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分子標的治療薬+これまでの抗がん剤>抗がん剤単独

医療(一般)

今、シカゴ・オヘア空港にいる。香港に向かうところだ。日本では、いよいよ参議院選挙だ。改憲勢力が憲法改正発議に必要な3分の2を超えるかどうかが焦点になっているようだが、おかしな話だ。3分の2は発議に必要な議員の数であって、憲法を改正するかどうかは、国民投票で決まる。国会議員が3分の2になったからといって、直ちに憲法が改正できるわけではない。そもそも、憲法には改正するための条項があるのだから、国民には改正する権利が与えられているのだ。最終的に判断する権利も国民に与えられている。

 

したがって、「安倍政権だから憲法議論をしない」などとの主張は、明らかに国民の権利を侵害しているし、国民を馬鹿にしている。改正するにしても、しないにしても、国会議員は真摯に議論することが求められるはずだ。改正する内容が気に入らなければ、国会で堂々と議論するのが民主主義だ。また、国政選挙は、国の将来をどうするのかを議論すべきで、個人の好き嫌いを語る場ではない。

 

こんな次元の低い議論をしている間に、がんの分野では新しい知見が次々と報告されている。今週のNew England Journal of Medicine誌には、乳がんの術前化学療法に関する二つの論文が報告されていた。これまでの術前化学療法に分子標的治療薬を加えた場合に、病理学的(顕微鏡で調べた場合)にがん細胞が完全に消失している率が2倍くらい高くなるというデータであった。一つの論文は、PARP阻害剤という種類の分子標的薬を加えた試験結果であり、抗がん剤単独では、がん細胞消失率は26%に対し、分子標的治療薬を加えると51%であった。ただし、乳がんと言っても、トリプルネガティブ乳がんに限られる。このタイプのがん細胞ではDNAを修復するシステムの機能が低下しており、PARPというDNA修復に重要な分子の働きを抑えると、抗がん剤によって生ずるがん細胞へのダメージが大きくなると考えられる。

 

二つ目の論文はHER2分子阻害薬を加えたもので、抗がん剤単独では、病理学的にがん細胞が消えていた率が33%に対し、HER2阻害剤を追加すると56%であった。このデータはHER2陽性・ホルモンレセプター陰性タイプの乳がんでの差である。乳がんと言っても、それぞれの分子レベルの特徴によって、薬の選択が大きく変わる時代になっていることを示している。両試験とも、分子標的治療薬追加群では、顕微鏡で詳細に調べでも、半数以上でがん細胞が消えているのだから、患者さんにとっては望ましいことだ。

 

政治でもそうだが、医療の分野でも、急激に進歩している医療を見据えたグランドデザインの設計が必要である。「がんを治療するにはがんを知ることが重要だ」と、いつまでも、おまじないのように言うのではなく、医療現場に最新知見を速やかに導入するための大きな仕組み作りが急務だ。

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