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激変する気候の中で考える

医療(一般)

土曜日は吹雪が舞っていたが、日曜日は快晴、南風で午後5時頃には22度まで気温が上がった。そして、一夜明けた今朝は1度で、12時間で約20度の気温低下だ。今日の午後は、また、吹雪いていた。これは、シカゴに来てから体験する、最も目まぐるしい気候の変化だ。室内は常に一定温度なので、天気予報や外の温度を確認しないと、うかうか外出もできない。

そんな中、今日の腫瘍内科セミナーは、ホジキン病と呼ばれるリンパ腫についてのセミナーだった。前半は演者の属するスタンフォード大学がこの病気の治療に如何に貢献してきたのかを振り返る歴史物語であった。後半は、5年生存率が90%となった今、強力な治療法によって生ずる二次がんや心臓疾患を防ぐための努力が紹介された。

ホジキン病と診断された患者さんを長期間モニタリングした結果、治療後15年を境に、原病であるホジキン病で亡くなる患者はいなくなる一方、患者さんは、二次がんや心臓疾患で亡くなっていることが示された。心臓疾患の発症率は、一般集団の約3倍程度となる。一部のがんでは、治癒率や5年生存率は大きく改善したが、治療の影響によって生ずる長期的な課題が浮き彫りになってきている。

米国では1971年には約300万人であったがんサバイバー数が、2001年には980万人となり、2011年には1370万人となっている。おそらく、現時点では2000万人前後となっているだろう。人口比で考えると、日本にも500-1000万人の範囲となっているはずであり、これらの方々の二次がんスクリーニングや抗がん剤治療後の他疾患リスクの研究などがきわめて重要だ。

 

再三再四、このブログで触れているが、日本のがん研究予算は、その生涯罹患率(100人中50人以上が生きている間にがんと診断される)、それによる死亡数(日本人の約3人に一人ががんで亡くなり、1981年以降死因の第1位)を考慮すると、あまりにもみすぼらしい。治療に伴う副作用や合併症も、重篤な例が少なくないが、それに対する対策も不十分だ。中曽根総理時代に策定された「がん対策10ヵ年計画」は、米国のニクソン大統領を模したものだったが、国レベルの政策だった。それが、今や、見る影も無いといっていい。

米国のがん学会には、バイデン副大統領が出席してスピーチをする。ご子息を脳腫瘍で亡くされた後でもあるので、がん研究の重要性は十二分に認識されているはずだ。もともと、8年前の大領領選挙に際しては、「がんと闘う、オバマーバイデン計画」が提唱されていた。下記がその骨子だ。

(1)がん研究のための助成を二倍に。(対象機関:NIH、NCI、CDC、FDA)

(2)全ての国民の手に質の高いヘルスケアを

(3)全ての国民の手に予防医療を

(4)保険差別を終わらせる

(5)治験へのアクセスを改善する

(6)エビデンスに基づいた質向上のための介入

(7)がん研究,治療、啓蒙活動への連邦政府機関の連帯強化

(8)医療の人材育成強化

(9)個別化医療の発展を支援

(10)がん生還者(がんサバイバー)と家族への新たな支援提供

(11)健康に影響する環境要因の同定

 

もちろん、すべてが達成されたわけではないが、国のトップががんと闘う姿勢を示してくれることは、患者さんや家族に勇気と希望を与える。そして、目の前の研究費獲得に右往左往している研究者にも安堵を与える。混迷を続ける米大統領選挙を横目で眺めながらも、日本政府が希望につながる「国家レベルのがん対策」を打ち出して欲しいと願っている。役所は十分だといっても、患者の立場からは明らかに桁違いに不十分だ。

 

PS: 今日の午後、米国の臨床腫瘍学会雑誌に「Afatinib Activity in Platinum-Refractory Metastatic Urothelial Carcinoma in Patients With ERBB Alterations」というタイトルの論文がオンライン公表された。アファティニブという薬剤が、ERBB2 (HER2と同じ)、あるいは、ERBB3遺伝子に異常がある場合に有効であることを示した内容だ。薬剤の効率的な使用につながるデータだ。この研究は、医学部3年生から4年生になる時に、1年間休学して私の研究室で過ごした学生が、行ったものだ。日本の若者にも是非、頑張って欲しい。

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