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生死を分けた感染患者の免疫反応;エボラ出血熱

医療(一般)

シカゴは瞬間的に夏のような気候になったが、この1週間程度、ほとんど太陽が見えない不順な天気が続いている。この様な気候条件でも、建物内にはすでに冷房が入っているので、どの会議・講演会に参加しても体が冷え込んでしまい、会議後に体力消耗感を覚える。若い時には、ガンガン部屋を冷やした環境で仕事をしていたのだが、歳を取ってしまったのか?人間は恒温動物のはずだが、私は、変温動物になったかのように、低温の部屋にいると、熱産生ができずに、低体温になっていくような気がする。それがひどくなると、頭が朦朧として来る。困ったものだ。今日はオフィスで、冬の間にはオンにしなかった暖房機をオンにして生き延びている。

 

先週のNature誌に「Unique human immune signature of Ebola virus disease in Guinea」というタイトルの論文が発表された。エボラ出血熱感染によって命を落とした患者と生き延びた患者の免疫反応を比較した結果である。死亡した患者群のT細胞では、CTLA-4分子とPD-1分子がたくさん作られているとともに、炎症反応を示す数字が高かった。聞き慣れた免疫チェックポイント分子が生死の鍵に関わっていたのである。感染症では的確な免疫反応の有無が病状に大きく影響する。

 

生き延びた患者さんは、全く逆の傾向が認められ、感染後時間を経るにしたがって、エボラ出血熱ウイルスに対する免疫反応の上昇か認められた。がん治療で注目を集めている免疫チェックポイント分子だが、致死的感染症でも重要な役割を担っていることが明白となった。免疫システムの制御は、まだまだ奥が深い。

 

しかし、一方で、2週間前の「Nature」誌には、清潔な環境で飼育されているマウスの免疫系は、人の免疫系とはかなりかけ離れた条件であることを示すデータが発表されていた。私は、普段から「人間とマウスでは、体が3000倍異なるので、単純に考えても、リンパ球の数は3000倍異なる。そして、人間は、常に汚れた環境で、細菌やウイルス、その他の化学物質、食事など多くの多様な免疫刺激に晒されている。したがって、人間の免疫系は、マウスの免疫系に比べて、その多様性・複雑性は3000倍レベルではなく、5桁、6桁異なっている。マウスの免疫系を人に当てはめるには限界がある。」と言っていたので、この論文のようなデータが、新しい内容で、Natureレベルだったことに驚いてしまった。

 

ペットショップのマウスの方が、人の免疫環境に近いと書いてあったが、これも当然だ。私の脳の感覚では常識のように考えていたことが、21世紀の今日まで、この論文のような科学的な裏づけがなかったとは思いもよらなかった。遺伝子多型・がんゲノム・大規模疫学研究で膨大な人の病気のゲノム情報が蓄積されたが、これから10年は間違いなく、免疫細胞系での詳細なデータの蓄積が必要だ。しかも、人を対象にしてだ。白血球型抗原(HLA)、T細胞受容体、B細胞受容体など桁外れに多様性に富んでいる上に、後者の受容体は時々刻々変化するし、臓器ごとにも多様性がある。

 

大事業で、そのデータの解釈・解析は非常に複雑で困難を極めると思うが、日本人はこの種で研究では有利だ。一例を挙げると、白血球型抗原のうち、A24型が世界的に見て特異的に高い。約60-65%がこのタイプを少なくともひとつの染色体に持ち、20%前後はこのタイプを両方の染色体に有している。共通のHLAを利用して比較検討できることは、一定の法則を探すためには非常に重要だ。ゲノム免疫学、これが今から10年間の最大のテーマだし、日本の失地挽回のチャンスだ。と叫んでも、残念ながら、私の声が届かなくなってしまったが。

 

そして、多くの日本人、これは研究者も含めてだが、基本的な遺伝学の知識が欠けていることが大きな問題となる。たとえば、上記の60-65%と20%という数字だが、多くの人はその意味が理解できないと思う。たとえば、100人の人がいると、HLA-A型は両親から受け継いだ第6染色体の両方に存在するので、HLA分子は合計200個あることになる。もし、HLA-A24がこの集団に100個(50%)存在すると仮定する。これをアレル頻度50%という。では、この100人中、少なくとも一つのHLA-A24分子を持つ人は、何人となるのか?

 

答えは75人である。(X+Y)=X+2XY+Yを中学で学んだと思うが、XをA24 型とするとXを持つ人は、(X+2XY)人に相当する。この場合、XもYも50%なので、X+2XY+Y=25%+50%+25%となり、75%がX=A24 を持っていると計算できる。特定の遺伝子型のアレル頻度とそれを持っている人の割合は同じではないのだが、そんな基本的なことさえわかっていない連中が研究成果としてでたらめを報告するから日本は混乱する。子宮頸がんワクチンの副作用データなど、まさにこれに相当する。道具はあっても、使い方を知らない者が、自分は使えると誤解して利用すると、危険な凶器になってしまう。

 

いろいろな課題が山積している中で、これらの課題を包括して解決するための方策が全くといっていいほど打ち出されていない。すべてを一度の解決でいないだろうが、少なくとも多くの課題の関連性を理解してうえで、縺れた糸を解いていかなければならないのは明確だ。

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