)と15%以上の差があった。結論としては、イングランドでの高齢者の大腸がん・直腸がんの手術適応の範囲が狭いために、生存率が低いと推測されていた。

 

この二つの論文は、「がんは、切除できるものは積極的に切除することが予後の改善につながる」という事実を改めて伝えてくれた。しかし、上述したように、前立腺がんは、放射線療法を忘れてはならない。

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