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ゲノム編集と遺伝子操作;胎児のゲノム編集は許されるのか?

遺伝子を壊して、遺伝子の働きを調べるノックアウト法は、生命科学分野で多大なる貢献を果たしてきた。その功績が認められて、私のユタ大学時代の知人であるマリオ・カペッキィ氏は2007年にノーベル医学生理学賞を受賞した。これらの技術で、遺伝子組み換えが可能となったことにより、受精卵などに遺伝子操作できることも理論的に可能となった。しかし、予期せぬ遺伝子異常が起こる危険性(当時の技術では、ゲノム全体を調べることは簡単にはできなかった)や神の領域を侵犯することは許されないなどの神学的倫理学的論争によって、受精卵や胎児に遺伝子操作することは禁じられている。

 

しかし、今や、全ゲノムを解析することは容易となり、しかも、十万円未満で解析可能なので、遺伝子操作によるゲノムへの影響を正確に捕捉できる時代となった。また、最近開発された手法が、目的の遺伝子だけを厳密に(以前よりは厳密だが、間違いを起こす可能性はゼロではない)置き換えることができるようになった。これを「ゲノム編集」と呼ぶ。

 

日本では、ゲノムという言葉に対する一般社会の認知度が低いため、「ゲノム編集」という言葉自体を知る人も少なく、「ゲノム編集」は「遺伝子操作」とは全く異質なことと考えている人が少なくない。しかし、「ゲノム編集」はどこからみても「遺伝子操作」なのだ。ただし、従来の方法に比べると、目的以外の遺伝子に異常を起こす可能性はかなり低いようだ。しかし、どの遺伝子を標的にするかによって、他の遺伝子に対する影響の有無はことなってくるはずだ。

 

2月になって、英国の国家機関が、ヒトの受精卵に研究としてゲノム編集を行うことを認めた。ただし、細胞が2個・4個・・・・・・そして256個に分裂する段階までで、その段階で廃棄することになっている。“Nature”誌は、ドイツではこのような研究は禁じられており、これに反すると刑事罰が課せられる一方、日本、中国、アイルランドでは法的拘束力の無いガイドラインだけ対応していると指摘している。

 

新技術のもとに、動物、植物を作り変える研究が進んでいる。これらの研究を進めている企業に、ビルゲイツ財団、グーグル、DuPontなどが大規模な投資をして支援している。確かに、不治で重篤な遺伝性疾患を遺伝子レベルで治療することができればと望んでいる患者さんや家族は多いだろう。しかし、やはり遺伝子操作のプロセスで生ずる未知のリスクは否定できない。もし、遺伝子異常のない子供を望むならば、受精卵から少し分裂した段階で1細胞を取り出し、遺伝子異常のないものを子宮内に戻すことも可能だ。優性遺伝性疾患なら、50%の確率で遺伝子異常はないし、劣性遺伝性疾患なら75%の確率で病気が起こらない。したがって、人工授精で受精卵を5-6個入手することができれば、たいていの場合、病気遺伝子を持たない受精卵は存在する。

 

科学は進み、これまでは想像さえできなかったことが可能となってきた。日本ではこのような議論を始めると、必ずと言っていいほど、「病気やハンディキャップを持った子供を差別するのか」といった感情論が沸き起こり、冷静に議論することができなくなる。「五体満足な子供が生まれて欲しい」という親として当然な願いが、一部の人に「障がい児を差別するのか!」と非難の対象となる。期待できる可能性、起こるかもしれない危険性、まずは、科学的・技術的課題な議論をすべきだ。そして、研究の結果を社会として受け入れることができるのか、人の道に反するのか、病気で苦しんでいる人たちのことを思いつつ、また、将来の日本という国を見据えて話し合って欲しいと思う。

「幸せ」と言う価値観は個人個人で異なるし、法に反しない限り、異なる価値観のもとに異なる選択肢をする自由は認められているはずだ。「ゲノム編集」と言う名の「遺伝子操作」を科学的に評価し、それを社会の発展につなげていくことは重要だと思う。日本で研究を縛っても、海外で研究が進み、画期的な治療法が生まれればどうするのか、食糧危機を乗り越える画期的な動植物改変が行われればどうするのか、世界の一員としてしっかりとした国家としての方策を立てるべきではないのか?

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