免疫チェックポイント抗体の効果予測をリキッドバイオプシーでする!?

Nature Medicine」誌に「Blood-based tumor mutational burden as a predictor of clinical benefit in non-small-cell lung cancer patients treated with atezolizumab」というタイトルの論文が掲載されていた。Atezolizumabは免疫チェックポイント抗体のひとつで、PD-L1に結合する抗体である。

 

免疫チェックポイント抗体が効果を発揮する可能性が高い患者さんは、(1)がん細胞内の遺伝子異常数=ネオアンチゲンの多い症例、(2)がん組織内でTリンパ球(CD8タイプ)の多い症例、(3)PD-L1の発現の高い症例(最近の論文では、強い関係はなさそうだが)となっている。この観点から、がん組織を入手して遺伝子異常数を調べることが重要になってくる。

 

一般的な大腸がんでは、免疫チェックポイント抗体の有効率は一桁の%だが、DNA修復遺伝子に異常のある大腸がん(遺伝子異常の多いがん)では60%と非常に高くなっている。米国FDAは遺伝子不安定性の高いがん(=遺伝子異常の多いがん)に関して、がんの部位にかかわらず、免疫チェックポイント抗体の使用を承認している。これらの検査にはがん組織を調べることが必要だが、バイオプシーには出血などの合併症が一定の割合で起こる。また、米国でのバイオプシーは1件につき、100万円もかかるので、費用対効果の観点で問題が残る。

 

そこで、がん細胞で生じている遺伝子異常数を、腫瘍の遺伝子検査ではなく、リキッドバイオプシー検査を代用して推測できるのかどうかを評価したのが、今回の論文だ。すでに広く利用されているFoundation Medicine社アッセイ法を利用して、腫瘍とリキッドバイオプシーのデータを比較したものである。科学的なレベルに関しては、いささか疑問が残るのだが、結論から言うと、リキッドバイオプシーで、がん組織で起こっている遺伝子異常数の把握を、十分に代用できるようだ。技術は確実に進歩しているが、これを評価して、推進する人たちが、永田町にも霞が関にも枯渇しているような状況だ。最先端の技術というのは、95%の人が納得してから取り込むのでは遅いのだ。競争相手よりも、早く、しかも、組織的に取り組んでこそ、競争に勝てるのは常識なのだが、日本ではこれが通用しない。逆に、権威と言われる人たちは一言で否定し、多くの人がそれを盲信する。これは日本の悲劇ではなく、もはや、喜劇的に見えてくる。

 

論文のような研究は、臨床応用に直結するものであるので、方法論が国際的に標準化されてしまうと、日本はこの方法に黙って従わざるを得ない。また、国際臨床試験では、多くの場合、日本人患者さんの試料は、治験の元締めである欧米企業に運ばれてしまう。そして、それらの試料を用いて検証がなされ、検査法と一緒に日本に持ち込まれることになる。時代を先取りしたプランニングがなされないと、日本のがん医療は永遠に欧米の属国化されてしまう。

 

属国でも最先端の医療ができればいいと、したり顔でいう人がいるが、医療費の高騰、特に医薬品、診断費用として膨大なお金が海外に流れていく現実をどうとらえているのか、疑問でならない。医療費が増えても、それが国内で循環していれば、税金という形で還元されるが、そのようになっていない現実を捉えた国の政策立案が不可欠だと思う。今年の上半期の医薬品輸入額(速報値)は1兆4430億円で、輸出額は3218憶円なので、医薬品の貿易赤字は4年連続で2兆円越えがほぼ確実だ。これでいいのか、日本の医療は?

 

最後に、昨日の講演会にたくさんの方々に集まっていただいたこと(500人の会場がほぼ満席でした)に感謝を申し上げたい。その場で訴えたことはたくさんあるが、特に強調したいのは、(1)延命ではなく、治癒を目指したがん対策を推進することと(2)「がん難民」対策だ。海外で使える薬剤が使えない患者さんだけが「がん難民」ではない。標準療法が尽きた患者さんたち、高齢で抗がん剤が使えない患者さんたち、標準療法が限られている小児がんや稀少がんの患者さんたち、心臓・肝臓・腎臓の機能が落ちているために治療法が限られている患者さんたちもにも光を当ててほしい。もちろん、抗がん剤を絶対受けたくない患者さんたちにも、科学的な根拠のある希望が必要だ。私のような研究者ができることは限られている。患者さんや家族が、変革を起こしていくしか術はない。

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