プレシジョン医療・人工知能の可能性とそれに挑む覚悟

今、羽田空港にいる。2日間で10を超える会議・会食に参加して、少々くたびれた。多くの人と話をしたり、昨日のがん研究会とフロンテオヘルスケアとのプレス発表に参加して、「プレシジョン医療」という一言だが、人によってその意味するところは、かなり差があると実感できた。

 

オバマ前米国大統領が「プレシジョン医療」イニシアチブを宣言してから、オーダーメイド医療や個別化医療という言葉は、かき消され、猫も杓子も「プレシジョン医療」という言葉を使うようになった。私も一匹の猫になってしまったので、偉そうに言える筋合いではないが、少なくとも「プレシジョン医療」に込めた思いはわかっていると思う。

 

「プレシジョン医療」イニシアチブは、医療全体の仕組みを変える取り組みである。もちろん、ある薬を特定に遺伝子異常に基づいて投与するのも「プレシジョン医療」の一環ではあるが、「必要な治療法(あるいは予防法)を必要な患者(個人)に必要な時に、いつでも届けられる」医療体系の構築を目指したものだ。

 

この観点では、がんの専門家よりも、一般の患者さんの方や医療従事者以外の方が、全体像をすんなりと受け入れてくれるような気がする。専門家の多くは、保険診療の枠内で治療をすることがすべてと考えている。患者さんや家族が、必死で海外の信頼できる情報にアクセスし、それを医師にぶつけても、話が通じないことも少なくない。情報がオーバーフローする中で、正しい信頼に足る情報を選り分け、それを患者・家族だけでなく、医療従事者にも共有できるようにするのは、非常に困難な時代になっている。ビックデータを利用するのではなく、信頼に足るデータだけを選ぶことが今の課題ではないのか。そして、その役割を担うのが人工知能だ。

 

しかし、白と黒をまぜると、灰色になるように、今のようなビックデータを解析することを売りにする方法では、正しい色が見えてこない。コンピューターに学習機能があっても、元になるデータが不正確では正しい答えが見えてこない。1+1=5と記したデータが20回でてきて、1+1=2と記したデータが5回しか検索されなければ、コンピューターは2には正解と判断できるはずがない。基本となる正しい情報が教えこまれていなければ、正しく学習することなどできないのだ。

 

医学研究では再現性のないことが少なくないと指摘されている。単純な間違い、研究者の知識不足、不適切な研究手法に加え、悪意のある改変など多くの原因があるが、誤った情報が氾濫している。玉石混交の中で、玉を選ぶこと、すなわち、専門家が基盤となる「正しい」情報を教え込ませるところからスタートしないと、優秀な人工知能を作り上げることは難しい。

 

人工知能・プレシジョン医療の世界は、大海のように大きな可能性が広がっているが、その世界で生き残っていくには、大きな覚悟が必要だ。

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