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日本癌学会「高額医療費問題」パネルディスカッション

医療(一般)

今、成田空港にいる。10日間にわたる日本出張を終え、ようやく、シカゴに戻ることができる。この10日間、目が回るように忙しかった。岡山での日本胸部学会、日本癌学会に参加し、その間を縫って、人工知能企業やリキッドバイオプシー・シークエンスに関連する企業との打ち合わせ、がん研究所での記者会見、メディアによる取材、知人との連夜の会食など不健康な生活を続けていた。炭水化物摂取を控えるようにしていたが、体重が少し増えていた。人間ドックを受ける前日・前々日は食事制限によって、体重は60キロ台に落ちていたが、油断をしていたら、あっという間に元の木阿弥だ。

 

昨日のパネルディスカッションで「高額医療費時代」をテーマに議論があった。私は、「みんなよく頑張っています」というような傷の舐めあいは嫌いだし、若い世代を育てることもあって、最近は参加を辞退するようにしてきた。今回、盟友の野田哲生先生から依頼されたことと、高額薬価批判の急先鋒のロハスメディカルの川口氏が演者にいたので、穏やかに問題点を指摘するつもりで、参加した。しかし、結局、皆で頑張りましょうという形で落ち着きそうになっていたので、またまた、爆弾発言をしてしまった。

 

日本癌学会は、基礎研究を中心に発展してきたが、基礎研究者の自己満足だけでは、社会に対するインパクトが薄れてきた。もっと、臨床につながる研究、特に患者さんのQOLの改善や希望を提供する研究に軸を置いた方向性を打ち出さないと、学会そのものに若い研究者が魅力を感じなくなる。今回は、がん患者さんとの協同作業が組み込まれたが、まだまだ、患者さんたちと研究者とのパイプはすぐ詰まってしまいそうな細さだ。

 

患者さんたちや一般の方に、がんはどこまでわかっているのか、今何が起きていて、どんな希望があるのかを分かりやすく解説できる研究者がもっと出てくる必要がある。患者団体の方には、私を含めて研究者を集まりに招いていただき、パイプを広げるようにしていただきたいと願っている。研究者も自分の知的好奇心を満たすだけでなく、本気でがんを治す気持ちで取り組んで欲しいものだ。研究費が欲しいがために、思ってもいないことを口にしても、気持ちが伝わるはずがない。

 

話を戻すと、ニボルマブは確かに高額だが、効果のある人にとっては、有用な薬剤で、それを考えれば本当に不当に高額と言えるのかどうか疑問だ。ただし、100㎎の日本での薬価約72万円に比して、米国では30万円、英国では約14万円というのは驚きだ。企業戦略が行政当局に勝ったのだろうが、薬価を決める時点で、世界での動きを見れば、適応拡大に至るは明らかであったので、薬価算定側の不見識は問題である。

 

そして、どうして科学的なアプローチで、患者を選択する方法を模索しないのか、私には理解できない。以前に、HLAが発現していないがんには効かないことを紹介したが、私の講演の後に話をした、米国NIHから招かれた研究者も、これを支持するデータを示していた。KRAS遺伝子の変異を標的としたリンパ球を投与したところ、7か所あった転移部位のうち、6か所は小さくなったが、1か所は増大した。その1か所を調べたところ、HLA遺伝子の存在する染色体がなくなっていたというのだ。

 

科学原理に基づけば、HLAを作らないがんでは、ニボルマブは効かない。このような科学的エビデンスをもとに一歩一歩、無駄を省く努力をしないと、議論が間違った方向に進み、結果として患者さんの不幸につながるのだ。しっかりせよ、日本のがん研究者、がん診療医!!

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