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連日の「Precision Medicine」講演会

今週は2日間連続で「Precision Medicine」の講演会があった。演者の一人はマサチューセッツ・ジェネラル・ホスピタル(ハーバード大学)のチープフィジシャン、もう一人は医療保険会社に属する研究者であった。後者は、David Ledbetter博士で、30年近く前に彼がベイラー大学在籍時に共同研究をしていたことがある。久しぶりに会って「デービッド」「ユースケ」と声を掛け合ったが、懐かしかった。歳を取ったせいか、古くからの友人に会うと感慨がひとしおだ。

 

前者の講演会は、遺伝性乳癌遺伝子を紹介しつつ、白人と黒人の医療へのアクセスの差を埋めるためには、「Precision Medicine」が重要だと主張していたが、正直なところ、話がどのようにつながるのか、よくわからなかった。確かに、黒人と白人には平均寿命に大きな差があり、それが縮まっていないのだが、これは医療へのアクセスだけで説明できるものではない。この種の問題は日本にはない問題なので、その背景要因を理解することは決して容易ではない。1時間の講演で、目新しいことはほとんどなく、かなりこじつけのようなストーリーで少しがっかりだった。

 

後者のLedbetter博士の話は面白かった。彼は医療保険提供会社にいるが、自閉症や発達障害の研究を続けている。その中で、知能指数の話が合った。知能指数は、100を中心に対象的な正規分布をしており、数値が60-140くらいに広がっており、約半数が90-110の範囲にある。140-150の範囲は200人にひとり、150を超えるのは1000人に一人だ。150以上はもっと多いような印象を持っていたが、意外に少ないようだ。

 

そして、ある疾患の場合、同じ遺伝子異常があっても、知能指数はやはり幅広い正規分布パターンを示し、100を超える人も少なくないことが紹介された。背が低くなる病気の患者群で、最も背が低い人は、親の身長の低い人であり、背が高くなる病気の患者群で特に背が高い人は、親の身長が高い人だと言っていた。背が高い両親の子供は、一般的に背が高いことは昔から知られていることだが、彼が話をすると、何となく科学的で、新しい話のように聞こえてしまう。また、言うまでもないが、知能指数などは一つの遺伝子が決定的に影響するのではなく、多くの遺伝的要因と教育などが複雑に影響しあっている。当たり前のことだが、ゲノム研究が進み、多くの遺伝的な素因や体質に関係する要因が科学的に明らかになってきている。

 

と、彼の話の半分は自分の研究に費やしたのだが、「Precision Medicine」に関しては、彼が属する企業への保険加入者のうち、25万人分のゲノム(エキソーム)解析をして、健康指導に生かしていると言っていた(現在は6万人程度の解析が終わっている)。電子カルテで臨床情報を収集しているので、数年以内に膨大な医療上の有用情報が得られそうだ。

 

「薬の使い分け」や「がんゲノム」へ広げるには、まだ、時間がかかりそうだが、一般社会にゲノム医療が浸透し始めている。医療保険を提供する会社にとっては、ゲノム医療が不可欠になってきているのがよくわかる。公的医療保険制度である日本では、医療を効率的かつ安全にする、あるいは、病気を予防するインセンティブが働かないのであろう。その制度自体の存続が危うくなってきているにもかかわらず、金の話だけで、根源的な問題を避けているのは残念だ。

 

と考えながら、「New England Journal of Medicine」誌の「Moonshot to Malawi」

というタイトルの文章に目が惹かれて読んでみた。調べると、Malawi(マラウイ)は南アフリカのタンザニア(シカゴの総領事だった方が、ここの大使になった)、モザンビーク、ザンビアに接する人口1700万人の国である。私にはまったく記憶にない国名だ。医療へのアクセスが非常に限られた国にいる医師から、「米国のがんMoonshot計画も重要だろうが、自分たちにはいま世界で利用されているワクチンや薬剤さえ、手に入りにくい」、月を目指すのもいいが、もっと世界に目を向けてほしいという訴えであった。読んでいて切なくなってしまった。

 

しかし、私にできることは、治せないがんを治すための治療薬を作り上げることしかない。世界中の多くのがん患者が、笑顔を取り戻す日を願って。

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