免疫チェックポイント抗体治療はいつまで続ければいいのか?

Lancet Oncology誌の11月号に「Nivolumab plus ipilimumab or nivolumab alone versus ipilimumab alone in advanced melanoma (CheckMate 067): 4-year outcomes of a multicentre, randomised, phase 3 trial」というタイトルの論文が発表されている。

 

英国の雑誌なので、米語の「center」が「centre」、「randomized」が「randamised」と英国スペルになっていることに少し違和感があるが、なつかしい。私は中学1年生の時に、英国語の教科書で習っていて、2年生から米国語に変わって戸惑ったことを記憶している。センターは「center」と書く方がなじみやすい気がする」が、ブリティシュなまりの口の中でこもったような発音だと「centre」の方がぴったりくるのだろう。英国はEUから離脱寸前だが、英国の混乱が世界中に波及しないことを願っている。

 

話は逸れたが、本論に戻そう。上述の論文は、ステージ3、もしくは、4の無治療メラノーマ患者に対する、抗PD-1抗体(Nivolumab)・抗CTLA-4抗体(Ipilimumab)・両者の併用療法の比較試験における4年経過時点での結果を報告したものである。早い時点での結果は既に報告されており、生存期間でみると併用療法がNivolumab単独より少し良く、両者はIpilimumab単独よりもかなり良好であるという結果には変わりはない。平均生存期間中央値は、併用療法では46.9か月の追跡期間内では数字は出ていない。Nivolumab群では36.9か月、Ipilimumab群では19.9か月となっている。免疫療法は、抗がん剤で患者さんを弱らせる前に投与する方が効果が高いと改めて思った。

 

ただし、グレード3-4の副作用発症頻度は併用療法で59%313名中185名)、Nivolumab単独群で22%(313名中70)Ipilimumab単独群で28%311名中86名)となっており、併用群での副作用発生頻度はかなり高い。同じ免疫チェックポイント抗体と分類される二つの薬剤だが、その作用機序は異なるため、併用療法では、免疫抑制のシステムを抑え込みすぎるために(自分自身のがん以外の正常細胞に対する免疫反応も抑えきれなくなり)、自己免疫反応がかなり強く起こると考えられる。

 

上記は、これまでの復習のようなデータだが、私がこの論文で最も注目したのは、副作用のために治療が継続できなかった患者さんと治療を継続しできた患者さんとを比較したデータだ。差はわずかだが、副作用によって治療を中断した患者さんの方が生存率は高い。副作用の強く出た患者さんの方が、がんに対する免疫反応が強かったという解釈ができる。しかし、生存が長いということは、薬剤投与を中止しても、がんに対する免疫反応が維持されていることも意味する。この事実は重要だ。

 

高額な医薬品をいつまで使えばいいのかは、医療費の観点から非常に重要な課題である。免疫ゲノム学的な解析をすれば、患者さんの体内でがん特異的細胞が維持されているかどうかは科学的に解明できる。数千億円の薬剤費の削減につながる研究分野だ。シカゴ時代にMDアンダーソンがんセンターとの共同研究で、TIL(がん組織に浸潤していたリンパ球を体外で増やした後、患者体内に戻す治療法)療法後の血液を調べたところ、効果があった患者さんでは体内に戻したリンパ球が長期間維持されていることを見出した。効かなかった患者さんではTILはすぐに体内から消えた。

 

Immunopharmacogenomics(免疫薬理ゲノム学)(免疫反応を調べるゲノム学と薬理ゲノム学の融合)の重要性を提唱して5年になる。オーダーメイド医療は社会に認知されるのに20年近くかかった。これとと同じように、免疫ゲノム薬理学の重要性が認識されるまでに、あと十年以上経なければならないのだろうか??失われたゲノムの10年を取り戻すためにも、大きな取り組みを始めてほしいものだ!

 

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