制御性T細胞を利用した・標的にした治療

火曜日の内科の学術講演会は「制御性T細胞」を利用した、あるいは、標的にした治療の話だった。免疫反応は、必要な時に活性化され、細菌やウイルス感染を抑えるが、不必要になると免疫反応のスイッチをオフにする必要がある。活性化と抑制の微妙なバランスが保たれている場合は健康に生活できるが、バランスが崩れるといろいろな不都合が起こってしまう。

免疫が働かないと、感染症にかかりやすくなる。たとえば、抗がん剤治療の副作用で白血球が減ると、感染症に要注意だ。逆に、自分の細胞に対する免疫が強く働くと、自己免疫病が発症する。がん細胞に対しては、免疫がきっちりと働けば、体から排除することができるが、がんは免疫細胞の攻撃から逃れるためにいろいろな仕組みを働かせて、生き延び、広がり、転移して死に至らしめる。

このがん細胞に対する免疫を抑えている要因のひとつが制御性T細胞だ。制御性T細胞は、がん組織では、がん細胞を守る番人の役割をしている。この制御性T細胞は、細胞の表面にCTLA-4という分子を持ち、これががんを攻撃しようとするリンパ球の働きを骨抜きにしている。そこで考えられたのが、抗CTLA-4抗体であり、制御性T細胞を押さえ込むことに寄って、患者さんに一定の効果が認められている。しかし、がん組織に存在している制御性T細胞の働きだけを抑えるのではなく、全身に存在するすべての制御性T細胞を抑え込むため、不必要な部位でも免疫が活性化され、自己免疫病のような副作用が発生する。これは、原理上仕方のないことだ。

そこで、検証されているのが、EZH2というメチル化転移酵素の働きを抑える分子標的治療薬だ。この酵素の働きを抑えると、自己免疫的な反応がなく、がん組織の制御性T細胞を選択的に抑えると話をしていた。なぜ、がん組織特異的なのか、理由がよくわからなかったが、がんの周辺にいる制御性T細胞ではEZH2がより活性化されているのだろう(と想像するしかない)。これが、本当なら、抗体医薬品より安全で、安価に(?)治療薬として利用できるかもしれない。

そして、制御性T細胞を利用したⅠ型糖尿病治療の紹介もしていた。Ⅰ型糖尿病というのは、自己免疫反応によって膵臓のベータ細胞(インスリンを作る細胞)が破壊されることによって起こる糖尿病で、日本には少ない。子供に多く、インスリンが作れなくなるので、一生インスリン治療を継続しなければならない厄介な病気だ。最近、祈祷師がインスリンを打たなくとも治るとか言って、両親がインスリン投与を中止し、7歳のⅠ型糖尿病の子供が亡くなるという不幸があった。いい加減な祈祷師は問題だが、私は医師から説明を受けていたはずの親の責任の方が大だと思う。

話が逸れてしまったが、Ⅰ型糖尿病の発症初期に、患者さんから取り出した制御性T細胞を取り出して増やし、患者さんに戻す臨床試験が始まっている。他の自己免疫疾患への応用も開始されているようだ。日本では、まず、できない試験だ。なぜできないのか、それに対する回答を見出し、その対策ができない限り、日本発の医療イノベーションへの期待もできない。しかし、日本では時がゆったりと流れている。

2-3日前に、「北朝鮮が在日米軍基地を攻撃すると脅しているが、日本は大丈夫か」と私の研究室にいる人が不安そうに私に話しかけてきた。日本ではあまり話題になっていないと返答すると驚いていた。ミサイルの落下地点は、日本の排他的経済水域だ。自分の庭先に火炎瓶を投げつけられたようなものだが、日本は相当に鈍感だとしか思えない。今や、日本では私立小学校の話題で持ちきりだ。もし、トランプ政権が北朝鮮を攻撃した場合、日本は必然的に巻き込まれる。その時、どうするのか、真剣に考えて欲しいものだ。

そして、医療、がん対策、国として喫緊の課題も多いはずだ。ネットニュースを読む限り、太平の安眠を貪っているようにしか感じないのは私だけか?

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