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大腸がん患者の術後化学療法は有用か?

医療(一般)

元トロント・ブルージェイズの川崎宗則選手が、マーナー契約だがシカゴ・カブズと契約したとネットニュースに出ていた。川崎選手は、イチロー選手を慕って太平洋を渡りマリナーズに移籍したが、数ヶ月後にイチロー選手がニューヨーク・ヤンキースに移り、その後はメジャーとマイナーを行ったりきたりで、苦労をしている。それにもめげず、明るいキャラクターによってトロントでは人気者になっていた。米国スタンダードでは非常に小柄な川崎選手が、メジャーに昇格して、シカゴでプレーする姿を是非見たいものだ。その時には、シカゴ大学にいる日本人全員で球場に応援に行きたい。

話は突然変わるが、今日のNew England Journal of Medicine誌に大腸がんの予後(再発率や生存率)に関係するCDX2という分子が報告されていた。大腸がんの予後に関係する分子など、腐るほどとは言わないが、多数報告されているので、大したことがないと思いながら斜め読みしていた。確かに、数千人規模のデータで、日本ではできない研究だ。しかし、このデータのどこが、この雑誌に掲載されるほどインパクトがあるのかと読み進めていたが、最後までなるほどと頷けるような内容ではなかった。しかし、せっかく読んだので、臨床的に意味があるかも知れない最後の図だけを紹介する。

第II期の大腸がんと第III期の大腸がん患者を、CDX2が陽性・陰性(大腸がん細胞でたんぱく質が作られているか、いないか)と術後補助化学療法の有無で、無再発期間(手術してから再発するまでの期間)を比較したものだ。第II期の大腸がんでCDX2が陽性の場合、化学療法を受けた患者と受けなかった患者では、再発率にまったく差は無かった。近藤誠氏が喜びそうなデータだが、389名の化学療法を受けた患者と、232名の化学療法を受けなかった患者との比較だから、信頼性は高い。第III期でCDX2陽性例では、化学療法を受けた群での5年再発率は、化学療法を受けなかった群と比較して20%ほど低かった。第II期はフルオロウラシル、第III期ではフルオロウラシル+オキサリプラチンが投与されているので、その差に注意しなければならないが。

それでは、CDX2陰性群ではどうなのか?第II期でも、第III期でも化学療法を受けなかった群は、再発率は約50%と70%と高いが、化学療法群では約10%と25%となっており、化学療法の意義は大きい。ただし、第II期では23人(化学療法あり)と25人(化学療法なし)の比較、第III期では60名対27名の比較と数はそれほど大きくない。統計学的な差は否定できないほど確定的だが。

この論文に間違いが無ければ、CDX2陰性群では、II期でも、III期でも、術後化学療法が再発率を大きく下げるので、化学療法は望ましいことになり、第III期でCDX2陽性群でも術後化学療法が臨床的に意味を持つことになる。しかし、現在の第II期に対する術後化学療法は意味がないと考えられる。第III期の患者で効果があるなら、同じものを第II期の患者に適応すれば、同じか、もっと効果があると話が進むかもしれない。

内容的に臨床系のトップの雑誌に掲載される内容がどうかは疑問が残るが、がんの治療効果を高めるためには、この論文のような千人単位、万人単位のデータの収集が不可欠だ。もちろん、個人個人の違いを見極め、オーダーメイド的に治療を提供することを目指すのが最終ゴールだ。

日本では、がんの10年生存率が初めて公表されたことがニュースになったが、このレベルのことがニュースになること自体、国際的には恥ずかしく、とても先進国とは呼べない。がん患者さんや家族は、より確実に効果があることを期待し、少しでも副作用が軽減されることを願っている。この実現には、ひとり、一人の患者さんが、自分のデータを将来のために生かす気持ちを持つことが絶対的に不可欠である。がん登録制度が始まったことは喜ばしいことだが、医療を発展させ、日本の医療が世界をリードするためには、解決すべき課題が山積している。

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