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がん患者の積極的参加を謳った「Moonshot」計画案

昨日、米国癌学会を通して「CANCER MOONSHOT BLUE RIBBON PANEL REPORT 2016(DRAFT)」が公表された。米国ではバイデン副大統領が先頭に立って「Moonshot」計画を推進することを受けて、がん研究者は活気づいている。今のペースでは10年かかることを5年に短縮し、がんの治癒を目指した計画であり、士気が上がるはずだ。バイデン副大統領の任期はあと約4か月なので、年内に計画案をまとめて、公的・私的な予算を確保しようと必死でもある。

 

大項目を列記すると

1.             患者さんが直接関与できるネットワークの構築

2.             免疫療法に特化した臨床試験ネットワークの構築

3.             薬剤耐性を克服するための方法の開発

4.             研究者・医師・患者が共有できるようなデータベースの構築

5.             小児腫瘍の原因を追究するための研究の強化

6.             副作用を最小化するための方策

7.             がん予防・早期発見のための対策の強化

8.             過去の患者の情報を将来の患者のために生かす方策

9.             Dがんアトラスの構築(がん細胞、免疫細胞など、がん組織内の多様な細胞・環境情報を統合して治療効果予測に利用する)

10.         がんの治療効果予測に役立つような新技術の開発

 

となる。これらの推進には、がん患者の協力が不可欠で、臨床情報の提供や臨床試験の効率化などで、患者さん自身の積極的な関与が求められる。「自分は最善の治療法を受けたいが、研究には協力したくない」といった利己的な考えはふさわしくない。このように言うと、プライバシー侵害のリスクを軽視しているといった批判が必ず出てくる。しかし、自分のリスクは最小限にして、利益は最大限に得たいと勝手なことをいう前に、プライバシーをどのように守っているのかを調査するような組織を患者さん自身が作ればいいと思う。四の五の言わず、苦しむ患者を減らし、最終的にはがんとの戦いに勝利するために皆で協力する体制を作るべきだと思う。

今後、薬剤や治療法の選択に際して、ゲノム情報の利用は不可欠となる。自分のゲノム情報を知ることなくして、効率的で安全な医療を受けられなくなる状況を理解しなければならない。最適な治療法を選ぶには、否応なしにゲノムを調べなければならなくなる時代が来る。そして、予測法の精度を上げるためには、多くの患者さんの情報が必要だ。情報が多くなればなるほど精度が上がる。このためには、皆さんの協力が絶対的に必要となるのだ。

そして、免疫療法と小児腫瘍が個別の項目として取り上げられている。免疫療法については頻回に取り上げているので、ここでは触れない。小児腫瘍については、私も、やはり重要だと思う。医学部の学生だった頃、外科の道を歩むことは決めていたが、20歳を過ぎたころには小児外科(当時の大阪大学では独立した診療科ではなかったが)に、心が傾いていた。しかし、夏休みに子供専門の医療センターを見学し、患者さんや家族と接し、これは精神的にきついと感じた。

小さな子供が苦しんでいる姿、それを見つめている両親の姿、そして、臨終を迎えた場面、私にはこれは背負いきれないと思ったのである。たとえ、小さな子供でなくても、親が子供の死を看取る場面(医師として死を宣告する場面)に立ち会うのは辛いものがあった。私も自分が死ぬ前に、子供の死には絶対に立ち会いたくない。そして、母が亡くなった時に、祖母が母の遺体に泣きすがる場面が、強烈な記憶として残っている。もちろん、私の許可も得ず、涙は勝手に流れてきた。翌日、認知症のため、前日のことをすっかりと忘れて、祖母が母を探している姿を見るのもいたたまれなかった。

 

話は逸れたが、子供に対するがん治療は、単に大人に使う薬の量を減らせばいいだけではない。子供の白血病は治るようになったが、薬剤の影響による2次がんや後遺症の聴覚障害など課題は大きい。すべてのがん患者は平等だと叱られそうだが、がんという病気で命を落とす子供たちを減らしたいと心から願わずにいられない。

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