若年発症成人型糖尿病に対するオーダーメイド医療

また、熊本で大地震が起こった。熊本大学には、私の研究室で研究していた医師がいるし、それ以外にも多くの知人がいる。幸いにも人的被害はなかったようだが、研究室は大きなダメージを受けたと連絡が入った。5年前の震災の際に東京で経験した震度5でさえ、恐ろしさで縮み上がったので、震度7は想像できない。何度も訪れたことがあるが、ホテルの窓から眺める熊本城は美しかった。空から撮影された熊本城の惨状には息をのむ思いだ。早く余震が収まり、熊本の方々が普通の日常生活を取り戻すことを心から願いたい。

 

さて話は変わるが、今週の火曜日、内科の講演会で、若年発症成人型糖尿病患者に対するオーダーメイド医療の話があった。英語ではMODY(Maturity-Onset Diabetes of the Young)と呼ばれるが、その定義は、(1)25歳未満で糖尿病が発症、(2)3世代以上にわたって糖尿病の家族歴がある、(3)各世代で約半数の兄弟姉妹に糖尿患者がいる、ことだそうだが、講義で聞いた定義では、30歳未満、2世代以上で遺伝子を調べた方がと言っていたような気がする。講演で言っていたのは病気の定義ではなく、遺伝子を調べた方がいいという推奨ラインだったかもしれないが、最近は記憶力が衰えたので自信はない。

 

この若年発症成人型糖尿病は糖尿病の約1-2%に相当する。大半が優性遺伝で、しかも一つの遺伝子異常で起こるので、両親のいずれかがこの病気の患者であれば、子供は50%の確率で同じ病気を発症する。若年発症だとインスリンの投与が不可欠なI型糖尿病だと誤って診断され、インスリン注射を継続することにつながる。I型糖尿病の場合、インスリンを作るすい臓のベータ細胞が破壊されるので、インスリンを注射しないと異常な高血糖となり、生命が脅かされるからだ。若年と言っても、乳児や小児で発症することもあり、この場合、ちゃんと検査しないと誤診につながってしまう。

 

若年発症成人型糖尿病の場合、インスリンを細胞外に放出することを促す薬剤の投与で治療可能な場合があり、治療薬選択に遺伝子診断が重要な意味をもってくる。毎日、注射を続けるのは精神的な負担も大きいので、これが飲み薬になれば人生の質は大きく異なってくる。講義においても、遺伝子診断によって、インスリン注射から解放された子供の例が紹介された。しかし、遺伝子診断は高額なので、とりあえず投与して様子を見ればいいではないかと指摘する声もある。数年前までならそうかもしれないが、遺伝子診断が安価にできるようになった今、やはり、科学的なエビデンスに基づいて薬剤を選ぶべきだと思う。

 

現在は、原因遺伝子と確定された遺伝子だけをスクリーニングしているようだが、当然ながら、全エクソンのシークエンスが数万円でできるようになった今、全エクソンを調べてると、確定診断に加え、新しい原因遺伝子の発見にもつながるので、効率的ではないかと考える。

 

私が、もっとも興味をひかれたのは、原因となる遺伝子がグル子キナーゼという原因遺伝子である場合、ヘモグロビンA1cという糖尿病コントロールの指標となる数値が高くても、合併症が起こりにくいという点であった。私は、この若年発症成人型糖尿病の定義には当てはまらないが、すでに発症して30年近くなるが、今のところ、糖尿病性網膜症も指摘されていないし、合併症も起こっていない。私もこのグル子キナーゼの遺伝子異常を持っているかもしれなし(子供が病気になっていないので可能性は低いが)、以前のブログで紹介たように、新鮮果物を多く摂取しているのがいいのではと思えてくる。がんもそうだが、糖尿病も、知れば知るほど謎が深まる。

 

種々の合併症が起こるかどうかによって、患者さんのQOLは大きく変わる。薬剤の開発も必要だが、生活スタイルや食事によって病気の発症や病気の悪化が抑えられるなら、それがいいに決まっている。病気を予防するための大規模研究が、高齢化社会を生き抜くためには絶対に不可欠だ。