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幼稚な金メダリスト

「狂言強盗か?」と話題になっていたリオ・オリンピックの金メダリスト、ライアン・ロクテ選手(米国)を、リオデジャネイロ警察が立件すると報道にあった。狂言が事実なら、とんでもないことである。「金メダリストが、警官を装った強盗に拳銃を突きつけられた」と大きな話題になり、リオデジャネイロの治安の悪さを強く印象つげた事件だった。これが虚偽であるなら、開催国ブラジルの名誉を大きく傷つけた悪意に満ちた行動であり、オリンピック精神から逸脱するものだ。32歳の人間がこんな幼稚なことをするかとあきれ返るばかりだ。冗談で済まされるようなことではない。国際オリンピック委員会(IOC)も処分を検討しているとの事だが当然だ。しかし、金メダル剥奪ともなれば、水泳800メートルリレーだったので、フェルプス選手も影響を受けるが、こんな馬鹿げたことをしたのだから、仕方あるまい。

オリンピックはこれくらいにして、医療の話題に戻そう。今週号の「New England Journal of Medicine」誌に、二つの新規がん抗体医薬品の論文が掲載されていた。ひとつは、急性リンパ性白血病に対するイノツズマブ・オゾガマイシン(抗CD22抗体に細胞毒性の強いカリケアミンという物質を結合させたもの)である。完全寛解率が、この新薬群では80.7%、コントロールである標準的化学療法群では29.4%と圧倒的な差だ。しかし、寛解率の差が大きいにもかかわらず、生存期間中央値は7.7ヶ月対 6.7 ヶ月とわずかな差だ。12ヶ月を過ぎたあたりからは、新薬群の生存率は少し高い傾向となっているものの、がん細胞はやはり強かだ。そして、静脈閉塞症という、珍しい副作用が10%近い割合で発生する。

もうひとつは、ダラツムマブ(抗CD38抗体)+ボルテゾミブ(プロテアーゼ阻害剤)+デキサメタゾン(ステロイド)群(ダラツムマブ群)と ボルテゾミブ+デキサメタゾン群(コントロール群)を、多発性骨髄腫患者で比較したデータだ。治療開始12ヶ月後の無増悪患者の割合は、ダラツムマブ群60.7%対コントロール群26.9%と、これも圧倒的に新薬群が勝っている。治療効果を示した患者もダラツムマブ群が82.9%対63.2%とかなり高い。観察期間が短いので、生存に対する差は評価されていない。副作用ではダラツムマブ群でグレード3・4の血小板減少症の頻度が45.3%対32.9%と高く、高血圧6.6%対0.8%も多かった。

このように有効な薬剤が続々と出てくると、次第に新規薬剤の開発は難しくなってくる。最近、シカゴ大学の研究研究者が、われわれが開発したMELK阻害剤(OTS167)が、ボルテゾミブ耐性になった骨髄腫細胞にもよく効いたという論文を公表したが、この新薬が加わったことで、治験対象者をどうするかを慎重に見極めなければならない。標準化されたプロトコールのもと、有効性が実証された薬剤・治療法が優先され、一般的には、第1選択薬、第2選択薬・・・・と規定され、多くのプロトコールでは、それらの治療を受けたあとでしか、治験にエントリーできない。したがって、治験で新規の薬剤の投与を受ける患者さんは、最初の診断からかなり経過していることになる。当然ながら、全身状態が悪いケースが多くなる。そして、細胞毒性が高い抗がん剤治療を受けていれば、骨髄細胞・免疫細胞のダメージも大きくなっている。 

最近のデータでは、放射線療法でも、化学療法、分子標的治療法でも患者の免疫細胞の関与が重要であると考えられている。したがって、多くの治療法を受けた後では、免疫系細胞の補助レベルが非常に低くなっており、新薬の評価が難しくなってくる。特に米国では膨大な数の臨床試験が進められていることから、特定のがんの領域では、互いに競合して、患者のエントリーが極めて難しくなってきている。

 米国の機関に存在するがんセンターの多くでは、海外の患者さんを集めようとしている。現に、新しい治療法を求めて、多くの患者が渡米してくる。しかし、治験を受けるのは容易ではない。なぜならば、標準化されたプロトコールが国際的に完全に統一されていないし、承認されている治療薬も同一でない。日本で保険収載薬がなくなっても、米国では別の標準的治療法がある場合、米国に来てもすぐに治験薬にアクセスできるわけではない。

 画期的な新薬が次々に開発されるのはいいことだが、それらの評価法は制度疲労に直面しており、そして、それら薬剤の高額な費用が医療保険制度・国家財政にまで影響を及ぼしつつある。 

(PS)来週の火曜日夜に東京に行き、翌日に台湾に行く予定だが、台風10号とまともにぶつかりそうになってきた。私は日頃の行いがいいので、あまりトラブルに見舞われたことはないが、今回は台風の規模が大きいので、予想通りに進むと日本へ行く便か、台湾へ飛ぶ便のいずれかが、影響を受けそうだ。日本の天気予報を見ることはないが、今回ばかりは要注意だ。

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