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公共の利益と個人の不利益、科学と情緒のバランス

米国臨床腫瘍学会は子宮頸がん予防ワクチンの啓蒙活動として、ビデオを作製し、Youtubeで公開している(https://www.youtube.com/watch?v=O_OQK030tUw)。HPV(ヒトパピローマウイルス)が子宮頸がんと関連することが明確であり、ウイルス感染の予防が、子宮頸がんの予防につながることから、世界的に広がっており、今年になって中国でも承認された。最近では、頭頚部がんや咽頭がんの発症にも関与していることから、女性だけでなく、男性もこのワクチンの投与が始まっている。

この子宮頸がんワクチンに限らず、日本のワクチン行政は、情緒的・非科学的なメディア報道によって長年歪められてきている。もちろん、行政が筋を通した対応ができてこなこったことに問題があるのだが、常に公共の利益と個人の不利益、科学と情緒といった対立構造で語られるため、議論がかみ合わず、その時々の副反応と感染拡大の振り子の傾きによって、ワクチンの是非が決められているように思う。

副反応が大きく報じられると、ワクチンが中止され、感染が広がって問題が生じると、ワクチンが再開される。このブログで何度も語っているが、同じものを同じように同じ量を投与しても、100%同じ結果とはならない。結果の違いは、不幸にも起こった副反応・副作用は、医療を行ったものの責任でも、薬剤やワクチンの責任でもない。人間の多様性といった、生物の進化の基本に由来する問題だ。

DNAを合成する遺伝子など、大腸菌から人間まで保存されているような遺伝子には遺伝子多型(遺伝暗号の違い)は少ない。このような細胞の複製・分裂に基本的に不可欠なタンパク質に変化をもたらすと生物は生存することができない。しかし、長い歴史の中で、感染症が拡大したり、新種のウイルスや細菌が登場した場合、免疫系などの遺伝子に起こった遺伝子変化が有利に働くことがあるため、遺伝子多型(多様性)が蓄積されてきた。また、気候変動(たとえば寒冷期)に対応できるような遺伝子多型を持った生物が生き延びることができたのである。飢饉に耐えることができる糖質などの吸収のいい人やエネルギー消費の低い人は、肥満につながりやすいはずだ。

免疫系遺伝子は一般的に多様性に富んでおり、HLA(白血球型遺伝子)、T細胞受容体、B細胞受容体など特に多様性に富んでいる。これらの複雑な多様性ゆえに、ワクチン投与によって思わぬ副反応が出る場合がある。特定の薬剤を特定のHLA型を持つ人に投与すると、死に至るような薬疹がでることはすでにわかっている。今では、一部の薬剤では事前にHLAを調べることも実施されている。十数年前までは謎の副作用であったものが、副作用予防まで進展しているのである。

これらの科学的な事実は、公共の福祉を最大にして、個人の不幸を最小にすべき方法をわれわれに提示しているはずである。社会全体としてこのような情報を共有して、われわれの持つ多様性を科学的に理解し、感染症やそれに由来するがんを防ぐために何をすべきなのか、科学的に議論できないものだろうか?正確な科学的情報を共有していくシステムの構築が不可欠だと思う。

そんなことを考えている時、産経新聞で、ある会社の健康サイトが閉鎖になったというニュースを読んだ。利用者による自由投稿の中に問題のあるものがあったからだそうだ。詐欺師たちは目を皿にようにして獲物を探している。今時、自由投稿にすれば、このような問題が起こるのは時間の問題だったはずだ。自由投稿は、提供できる情報量を、安価に増やすことにつながるが、それは、みんなが善人である前提があってこそ機能する。詐欺事件が横行する時代に、健康情報に対して、自由投稿はないだろうと思う。情報量も重要だが、内容に誤りがないことが最優先だ。

みんなが信頼できるデータベースの構築が必要なのだが、国営にすると経費は毎年削減され維持・運営が大変だ(私の限られた経験では、継続して維持することの重要性が理解されることがなかった)。民間で運営した場合、どのように収入を維持するのかが大変だ。しかし、このようなデータベースを構築しなければ、いろいろな形で生ずる不幸を減らすことはできない。

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