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乳癌再発予防薬アロマターゼ阻害剤長期服用;効果・副作用の二者択一

医療(一般)

シカゴもすっかり夏の気候になり、30度を越える日が続いている。1年目の夏は、40度近い暑さの日が続き、うんざりとしたが、2年目以降はそのようなうだるような暑さにはなっていない。今回、出張から帰国後の2日間はあまり時差を感じなかったが、3日目のー昨日は、正午過ぎに強烈な睡魔に襲われ、15分ほど完全に意識を失っていた。昨日・今日は朝から頭の回転は快調だが、締め切りを過ぎた論文を仕上げるべく、ポスドクに激を飛ばしている。「約束を守る」「責任を果たす」という言葉に対する感性が違うので、イラッとして血圧が上がっている。

どうも、最近の若い世代は望みは大きいが、努力が足りない。自分が手に入れたいものが、勝手に舞い込んでくると甘く考えているようで、必死さに欠ける。私の世代は、何かを目指すためには、何かを犠牲にして懸命に取り組むことが常識だったが、新世代の考え方とのギャップは埋めようがない。「努力」という言葉が死語になった今、人を育てるのはとっても大変だ。自分で身に着けようとしない人間に、無理矢理服を着せることはできない。相撲力士に食事をたくさん食べさせても、稽古をしなければ、動きの悪いブヨブヨの肥満力士になるに決まっている。自分の意思で稽古に励まなければ、強くならないが、肝心の点をわかっていない人たちが多すぎる。と、思わず、愚痴になってしまった。

話は変わるが、先週の「New England Journal of Medicine」に「Extending Aromatase-Inhibitor Adjuvant Therapy to 10 Years」というタイトルの論文が掲載されていた。細かい説明は省くが、ホルモン受容体陽性の乳癌の手術後に、アロマターゼ阻害剤を5年間、あるいは、さらに延長して10年間投与した場合の再発予防効果、副作用を調査した論文である。多くの患者はタモキシフェンという別のホルモン剤の投与を受けてから5年間のアロマターゼ阻害剤治療を受けている。約950人ずつのアロマターゼ5年投与群と10年投与群を比較したところ、手術を受けた乳がんと反対側の乳腺にがんができた割合が、10年投与群0.21%/年に対して、5年投与群0.43%/年と約半分に抑えられていた。

この結果だけを見ると「長い投与の方がいいじゃん」と思いがちだが、二つの群での10年生存率にはまったく差がなかった。そして、問題は新規に骨粗しょう症と診断された患者さんが、10年群で11%対5年群6%と2倍程度高かったことである。この骨粗しょう症の頻度増加と比例して、骨折の頻度が10年投与群14%対5年投与群9%と高くなっていた。骨折の頻度が、骨粗しょう症の頻度よりも高いのは、この試験が始まる前に骨粗しょう症と診断された症例が除外されていたためと思われる。

 

この論文の結果を臨床現場に反映するのは難しい。アロマターゼ阻害剤を長く服用すると、反対側の乳がんの発生頻度は半分になるが、生存率は変わらない、そして、骨折の頻度は1.5倍になる。骨折の部位によっては、長期間寝たきりとなる可能性も高くなる。

このデータを患者さんに示し、患者さんに究極の2者択一の判断を委ねれば、判断を下すのに悩むに違いない。医師がアドバイスするのも難しい!?私ならどうするか?阻害剤の服用を5年にして、定期的に乳がん検診を受けるのがいいように思うが、やっぱり難しい。乳がんリスク、骨粗しょう症リスクが判定できればいいのだが。

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