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性的嗜好と咽頭部がんをつなぐパピローマウイルス

一昨日のワシントンポストが、「性的な嗜好が、咽頭部がんなどのリスクを増す」という特集を組んだ。俳優のマイケル・ダグラスが、4年前に、「自分のがんに性的嗜好が関係する」可能性を告げた際には、ほとんどの人が間違った情報を伝えられたのではないかと思った、というところから記事は始まっていた。

この性的嗜好が、口腔内や咽頭部にヒトパピローマウイルス(Human Papilloma Virus, HPV)感染症を引き起こし、これが発がんリスクを高めているのは、今では、医学的常識となっている。まさに、子宮頸がんリスクが、HPV感染症によって高まるのと同じ図式である。パピローマウイルスには100種類以上のタイプがわかっており、イボを引き起こすタイプもある。この中で、タイプ16とタイプ18(他にもいくつかあるが)が子宮頸がんに関連することがよく知られている。

感染しても、すぐにがんが発症するのではなく、多くは数十年の経過期間の後に発症することがわかっている。大半の場合には、このウイルスに感染しても免疫システムが働き、ウイルスを退治するが、一部の人では感染が持続してがん化につながっている。一度退治しても、一生続くような強力な免疫が誘導されないことが多い。また、持続感染があっても、がんが必ずしもできるわけではない。

このパピローマウイルスががんのリスクを高める原因はすでに明らかにされている。ウイルスが作りだすタンパク質である、E6、あるいは、E7と呼ばれるタンパク質が、がん抑制タンパクであるp53(人のがんの50%で遺伝子異常が見つかっている)やRB(網膜芽細胞腫―網膜にできるがん)に結合して、それらの働きを弱めることが一因である。一般的には、複数の遺伝子の異常が重なった結果としてがんが発生するため、HPV感染症だけでなく、他の遺伝子異常が起こらない限りがんには至らないと考えられている。

話を元に戻すと、性的交渉によって、男性の口腔内や咽頭部などにパピローマウイルス感染が生じた場合、子宮頸がんと同じような仕組みによって、発がんリスクを高める。頭頚部がんの14%-68%(報告によって数字が異なるが半数近い症例)で、HPV感染があると報告されており、特に中咽頭部がんで多いようだ。これは厳然たる科学的な話であり、これらのエビデンスによって、女性だけではなく、男性にもHPVワクチンの投与を推奨している国もある。

もちろん、喫煙やアルコールなどの環境要因も、頭頚部がんの罹患リスクを高めている。とくに、お酒を飲んで顔が赤くなる人は、アルコール摂取には要注意である。と言いながらも、私も顔が赤くなるタイプなので飲酒は控えなければならないのだが。がんは、完全に予防することはできないが、リスクを低くする事はできる。ウイルスが関係しているがん、たとえば、子宮頸がんや肝臓がん(肝炎―肝硬変―肝臓がん)などは、ウイルス感染を防ぐことががんリスクの低減につながるし、避けることのできる喫煙や飲酒に注意を払えばかなり違ってくる。

日本ではがんの予防にあまり努力が払われていないように思う。トワエモアの歌ではないが、「ある日、突然」がんが消え去るわけではない。予防はすぐに目に見える結果を出すわけではないが、一歩一歩出来ることから進めていくのが重要だ。

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