がんプレシジョン医療;かんの治癒を目指して(1)

今、金沢から東京へ向かう新幹線の車中にいる。自宅が羽田空港に近いので、今朝は飛行機で金沢に向かったが、夕方は東京駅近辺で用件があるため、新幹線にした。北陸新幹線に乗るのは初めてだ。この列車は東京まで3時間かかるので、結構体にはきつい。でも、若い時(といっても、もう、半世紀も前の話だが)、大阪から夜行列車を利用し、金沢・富山・糸魚川経由でスキーに行ったことが懐かしい。

 

しかし、今朝は腹立たしいことがあった。離陸前の機内で、若い女性二人の非常識な行動に、思わず、「コラ!」と叫んでしまった。私が座っている前を横切って、左側の通路から右側の通路に移動するのはいいが、まず、最初の女性が私の足の親指を踏んだのだが、謝る素振りもない。二人目は、鞄を私の膝にぶつけていったが、こちらも何の反省もない。そこで思わず、言葉が出たのだ。日本の道徳教育はどうなったのだろうか?

 

話を本題に戻し、表題のプレシジョン医療、がんゲノム医療の講演内容を数回に分けて紹介したい。少し前に紹介したが、がんの治癒には早期発見、早期治療が重要だが、肝臓がんや膵がんのようにステージ1でも10年生存率が30%のがんもある。これらのがんに対しては、もっともっと研究が必要だ。それにしても、レストランでの受動喫煙を減らすことに反対する人たちや子宮頸がんワクチンに反対する人たちなど、日本のがん予防対策はかなり大変だ。がん死亡を減らすには不可欠なのだが、利権や感情論が予防を難しくしている。科学的なリテラシーの不足が、客観的な議論の妨げとなっている。ワクチンの場合、社会全体の利益と個人の不利益の対立構造になっているが、前者の利益が後者に比して歴然と大きい場合、国は全体の利益を優先しつつ、個人の不利益を科学的に最小限にしていく責任があるのだが、こんなまともな議論さえできないのが現状だ。副作用には絶対に何らかの原因があるはずなので、感情論でワクチンそのものを葬るのではなく、原因解明のためにゲノム解析などを進め、被害を最小にする努力が必要だと考えている。少数の人権を無視するのではなく、後に起こる子宮頸がんによる死亡という現実を直視することが重要だと思います。

 

また、がん全体の10年治癒率をあと20%高めるには、これらの予防対策に加え、いくつかの具体的なアクションが必要だと思う。そのアクション項目を下記に列記した。しかし、これらのアクションは、個々の研究者の目標ではなく、国が組織として取り組むべき課題だ。数百万円から数千万円の研究費ではなく、国の仕組みとして確立するために、数百億円―数千億円単位で進めていくべき課題だ。

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がん検診率を向上させることは、早期発見につながる。たとえば、胃がんは検診システムが普及している日本では早期がんの状態で見つかる患者が多い。したがって、中国の胃がんの5年生存率と比較すると、日本のそれは数十%も高くなっている。かといって、大腸がん検診を、レントゲンや内視鏡で実施するとなると、医療現場は対応できないのは明白だ。便に血が混じっているのを調べる潜血検査は、擬陽性率(陽性と診断されたが、検査では腫瘍が見つからなかったケース)が90%を超える。新しいスクリーニング法の確立が急務だ。

 

新しいスクリーニング技術として、いろいろな方法が提案されているが、血液中のマイクロRNAやアミノ酸変化などを調べる方法には、私は極めて懐疑的だ。定量的な方法(ある分子が増えたり、減ったりしているのを調べる方法)は限界がある。正常値に幅があることや数字が連続的であるため、どこかで線を引くと、擬陽性が少なくない。もちろん、偽陰性(がんがあるが、検査では陰性となる)もある。すでにがんがあるか、ないのかわかっている条件で、ある分子の量の多寡で分類すると必ず、ある一定の割合でがんと関連しそうなもの(マーカー候補)が見つかる。

 

統計解析をしてP値が0.05であると意味があると信じて疑わない人が多いが、0.05という数字を反対から見ると、100種類調べると5個くらい関連があると間違って判定される可能性があるということだ。そして、このような可能性のあるマーカーを複数組み合わせると、いかにもがんが確実に診断できそうに見えてくるのである。これをオーバーフィッティング(うまく出来すぎ)と呼ぶ。私も苦い思いをした経験があるので、偉そうには言えないが、15年以上前から問題が指摘されている、このような統計学の罠を学習していない(勉強していない)研究者が、想像以上に多いのだ。

 

この点、定性的な測定法(がん細胞だけにしかない性質=DNA変異)を利用する方が白黒が明白だ。もちろん、偽陰性は起こるが、擬陽性は少ない。そこで、リキッドバイオプシーが重要となってくる。今の技術では正常細胞DNA:がん細胞由来DNA1000:1の割合であればほぼ確実に見つけられるところまできている。人間には60兆個(60㎏)の細胞があるので、1000分の1だとがん細胞が600億個(60g)にまで増えないと見つけられないのかというとそうではない。がん細胞は分裂が速いため、日々死んでいく細胞の数も多いので、これより2桁くらい少ない数でも、血液中に混入するがん由来DNAは検出可能と考えられる。現に、ステージ1の大腸がんでも40%で程度で血漿に存在するDNAを調べると遺伝子異常が検出されている。このリキッドバイオプシーの現状と課題については次回詳しく紹介したい。

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