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18カ国でのがん治療薬価格比較;最大5倍の差?!

「Lancet Oncology」誌の1月号に、がん治療薬31種類の18カ国での価格比較が報告されていた。残念ながら、日本のデータは含まれておらず、ヨーロッパ16カ国とオーストラリアならびにニュージーランドの比較である。がん治療薬は非常に高額なので、たとえ数十%の差でも、それが積み重なってくると非常に大きな違いとなるし、それらが税金でまかなわれているなら、国の医療福祉費に大きな影響を与える。

31種類の薬剤を最も安く購入している国の金額を100として、それぞれの薬剤の価格の中央値(平均値ではなく、高いものから並べて、真ん中の値;たとえば17カ国の数字が入手可能ならば、9番目の数字)を眺めると、大半は150以内に収まる。しかし、国によっては、200(最も安い国の2倍)を越えている数字も散在する。

極めて差が大きかったものを3種類あげると、アルファ・インターフェロン(免疫活性化薬)、ゲフィチニブ(日本では商品名イレッサとしてよく知られている肺がん治療薬)、ゲムシタビン(DNA合成阻害剤)となる。インターフェロンは、最も安いギリシアが1単位約105ユーロに対し、スイスが約299ユーロと3倍近く高い。ゲフィチニブは、ニュージーランド34ユーロに対し、デンマークが92ユーロと、これも3倍近い差がある。ゲムシタビンは中央値が300と、調査された31種類の薬剤の内、価格差が最も大きい薬剤であり、最安値のオーストラリア43ユーロに対し、最高値のニュージーランドが209ユーロとなっている。物理的に近い距離にある2カ国間で、なんと5倍近い差になっているというのは驚きだ。

ただし、著者たちは、実際に病院に販売されている価格は値引きされているので、実態を正確に反映していない点が、この調査の欠点だと自ら述べている。日本のような医療保険制度の国では、薬価が公的に定められているので、薬価策定の際に諸外国と比較し、割高な支払いにならないようにすることは重要だ。隣国では1万円の薬剤を、日本では3万円も支払っていては、医療費抑制への道は険しい。

米国で実施されている大統領予備選挙では、医療費高騰の原因となっている、高額な薬剤費が槍玉に上がっている。企業は利潤をあげなければ、次の投資に回せないので、難病を克服するためには利潤を上げなければならない。しかし、現実には、米国では、個人破産の原因の半分以上が、医療費負担によるものだ。医薬品の価値をどう策定していくのかは、企業のロジックだけでなく、国策としても重要だ。

また、日本では感情的な議論になってしまい、議論することさえタブー視されているが、薬剤の対費用効果を考えなければ、公的な医療保険制度が維持できないところまできているように思う。「国民が同じレベルの医療を受けることができる」日本の素晴らしい仕組みを維持するには、税負担増も不可欠だと思うが、これも日本国内では冷たい視線を向けられる。起こっている現実を直視した戦略が不可欠だと思われるのだが?

 

(講演会のご案内)

3月17日 (最初に書いた18日は間違いでした)午後1時―2時30分に横浜薬科大学で「患者さんに優しいオーダーメイド医療」のタイトルで講演会を開催することになっています。(http://www.hamayaku.jp/news/index.html?pid=16121&id=40959

オーダーメイド医療を実現していくためには、薬剤師の協力は不可欠です。しかし、日本では医学部・薬学部での遺伝学教育やゲノム医学の教育が不十分です。薬学部関係者には是非、この機会に、個別化医療・ゲノム医療の重要性を知っていただきたいと思います。もちろん、一般の方の参加も大歓迎です。

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