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的外れの高額がん治療薬問題ー2

前回に続き、高額がん治療薬の問題を取り上げる。下記に3ヶ月間治療を受けた場合の薬剤費を示したが、確かに、抗PD-1抗体(ニボルマブ)や抗CTLA-4抗体(イピリムマブ)はとんでもなく高額だが、桁外れに高額というわけでもないし、高額抗がん剤の問題も最近になって起こった問題でもない。今頃になって騒いでいるメディアは、いつもながら、キャッチャーミットにボールが収まってから、バットを振り回すような遅さだ。私は、10年以上前から、分子標的治療薬が高額であること、それらが輸入品であるため、貿易赤字が拡大すること、そして保険医療制度が危機に瀕していることに対して警鐘を鳴らしてきた。

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役所はこれらに対して有効な対策を打っているといい続けているが、私はそうは思わない。根本的な対策は全く講じられていない。そして、これら医薬品が高額すぎる、とメディアで報道されても、一般国民や保険診療として提供されている患者さんにとって大きな問題とはならない。なぜなら、日本には「高額療養制度」があるため(所得によって多少の違いはあるものの)、医療費の最大支出は月に10万円程度である。したがって、薬剤費が月に50万円であっても、300万円であっても、各家庭の支出には違いがないことになる。高額薬剤費問題の本質のひとつは、国が、そして国民が、税金としてどこまで負担をすべきなのかを議論しなければならない点にある。私は、年齢制限による「姥捨て山論」を批判しているが、パネルディスカッションの演者の一人であった天野慎介さんがNHKの番組に出た際に、視聴者の中には高額薬剤に対して年齢制限すべきという声が少なくなかったと言われていた。自分の親が年齢制限に引っかかった際にも、それを容認するのかどうかを是非聞いてみたいものだ。もっと、科学的な議論ができないものなのか?

また、日本癌学会のパネルディスカッションでは、時間がなくて触れることができなかったが、原価に基づいて薬価を決める算定方式ならば、メラノーマに対するニボルマブの薬価が日本で高くなるのは当然なのである。メラノーマの日本における年間推定発生患者数は1500 - 2000人前後、人口10万人に約1.5 - 2人の割合に対して、欧米白人では10万人に約15 - 20人となっている。日本での権利は小野薬品にあり、海外での権利がブリストール・マイヤーズ・スクイブ(BMS)にあるので、日本国内でメラノーマを対象に開発経費を償還するためには、(小野薬品とBMSが同額の開発経費を使ったとするなら)一人当たりの治療費は、単純計算だと日本国内では10倍の値段になってしまうのである。

1社が世界中で権利を持っているなら、世界規模での開発経費とそれを償還するための薬剤価格を計算すればいいが、今回はそのような単純な仕組みにはなっていない。ニボルマブが高額医薬品問題を改めて注意喚起した点では意義は大きいが、議論が完全に的はずれになっているのは残念だ。現在、非小細胞肺がんや腎臓がんなどに適応が広がり、薬価の見直しを急ぐべきかどうかが議論されているが、最初に薬価を算定した時点で、世界を眺めれば、これらのがんへの適応拡大は時間の問題であった。明らかに、薬価算定側の情報不足が今日の混乱を招いているといえる。

私が考える最大の問題のひとつは、他の分子標的治療薬と違って、バイオマーカー(ハーセプチンのHER高発現やイレッサのEGFR変異などの患者選択の指標)による患者の選別が全くできていないことにある。年間1兆円売り上げになるのか、数千億円程度かはっきりしないが、前者であれば、7千億円から8千億円が、効かない患者さんに無駄に投与されることになる。そして、この無駄の大半が税金で賄われるのである。この無駄を防ぐ対策を考えないことが信じがたいことだ。

そして、最も悲惨なのが、保険適応となっていないがん患者を食い物にしている悪徳医師たちの存在だ。学会で「効きもしない低用量で、低価格で提供している白衣を着た詐欺師たち」と言ったところ、患者団体の代表の天野さんから「低用量で、高価格の間違いです」指摘されたが、このような日本特有の社会現象を見過ごしている学術団体、国立機関は猛省して欲しいものだ。

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