肝胆膵がんの治癒率向上のための戦略

全国がん(成人病)センター協議会ががんの臓器部位別10年生存率を公表した。がんは高齢になるほど多く、別の病気で亡くなる場合もあるので、この数字はがんで亡くなった患者さんを元に補正されたものだ。がん全体の10年生存率は58.5%であり、がんを治癒できる割合は格段に改善されてきた。この数字は、全国の大規模なセンターの数字であり、日本全体の数字が反映されているかどうかは疑問が残る。しかし、次第に正確な数字が把握できるようになって来た事はきわめて重要である。正確な情報なくして、的確な解決策が提案できるはずがない。

ネットニュースで大きく取り上げられていたが、10年生存率は、臓器別、ステージ別で大きく異なる。前立腺がんでは、ステージ1・2・3の生存率は100%だが、ステージ4では40.5%と下がる。でも、ステージ4でも10年生存率40%超というのは高い数字だ。乳がんでは、ステージ1では95.0%、ステージ2では86.2%とほとんど治癒できると言っていい数字だが、ステージ3だと54.7%と悪化し、ステージ4では14.5%と急激に数字が悪化する。このがんでは早く見つかるかどうかが鍵となるのがわかる。ほとんどのがんでは、ステージ1で80%以上、ステージ2・3で50%以上、ステージ4では20%を切る数字となっている。早く見つけること治癒率向上につながることから、がん検診率を上げていくのが政策的にも重要だ。そうすれば、がん全体の医療費は抑制されるだろう。

しかし、肝胆膵と呼ばれる、肝臓、胆管系、膵臓のがんは数字がきわめて低くなっている。ステージ1でも、胆管系52.7%、肝臓32.0%、膵臓28.6%、ステージ2で20.1%、17.7%、9.1%となり、前立腺がんや乳がんの数字と比べて極めて悪くなっている。肺がんの場合でも、ステージ2で28.8%でこの時点で発見されても約4分の3の患者さんががんで命を落とす結果となっている。すい臓がんではステージ2で見つかっても、10年生存率は10%を切るという厳しい数字だ。

最新の治療法では、少しは改善されているであろうが、これらの早期に発見されても治癒率の低いがんに対しては、今までの考え方で改善されない事は明らかだ。ステージ1で手術可能であっても、手術直後から何らかの対策を打っていくことが絶対的に必要だ。画像で再発が確認されてから、次の手を打っても手遅れであることは、数字から明がである。ステージ1・2の手術後から積極的にがんと闘うべく介入をしていくことが求められる。

抗免疫チェックポイント抗体を手術後に投与することも考えられるが、再発予防効果と治療にかかる費用・自己免疫的な副作用との比がどの程度大きいのか、これはやってみないとわからない。これらの抗体医薬品の進行がんに対する有効率は20-30%であるが、早期のがんではがん細胞が免疫系の攻撃から逃れる準備ができていないので、もっと効果があるかもしれない。あるいは、これらのがんはもっと強かで、そうでもないかもしれない。これ以外にも、これまでは全身的な副作用がほとんど認められていないペプチドワクチンなどをこの段階で投入するのもいいかもしれない。

しかし、現実的課題としては、再発率などの低下を調べる臨床試験は、観察期間(患者さんが再発するかどうかの経過を見ていく時間)が長いため、膨大な費用がかかり、現状の臨床試験体制では実施をするためのハードルが高すぎる。国が支援する形でステージ1・2の肝胆膵がんに対する臨床試験の実施する必要だと思う。

もっと現実的なのは、画像で検出されないが、血液を利用したリキッドバイオプシーでがん遺伝子異常が確認された段階での、治療介入だ。がんの欠片も見つからない患者さんに対して副作用リスクのある薬剤の投与は、日本のメディアリテラシーの観点から袋叩きにあうリスクが高すぎるからだ。たとえ、ステージ2のすい臓がんの10年生存率が9%から30%に改善される可能性があっても、一人でも重篤な副作用がでれば、血祭りに挙げられる。もちろん、リキッドバイオプシーの精度が保証されることが最優先だが、CTやMRIの画像で診断されてから治療を始めても限界のある事は数字から明白であるので、超早期診断・超早期治療は科学的にも妥当だと私は考えている。

肝胆膵がんに対する有効な分子標的治療薬が開発されればベストだが、現状でも、臨床のデータと科学的エビデンスを組み合わせて。やればできることはあるはずだ。ただし、患者さんたち自身がそれを求めない限り、挑戦は難しい。

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