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シカゴ大学赴任5年目を迎えた日に思うこと

雑事

今日からシカゴ大学での5年目に突入する。あと1年経つと、米国で10年の歳月を過ごすことになる。最初の留学時と、現在の置かれた立場は全く異なる。ユタ大学にいるときは、自分の研究に必死で周りを見るゆとりは無かったが、今から振り返ると、DNA多型マーカーを見つけ出すグループを率いていたので、人の遺伝学研究の中心にいたような気がする。もちろん、レイ・ホワイト教授グループの番頭の一人に過ぎなかったが、今のゲノム研究を率いている大御所が、当時、次々とホワイト研究室を訪問したので、多くの知己を得た。

代表的な研究者は、二重螺旋のジム・ワトソン教授、現在米国NIHのトップ、フランシス・コリンズ教授(当時、ミシガン大学)、MITのBroad研究所・所長のエリック・ランダー教授、ケンブリッジ大学のブルース・ポンダー教授、英国インペリアルがん基金財団のウオルター・ボドマー卿など、遺伝学の教科書に名を連ねる人たちの多くと出会ったことは私の財産でもある。同じ大学には、遺伝性乳がん遺伝子を発見したマーク・スコルニック教授、そして、遺伝子のノックアウトの手法を確立し、ノーベル賞を受賞したマリオ・カペッキ教授などがいた。

そして今は、教授としての立場で環境も異なるので、シカゴ大学では、研究をするだけでなく、「日本と米国の薬剤開発のスピードの違い」を探ることにも注力してきた。結論から入ると、個人の資質の差ではなく、明らかに薬剤を開発する制度・体制の違いだと思う。制度と言っても、単に医療のシステムの問題だけではない。これまでも指摘してきた歪んだメディアの報道姿勢の差も大きいが、成功例がほとんどないこれまでの日本の医学研究のあり方も問題だ。患者さんの理解を得るためには、真っ当な方法での成功例を生み出していく努力が欠かせない。社会の理解を得るためには、とにかく、大きな成功例を日本から生み出していくことが重要だ。

病院内での課題としては、院内のスタッフの数が異なることを始め、臨床試験やそれに付随する研究支援体制が大きく異なることがあげられる。試験そのもののプロトコールや研究の倫理審査のための書類を整備してくれる専門のスタッフがいる。患者さんからインフォームド・コンセントを取得する専門の看護師もいる。血液やがん試料を処理する専門研究補佐もいるといった状況である。「必要な人材を必要な部署に必要なだけ配置する」といった当然のことが実行されているだけである。日本では、どうしても医師にこれらの負担が過重にかかるため、研究制度そのものが破綻してしまったように思う。最低限の人材配置をしなければ、物事は絶対に動かない。5分の1の予算で、5分の1の成果を求めても無理な話で、部品が5分の1しか揃ってない自動車が役に立たないのと同じで、5分の1の予算が無駄になる。

といっても、これらの病院の体制を支えるには、公的な支援だけでは絶対に不可能だ。米国では日本と比較にならないくらい大きい公的資金に加え、患者団体や研究支援団体の大きな研究補助制度、そして、多額の寄付金が、これらの臨床試験・臨床研究を支えているのだ。大学には寄付金を募るための部署が存在している。テレビやネットなどで大々的に寄付金を募っている大学もある。日本では税制の違いから、寄付が集まらないと言われているが、単にそれだけではなく、どのような理由かわからないが大金持ちが日本には少ないのだ。

どこのデータか忘れた(メモだけとって、データ元を書くのを忘れてしまった。データもとの方、ごめんなさい。)が、世界各国のビリオネア(10億ドル以上の資産を持つ人)の数は。米国の535名に対して、日本は42名(世界で10位)と一桁少なく、シンガポールの32名(世界14位)、韓国の31名(世界15位)と大差が無い。驚くことにインドには111名、なんと、中国には米国を上回る568名いるそうだ。

日本にも景気のいい企業はあるが、多額の寄付をすると株主から叱られるので、企業にはあまり期待できない。そこで参考になるのが、大統領予備選挙で注目を集めている民主党のバーニー・サンダース氏の手法だ。一人一人は小額だが、多くの人から寄付を募り、選挙戦を戦っている。日本人の二人に一人を上回る人ががんに罹患し、三人に一人ががんで亡くなる時代にしては、日本のがん研究費はあまりにも少ない。がんの研究が進み、少しでも安全で効果の治療法を国内で生み出していくためには、多くの方の協力が必要だし、それを自ら勝ち取っていくしかないと思う。是非、患者さんや家族ががん研究を支援する大掛かりな仕組みを作って欲しいと思う。

そして、もし、経済活性化対策で補正予算を組むならば、是非、がん対策、とくに、臨床試験や臨床研究対策に予算をつけて欲しいものだ。それも、箱物や器械ではなく、人材育成につながる形で。これらは、確実に雇用を創生し、経済発展につながり、そして、がん患者や家族の幸せにつながるはずだ。

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