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血液中のDNAでがんがどこまでわかるのか?

今日、シカゴ・オヘア空港で航空機の火災があった。ニュースで見るとかなり激しい火災で、離陸後に発生していたらと考えると寒気がする。水・木曜日に一泊2日でサンフランシスコに出張し、昨夜戻ってきたが、火災機と同じ会社のフライトだった。事故後、オヘア空港は大混乱となったようだが、負傷した人はいるものの、わずかなタイミングで、大惨事とならずによかった。

 

この出張は、サンフランシスコのバイオ企業と血液を利用したがん診断での共同研究を目的としたものだ。バイオ企業といっても、多くの会社を傘下に従え、グループ全体の年間売り上げ約2兆円、従業員5万人という大企業だ。この会社の社長とは、彼が日本支社のトップであった時に知り合いとなり、15年以上に及ぶ付き合いだ。彼との知的で・前向きな会話は楽しい。

 

今回の訪問はいろいろな目的があったが、その一つが、リキッドバイオプシー(血漿・尿などの体液を利用したがんの診断)が、どの範囲まで臨床応用可能かを話し合うことと、具体的な共同研究を前に進めることだった。私が考えるリキッドバイオプシーの応用は大きく分けると3種類ある;(1)分子標的治療薬の選択のための診断、(2)がんの再発の超早期での発見、そして、(3)がんのスクリーニングである。

 

(1)分子標的治療薬の選択

がん組織における遺伝子異常を検査したうえで、分子標的治療薬が提供されるのが望ましい。手術後の患者さんであれば、手術時のがん試料を利用することが可能だ。ただし、再発時のがんの遺伝子異常が、手術時と同一とは限らない。がん細胞の遺伝子異常を積み重ねていき、時々刻々変化するのだ。手術試料がない場合、針を刺して、組織を取るバイオプシーが必要となるが、肺がんや他のがんの肺転移の場合、肺のバイオプシー検査によって気胸や血胸(胸腔内に空気が漏れたり、出血したりすること)などが生じることが少なくない。また、肝臓に転移した組織も、それなりにリスクがある。

 

したがって、血液中に漏れ出たがん細胞由来のDNAを調べることができれば(リキッドバイオプシーで検査できれば)、患者さんの検査に伴う合併症リスクを回避することができる。進行したがんでは、リキッドバイオプシーで分子標的治療薬の選択が可能と思われるが、がんが小さければ偽陰性(本当は陽性なのに陰性)と診断して、治療の機会を逃す危険がある。したがって、がんの大きさがどの程度までなら、確実に検出できるのか、十分な情報を収集する必要がある。そして、判定が確実にできそうながんの範囲などをガイドラインとして決めて応用すれば、バイプシーに伴う合併症を減らすことができるだろう。

 

(2)再発のモニタリング

手術やバイオプシー試料を利用して特定の患者さんにおける遺伝子異常を判定しておけば、その情報をもとに、超早期(CTMRIなどの画像では診断できないレベル)のがん再発の判定ができる。10ccの血液から血漿(血球を含まない液体部分)を分けてDNAを取り出すと、5-20ナノグラム程度のDNAが回収できる。約7ナノグラムは1000細胞分、2000ゲノムのDNAに相当する。これに含まれるがん細胞の遺伝子異常1個分を確実に診断できれば、画像診断よりも6-9ヶ月早くがんの再発を診断することが可能と報告されている。正常DNA数千コピーに混入する、がん由来DNA1コピーを見つけることは、もはや技術的に可能であり、実用段階での問題を評価していく段階だ。超早期診断、超早期での治療が治癒率を高めることを、私は期待している。

 

(3)がんのスクリーニング

(2)で示したように、正常DNA数千コピー分に混入した、1コピーのがん由来DNAの検出は可能だ。(2)の場合には、すでに分かっている遺伝子異常を追跡するので、診断エラーの確率はかなり低い。しかし、がんを見つけるためのスクリーニングとしては、人のがんで異常を起こす頻度の高い100-200遺伝子を一気にシークエンス解析する必要があると考えられている。早期がんの場合、血漿中のがん由来DNAが数千分の1よりもさらに少ない場合、血漿DNAシークエンスで、見落とすことになってしまう可能性が高い。DNAの量を増やせば精度は上がるだろうが、1回の検査に50㏄の血液を利用するのはあまり現実的でないと思われる。もちろん、現在のシークエンス技術そのものの限界もある。偽陰性、偽陽性がどの程度でるのか、速やかに大規模な検証を始めるべきだ。

 

米国ではリキッドバイオプシー情報のデータベース化が始まりつつある。頑張れ、日本!

 

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