読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ガラパゴス日本

医療(一般)

台北松山空港から羽田空港へ向かう機内でこのブログを書いている。台風12号の影響で、台北からほぼ真東に向かい、石垣島や宮古島の少し北、沖縄島の南を過ぎてしばらくしてから北東に向かう経路で、普段より時間がかかりそうだ。

 

一昨日は国立台湾大学、昨日はアカデミア・シニカで講演をした。2年ぶりの台湾だが、親日的な国に来ると気持ちが安らぐ。国立台湾大学は、かつての帝国大学の一つだと誇らしげに言ってくる老教授も少なくない。東北大震災の時に、もっとも多額の支援金を送ってくれたのは、台湾である。この親日的な隣人を大切にすべきだと、ここに来るたびに思う。

 

この出張の間に、かつて私の研究室に在籍していた福島医科大学の外科医師が91日付けで教授に就任したと連絡があった。是非、福島県民、特に南相馬市の人たちのために貢献してほしい。台北でお世話になった台北医科大学の薬理ゲノム学教室で教鞭を取っているのも私の研究室の出身だ。中村研究室出身で教授や研究室のトップに就任したのは、彼で41人目となる。私も歳を取るはずだ。

 

カンファレンスでは、最後にパネルディスカッションがあった。その際に、がんの異質性(Heterogeneity)について質問された。個別化医療の話をすると、この種の質問を受けることが多い。異質性というのは、「ひとつのがんの塊の中で、部分部分によってがん細胞の性質が異なっていたり」、「複数存在する転移巣のそれぞれでがん細胞の性質が異なっている」ことだ。当然ながら、患者さんが異なれば、がん細胞で起こっている遺伝子の変化は、全く異なる。

 

がん細胞は常に変化し続けているので、大きな塊になれば、何億という数の細胞の中には、異なる遺伝子異常を持った細胞が必ず存在する。「がんもどき」は永遠に転移しないなどというコメントは、科学的にはまったく的外れで時代遅れの発言だ。こんな発言が今でも黙認されるのは日本だけだ。子宮がん予防ワクチンでも、日本は科学ではなく、情緒的な煽動に振り回され、方針が右往左往する。まさに、ガラパゴス日本だ。

 

話は逸れたが、質問者の多くは、バイオプシー(生検―針などでがんの一部を散ってくること)で調べても、調べた細胞と性質の異なる性質の細胞がいるので、すべてのがん細胞に対して正確な診断ができないことを指摘して、知ったかぶりをしたいのだろうが、こんな議論は時間の無駄だ。がんを詳しく知るためには、がん細胞の異質性や時々刻々変化する遺伝子異常を追跡することは重要だが、臨床の観点からは、異質性を心配しているとキリがない。

 

物知り顔で、「大きながんの塊の10か所を調べても、残っている部分はどうなっているのか」と問うし、「10か所の転移巣の3か所を調べて判断しても、残りの7か所はどうなんだ」と質問する。10か所の転移巣すべてからバイオプシーするのは、出血などのリスクが高すぎるので非現実的だ。患者さんはモルモットではないし、遺伝子検査コストを考えれば、できないことはできないのだ。得られる最大限の情報に基づいて判断するしかないのだ。この常識が通用しない研究者が意外に多いのだ。

 

また、ある研究者が「乳がんが肺に転して肺がんになったら肺がんの治療をするのか」と質問した際には正直ぶったまげた。一般の方には、この種の誤解をしている人が少なくない。乳がんが肺に転移しても、基本的には乳がんの治療法が適応される。分子標的治療薬の場合はどの遺伝子のどの部分に異常があるのかが決め手だが、従来の抗がん剤治療は、原発巣(がんが最初にできた臓器)によって決まってくる。どこに転移していても、これが基本だ。しかし、この質問をした研究者は、このレベルの知識で、がん研究をしているのかとあきれるしかない。

 

発表した台湾の研究者の一人は、すでに肺がん1万症例の遺伝子診断をしたと言っていた。やっぱり、ガラパゴス日本だ。

f:id:ynakamurachicago:20160903234154j:plain