16倍量の投与で副作用死????

都知事候補者である鳥越氏が、演説に訪れた伊豆大島で「島嶼部の消費税を5%にするよう国に働きかける」とぶち上げたとニュースで流れていた。消費税は東京都の権限外と付け加えていたそうだが、鳥越氏を推薦している政党は、この考えを支持するのかはなはだ疑問だ。どの範囲の島嶼部を想定しているのか、まともな考えを持っていると思えない。

私の住んでいた小豆島も含まれるのか?沖縄や奄美大島、そして、淡路島はどうなのか、線引きに合意を得ることは現実的に不可能だ。 そもそも、なぜ、島嶼部だけなのか、理解不能だ。日本国内には、過疎化が進んでいる地域は数え切れないほどある。本州でも伊豆大島より不便な地域はどうするのか?こんな思い付きのその場での人気取り政策を口にするようではとても都知事が務まると思えない。私は日本に住民票がないので、投票権はないのだが、この無責任さはありえない。

話は変わるが、前々回のブログで読者の方々のご意見を募ったところ、多くの方からメールをいただいた。がん患者さんご本人やご家族からのメールには、改めて考えさせられることも多かった。特に、マニュアル化したがん医療に対する疑問には早急な対応が必要だと思った。

そんな中、「徐々に量を増やすことが求められる抗てんかん薬を16倍量投与され、患者さんが副作用で死亡された」記事を目にして、このままでは日本の医療は崩壊するのではと感じた。薬の添付文書には、12.5㎎-50㎎で始め、徐々に量を増やすようにと書かれてある。最大400㎎まで投与が認められている。この患者さんの場合、この12.5㎎開始量の16倍だったので、16倍という数字が派手に見出しを飾ったようである。

しかし、この記事の流れには疑問がある。添付文書には単剤(この薬だけ服用する場合)「1日用量は最大400mgまでとし、いずれも1日1回又は2回に分割して経口投与する。」と書かれている。1日100-400㎎量に達しなければ、効果が出ないのである。他のてんかん薬との併用の場合や、その他の分解酵素が同じ薬剤を併用する場合(この場合、分解されにくくなり、血中の薬剤の濃度が上昇する)には、量を減らすことが勧められている。細かくなるが添付文書には

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バルプロ酸ナトリウムを併用する場合 通常、ラモトリギンとして最初の2週間は1回25mgを隔日に経口投与し、次の2週間は1日25mgを1日1回経口投与する。その後は、1~2週間毎に1日量として25~50mgずつ漸増する。維持用量は1日100~200mgとし、1日2回に分割して経口投与する。

バルプロ酸ナトリウムを併用しない場合 1. 本剤のグルクロン酸抱合を誘導する薬剤を併用する場合 通常、ラモトリギンとして最初の2週間は1日50mgを1日1回経口投与し、次の2週間は1日100mgを1日2回に分割して経口投与する。その後は、1~2週間毎に1日量として最大100mgずつ漸増する。維持用量は1日200~400mgとし、1日2回に分割して経口投与する。

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とある。「最初の2週間は1回25mgを隔日に経口投与し」とあるので、この2日間で25㎎と比較して16倍という数字がはじき出されたのであろう。 この薬剤は高い頻度で、中毒性表皮壊死(えし)症、すなわち、非常に重篤な薬疹を起こすことから、徐々に量を増やすことが求められている。これだけ読めば、とんでもない病院だと、強烈な印象を与える。

しかし、この患者さんは脳腫瘍が再発して、てんかん発作を起こし、医師はこれをできるだけ早く抑えるために、最初から維持用量200㎎(病状を抑えるために必要と考える量)を経験上投与した可能性がある。問題は、医師がこの薬剤の副作用を十分承知していて、高用量で始めるリスクを十分に伝えていたかどうかである。もし、知識が十分にあり、症状から患者さんに高用量を投与する緊急性を考え、しかも、家族に十分な説明をしていれば、この医師はリスクを覚悟して、患者さんの利益のためにリスクを取った医師と考えることもできる。報道は患者さんが死亡したことや十分にリスク情報が伝えられていなかったので、病院側の対応が間違っていたに違いないという観点でしか、語られていない。病院側のコメントがないので、私が勝手に病院側に好意的な解釈をしているのかもしれないが、もし、そうならば、一連の記事は、てんかん発作をできるだけ早く抑えようと考えるような心ある善良な医師たちを委縮させることになってしまう。マニュアルに沿って、できる限り淡々と医療という仕事をこなすサラリーマン医師が増えることを、患者さんが望んでいるなら、それでもいいが。

患者さんが亡くなったことはどんな理由にせよ、不幸であり、ご冥福をお祈りしたいあ。ただし、同じような不幸の回避には科学的な解明が不可欠だ。この中毒性表皮壊死症は、これまでの例から考えて、HLA(人の白血球抗原)が関係していると考えられる。99%の確信をもって(100%と言いたいところだが、少し控えめに)、同じ薬剤で同様の症状を示した患者さんのHLAを調べることを進言したい。私は、副作用の情報を集めるだけでなく、その原因を探るために、血液の収集を義務付けるべきだと言い続けてきた。台湾では、そのような制度ができている。同じ不幸を防ぐために、みんなが協力し合うことが必要である。遺伝的要因が原因ならば、患者さんの親、兄弟姉妹、子供、孫が同じ薬剤を服用すれば、同じ不幸が起こる可能性が高い。子供の場合、確率は50%だ。なぜ、血液を集めるという単純なことがすぐできないのだろうか?

また、説明義務に関しても、すべての起こりうる可能性を説明せよと言うのは簡単だが、医療現場はパンク寸前であることも理解しなければ、医療関係者は疲弊する。批難を高めるだけでは、問題は解決しない。問題の根源、それを解決するための仕組みも必要だ。全体の制度設計を見直さなければ、日本の医療は破綻する。

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