医師と患者の関係

今年のシカゴは一旦冷え込んだものの、その後は平年より高い気温が続いている。一昨日は28度と過去の記録を3度も更新する夏のような気候だった。木の葉も、この暖かい気温に戸惑っているようで、一部は色づき、散り始めているのに、一部は緑色のままだ。木によっては、上の方は紅色、中央が黄色、下の方は緑色と、一本で鮮やかな色彩を見せている。

 

そして、昨日の内科の講義は非常に興味深かった。「医師と患者」の関係で、医師が患者に対してどこまで踏み込んでいいのかというテーマだった。講義の初めに、「医師が患者さんを家まで送る」ことは適切と思うか?との質問。聴衆にウエブページへのアクセスを依頼してリアルタイムでアンケートを取るという珍しい講演スタイルに驚いたが、80%が問題ないと答えたことにも驚いた。第2問目は「薬剤費が払えない患者に30ドル提供する」のは適切か?約4分の1が問題ありと答えたが、4分の3は肯定的だ。日本では、この状況は想定しにくい。

 

続いて。「職のない患者さんに職探しを手伝ってあげる」「職のない患者さんを一時的に雇用する」との質問には、70-80%がそこまでしなくてもいいと答えた。私には肯定派は20-30%もいることが驚きだった。聴衆には実際そのような行為をした医師が少なからずいた。演者は、自分が雇用したある患者さんを例に、ヒューマニズムを強調していたが、私には無理だと思った。患者は薬物中毒で出所後すぐに来院したと説明があったが、全く見ず知らずの、薬物中毒で収監されていた患者を雇用して、問題が生じたらどうするのだとの不安が先立つ。偉い人だと思うが、自分には絶対にできないことだ。

 

5問目の「患者と食事に行く」は、聴衆の11%にこの経験があり、25%は問題ないと考えているようで、意外に多いような気がした。また、患者さんの経営しているレストランに行くことは、道義的に問題視されるので注意すべきだと解説していた。行きつけのレストランの人が、病気になって、自分の患者になった場合はどうすべきなのか、と余計なことが頭をよぎったが、気の弱い私には質問ができなかった。1980-90年代は、心理療法医が男性の場合、約10%が患者と性的関係に陥り、女性の場合には4%がそのようになっていたとの報告があったようだ。その相手が、異性か同性かは知らないが、と言って笑いを誘っていた。

 

医師と患者が交際するのは倫理的によくないが、医師―患者関係が解消されてから半年した場合はどうなのか、1年すればどうかなど、線引きは簡単ではない。私もかつて、ある患者さんから、「私の娘と交際して欲しい」と本人(娘さん)が目の前にいる状況で言われたことがある。即座に断ると娘さんを傷つけてしまいそうで、狼狽えた経験がある。もちろん、娘さんがいなくなってから、丁重にお断りしたが。

 

話を戻すと、アンケートを取った病院間で、「医師―患者間の距離」の保ち方には、かなり温度差があった。演者は距離を接近させることが、治療という観点でプラスに働くと、肯定的であった。当然ながら、多く注意すべき事柄も列記していた。かつて、国立がん研究センターの医師が、「患者さんのひとりひとりに寄り添うなんてできませんよ。もっと、ビジネスとして処理しないと、やってられませんよ」と平然と言うのを聞いて唖然としたことがある。

 

私はがんペプチドワクチン療法を契機に、多くの患者さんや家族と、メールのやり取りをしたり、実際にお会いしたことがあるが、辛さや悲しさを共有できるからこそ、医師としての生きがいを感じることができるのではと思っている。苦しみが大きいほど、喜びは大きいと言われるが、患者さんや家族と苦悩を共にしてこそ、うまくいった時の喜び・達成感が得られるのではないか?こんなことを言っていると、私がガラパゴス化していると、声が飛んできそうだ。

 

f:id:ynakamurachicago:20161020012941j:plain

PS:このブログを書いている最中に、親しくしている、最近まで近畿大学付属病院長をしていた奥野清隆先生から、「大腸がんワクチンは、新規登録は中断して、継続の方(いずれも長期生存)にのみ続けていますが(ワクチンが)なくなり次第終了の旨をお伝えすると泣き崩れる方もあり辛いところです。」とのメールが届いた。臨床研究中のワクチンだが、品切れとは何ということだ。私の責任なので、思わず、私が泣き崩れそうになった。