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がんの延命から治癒へ;プレシジョン医療―(4)

シカゴに戻っての1週間、体が鉛のように重かった。日本滞在中はかなり無理した自覚はあったが、歳には勝てない。そのためか、昨夜は12時間近く寝てしまった。こんなに長く寝た記憶はない。しかし、おかげで、霞がかかっていたような頭がスッキリとした。

 

今日は、日本滞在時に感じた、免疫療法に対する違和感について話をしたい。ちなみに今日から始まっている米国癌学会で、免疫療法とリキッドバイオプシーは中心的話題だ。色々な人と日本に次期がん対策に関する話を聞いたが、残念ながら、リキッドバイオプシーに対する反応は低かったし、「免疫療法」に対して批判的な声が消えないようだ。

 

科学として免疫療法は確固たる位置を築いたことは明白だ。日本では、いい加減な免疫療法が広がることを問題視し、憂慮している人が少なくないようだが、欧米ではいろいろな免疫チェックポイントを対象とする治療薬や多種類の免疫療法の検証が進んでいる。「怪しい免疫療法が広がることを懸念して、まともな免疫療法を抑え込む」ことは非科学的だ。国際的な環境は、「何かが起こる危険があるから、何もしない」といっているような悠長な状況ではない。「真っ当な免疫療法の科学的な妥当性を評価しつつ、怪しげな免疫療法を抑え込む」ことが、国・学会・医学研究者・医師を含む医療従事者の使命のはずだ。

 

このブログでも何度も紹介したが、現在、保険適用となっている免疫チェックポイント抗体は、分子標的治療薬に比べて効果は長期間継続するものの、効果を発揮するまでに少し時間がかかる場合が多い。しかし、有効率は20-30%と限られている。薬価が高いことが問題になっているが、分子標的治療薬と比べて桁外れに高額であるわけでもない。効果がない患者さんに対する無駄な投与や自費診療で治療を受けている患者さんや家族への経済的負担が課題なのだ。

 

米国では、図に示すような、分子標的治療薬と免疫療法の長所を生かして(短所を補うために?)、二つの治療法を併用する臨床試験が多数実施されている。分子標的治療薬で早くがん細胞を叩き、その間に免疫を活性化させて、長期生存する患者さんの割合(治癒率?)を高めようとしているのである。このまま、日本で何もしないでいれば、高額の医療費負担となって跳ね返ってくるのは必至の状況だ。

 

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免疫チェックポイント抗体が効きやすい人、効きにくい人の、がん組織を取り巻く環境は、単純化すると下記の図のようになっている。がん組織のPD-L1が高い症例が効きやすいとされているが、そのような症例では、CD8リンパ球(細胞傷害性を持つリンパ球)が増えていることが多い。すなわち、がん組織内にあらかじめがんを攻撃するリンパ球予備群の存在が重要だ。がんを守る免疫力を抑え込んでも、がんに対する攻撃力が備わっていなければ、当然ながら、効果がないのだ。

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では、さらに免疫療法の効果を高めるにはどうすればいいのか。いろいろと手段はあるが、素直に考えれば、がんを攻撃するリンパ球を増やす方法が頭に浮かぶ。しかし、それが高額であっては、患者さんに負担となって跳ね返ってくる。この観点では、ペプチドワクチン療法(オンコアンチゲンや、最近注目のネオアンチゲン)、あるいは、これらで樹状細胞を刺激した治療法が考えられる。これがもっともっと検証され、有効性が科学的に実証されれば、日本には大きな強みとなる。私が信じていることだけでは、屁のツッパリにもならないだろうが、とにかく私は信じているし、それを実証していきたい。

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嫌なもの、ゲテモノという視点で、目を逸らしていても、似非免疫療法クリニックはなくならないし、患者さんや家族を不幸にするだけだ。科学的な目を向ければ、国として取り組み、評価していくことは当然の流れだと思う。「可能性があるなら、それを科学的に評価していく」、これができないから、日本はこのようになったのだ。政治も、行政も、研究者も、現実に目を向けて、患者さんたちを救う手立てを考えて欲しいと願っている。

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