腫瘍内浸潤リンパ球(TIL)療法が効いた症例での抗原は?

先月号のScience誌に「Landscape of immunogenic tumor antigens in successful immunotherapy of virally induced epithelial cancer」という論文が公表された。これは、腫瘍内に浸潤しているリンパ球(Tumor infiltrating lymphocyte=TIL)を取り出し、培養してその数を増やし、増えたリンパ球を患者の体内に戻す治療法である。日本では単にリンパ球を増やして、再び体内に戻すリンパ球療法が広く利用されているが、基本的な原理はかなり異なるので留意して続きを読んで欲しい。

論文では、TIL療法を受けたHPV(ヒトパピローマウイルス)に感染している進行子宮頸がん患者のうち、がんが消失し、54ヶ月間と46ヶ月間を経過している患者さんの免疫学的解析を行い、がん抗原とそれらに対する免疫反応の詳細を報告していた。同様のTIL療法を受けた患者さんのうち、どの程度の患者さんに効果があったのか、この論文ではわからないが、効果のある患者さんがいるのは明らかだ。

パピローマウイルスはいくつかのタンパクを作るが、そのうち、発がんに関係するとされるE6・E7に反応するリンパ球は検出されたが、その他のウイルス由来タンパクに反応するリンパ球は検出されなかった。これ以外の抗原として、一人の患者さんでは、3種類の遺伝子変異を有するタンパク質の一部(ネオアンチゲン)が抗原として明らかにされた。3種類の抗原の由来するタンパク質は、SETDB1、METTTL17,ALDH1A1であった。前者の2遺伝子はメチル化転移酵素機能を持つとされており、後者はアルコールの代謝分解に関連するアルデハイド脱水化酵素である。メチル化転移酵素はわれわれが15年間くらい研究に取り組んでいる酵素である。ALDH関連の酵素はがん幹細胞との関連が示唆されている。このデータは、ネオアンチゲン推進派を勇気づける。

その一方、がん精巣抗原(がんと精巣で高い発現の見られるタンパクの一部=われわれの定義するオンコアンチゲンと重複する)の一つであるKK-LC-1に対するリンパ球も検出されている。調べられたがん精巣抗原が7種類しかなく、われわれのものは全く含まれていなかったので、TILの中にわれわれのオンコアンチゲンに反応するリンパ球があったかどうかは不明だ。しかし、このデータは、がん特異的に高発現するタンパク由来の抗原も重要であることを示唆している。また、効果があったこの二人の患者さんでは、増殖後体内に戻した腫瘍反応性リンパ球が長期間血液内で維持されていることが示されており、これはわれわれがTIL療法を提供している他の研究機関の試料を調べた結果と同じだ。臨床効果のなかった患者さんでは、患者さんに戻したリンパ球がすぐに体内から消えていた。

TIL療法は、腫瘍内から多数のリンパ球を取り出すために、ある程度の大きさのがん組織が必要だが、遺伝子操作が不要なため、決して難しいものではない。ただし、有効率がかなり低いとされており、腫瘍内のリンパ球の中に、殺腫瘍効果を持つリンパ球がどの程度存在しているのかの見極め診断が絶対的に必要だ。また、手術で摘出したがん組織から、大きな部分を無菌的に採取しなければならず、がん組織に対する病理学的な検査を優先すべきかどうかで、大きな議論となることが多い。がん組織だけでなく、それにつながっているリンパ節内にも腫瘍を標的とするリンパ球が多数存在する可能性もあり、今後の大きな研究課題だ。

最近、ある雑誌社から取材を受けたが、記者は「紛い物の免疫療法は取り上げない」と私の前で、言い切った。確かに、日本では紛い物が多かったし、白衣を着た詐欺師が今でも横行している。しかし、科学は、患者さん自身の持つ免疫の重要性を明白に示している。これをどこまで活性化するのかが、がん患者さんの生活の質を向上し、がんを治癒するためには絶対的に不可欠なのだ。白衣を着た詐欺師も問題だが、科学的な目を持たない臨床腫瘍医は、もっと厄介だ。

 

追加:5月1日付で、米国FDAはアストラゼネカ社のDurvalumab(抗PD-L1抗体)の尿路がんに対する適用を承認した。PD-L1陽性腫瘍での有効率は26%、PD-L1発現低、あるいは発現無の症例では4%だった。患者さんの選択が絶対的に必要だ。

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