胸に刺さったナイフ

今、オヘア空港にいる。35日で日本に戻るためだ。プレシジョン医療実現のための活動の一環だ。日本が世界から取り残されないように、前進あるのみだ。

 

患者さんとの連携を呼び掛けてから、患者さんや家族からの問い合わせが増えた。多くは、もう何もないと医師から見放された患者さんとその家族からである。保険診療の中で利用できる治療法や治療薬が何もないということと、実際に何もすべき手段がないということは同じではない。インターネットを検索すれば、米国で承認を受けたが日本では未承認の治療薬、研究段階の治療法、探索的に始められた治療法など、たくさん見つけることができる。

 

もちろん、白衣を着た詐欺師は、そのような中で、しっかりと自分の存在感を誇示している。残念ながら、インターネットは情報の氾濫状態であり、詐欺師は甘い囁きが得意なので、いったん引っ掛かってしまうと、蜘蛛の巣にトラップされた蟻のように罠にはまってしまう。

 

公的なデータベースが、信頼できるデータを選択して公開していれば問題はないが、標準療法を超えた情報を提供できではいない。情報公開すると、標準療法がすべての彼らの方針に反するだろうし、情報提供しても、その治療法を提供できなければ、自分たちのふがいなさをさらけ出してしまうからだ。しかし、国民には、患者さんには、家族には、標準療法として確立されるまで待てるだけの時間が残されていないのだ。国には、研究段階のものをもっともっと提供する責任があると思う。生きる権利は、憲法で保障されているはずだし、米国ではできるが、日本ではできないというのは、国として恥ずかしいことではないのか!?

 

と言いながらも、心にぐっさりとくる問い合わせがあって、気持ちは沈んでいる。滑膜肉腫の子供さんを持つご両親から、私たちが開発した抗FZD10抗体についての問い合わせがあったのだ。同類の問い合わせは、初めてではない。以前はフランスで治験をしていた時のことだった。治験を始めてから、フランス人しか、治験にエントリーできないことを知った。日本人が作った薬の治験に、日本人が参加できないのはどうしてなのかというお父様の問いに、胸が詰まり、返事の言葉が浮かばなかった。ナイフを心臓に突き立てられたような思いだった。もちろん、突き刺さったナイフは、そのままだ。

 

自分たちだけの努力ではどうにもならないレベルの問題だとはわかっていても、どうしてこんなに時間がかかるのか、誰かを責めたくなってしまう。特に、現場にいる人たちが口先だけに見えてくると、怒りを抑えるのが苦痛となる。今回の問い合わせは、私に責任という重荷を再認識させるには十分だ。

 

自分の手を離れてどうにもならないという言い訳を捨てよう。水攻めや鞭打ちのような野蛮な行為で人は動くはずもない。気持ちが通じ合う人たちを集めて、物事を前に進めるように動けばいいのだ。抗体薬が使えなくとも、ネオアンチゲンを含めたがんワクチン療法、T細胞療法など、可能性のある治療手段を提供することはそれほど難しくはない。国が支援しなければ、民間で推進すればいいと思うし、仲間を集めて、それを早く実現したい。

 

これから13時間のフライトだ。飛行機の中で、じっくりと案を練ろう!

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