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がん医療のキーワード「ゲノム・個別化・人工知能・予防」-(2)

医療(一般)

オバマ大統領の広島でのスピーチを、ビデオニュースで見た。謝罪がなかったなどと批判をする声があるようだが、私は素晴らしいスピーチだったと思う。日本には、いつまでも謝罪を求め続ける文化はない。ましてや、日本の戦後の復興は米国の援助なしには語れない。東北大震災の際の、米国からの「トモダチ作戦」も記憶に新しい。助けてもらったことに感謝する気持ちを忘れてはならないと思う。70年前のことにこだわりを持ち、批難を続けるよりも、未来に向けて何をすべきなのか、それが重要だ。そして、日本は、戦後、中国や韓国に対して、70年以上が経た今でも批難を受け続けるほど、何の援助もしてこなかったのだろうか??!!とも思っている。千年経っても、恨みが消えないなどと言われれば、もう、関わり合いたくないと思ってしまう。

原爆投下の是非について考えは分かれるが、一つの答えが出るはずのないことに拘るよりも、唯一の被爆国として、核の悲劇を繰り返さない役割を果たすことが大切だ。オバマ大統領が、日本語で「被爆者」と読んでいたし、現職米大統領が被爆者と抱き合って話をしていた姿は感動的であった(AP通信はこの様子を「Obama's hug of Hiroshima survivor epitomizes historic visit」のタイトルで伝えていた)。被害者への思いやりと、核兵器廃絶に向けた強い意志が伝わってきた。核廃絶に向けたロードマップが前に進めば、歴史に残るスピーチと評価されるであろう。

さて、本題に戻るが、「Nature Reviews Clinical Oncology」6月号の二つ目の論文のタイトルは、「Equal access to innovative therapies and precision cancer care」(革新的医薬品に対する平等なアクセスと個別化がん医療)である。フランスのグループからのもので、3つのポイントに絞って紹介したい。(1)分子標的治療薬は、肺がん、乳がんといった大きな枠で適応が決められているのではなく、「XXがんのYYY遺伝子異常のがん患者」といった形で利用すべきである、そのために、フランスは28の公的遺伝子解析センターを設置し、遺伝子に基づいた薬剤の適正利用を進めている。2013年度には85,063件の解析を行っている。日仏の人口比を考えれば、かなり広がってきていることが明白だ。また、「稀ながん」という区別は、遺伝子で考えれば、もはや、あまり科学的な意味を持ってこない。

 

(2)最初に適応指定を受けた以外のがん種であっても、遺伝子異常が見つかった場合には、分子標的治療薬の利用を認め、データを集積している(米国国立癌研究所のMATCHトライアルに似た仕組みだ)。この2点は、まさに、個別化医療が進んでいる状況を示している。(3)は、医療への平等なアクセスだ。医薬品を無制限に利用していては、医療保険制度は破綻する。がんの分子標的薬の場合、バイオマーカー(目印となる遺伝子異常など)が比較的はっきりとしている。たとえば、ハーセプチン(抗HER2抗体)を全乳がん患者、全胃がん患者に投与すれば、80%前後は全く意味のない無駄となるので、マーカーを利用して、投与すべき患者を選別している。もちろん、無効である可能性が高い患者に投与すれば、治療期間中にがんが広がっていくリスクが高い。

 

ALK阻害剤を全肺がん患者に利用すると90-95%が無駄になる。しかし、他のがんで、ALK遺伝子異常を持つ患者さんにとっては有用だ。医療への平等なアクセスの維持と、患者さんの利益を確保していくために、遺伝子診断、ゲノム診断が不可欠だ。効率的な薬剤の利用によって、安全性を確保しつつ、意味のない薬剤の利用を制限していくことは、医療費の観点からも非常に重要だ。すでに、フランスのように国レベルで遺伝子診断を導入して成功している例があるのだから、これに倣って、対策を立てれば、日本の医療制度の最大の利点である、平等な医療へのアクセスを守ることにつながる。

 

しかし、何の手も打たずに、今の医療現場へゲノム・遺伝子を利用した医療システムを導入すると、現場の疲弊をさらに悪化させる結果になることが明白である。第一に、世界の動きが速すぎるため、医療従事者でも、最新の知識レベルを維持することが難しくなっている。このような状況では、患者さんに対して十分な説明して同意を得るプロセスそのものが、医療従事者にとって大きな負担となる。この課題を乗り越えるためには、人工知能の導入が不可欠だと思う。医療従事者の最新の情報の提供(再教育)、患者さんへのわかりやすい説明、そして十分な質疑応答を経た上での同意など、人工知能は現場の負担を減らしつつ、医療の質を向上させることに役立つはずだ。

 

そして、もう一つ大切なのは、予防・早期発見だ。米国の歯科保険には、1年2回のチェックを受けている場合には、虫歯の治療費は保険でカバーされるが、これを怠っていると全額自己負担になるものがあるそうだ(確認していないので、噂だけかもしれません)。がん検診が進まないなら、このような考え方も応用できると思う。定期的ながん検診を受けている人には、自己負担治療費が総額の20%、検診を受けないで見つかった場合には、保険では50%しかカバーしないなどの制度を導入すれば、がん検診率は一気に上がり、がんの治癒率は向上するはずだ。「検診を強要するな」という声がK氏あたりから出てくるだろうが、早期発見は、治癒率を高めるベストな方法だし、全体的に見れば医療費を抑えることができる。

 

自分の健康に留意している人は、そうでない人に比して(したくてもできない、ブラック企業で働いている人はどうするのだという批判は別にして)、何らかのインセンティブが働く制度にすれば、健康寿命を延ばすことと、医療費の削減が両立するのではないだろうか?米国に来てから、新車1台が買えるほどの大金を歯科治療に投じている私には、定期的なチェックの重要性が身に沁みてわかるのだ。

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