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自分で開発した薬剤を、自分主導で治験

医療(一般)

今日の昼、米国NCI(国立癌研究所)のHassan博士の講演会があった。彼は、メゾテリンという中皮腫(Mesothelioma)で見つかった分子をもとに、20年間研究を続けている医師研究者である。発見当初は、中皮腫というがんで特異的に発現していると考えられていたが、その他のがんでも発現していることが確認されている。

中皮腫という名は聞き慣れないかもしれないが、肺の外側を覆っている膜から発生するがん(肺がんとは区別される)で、アスベストを大量に吸い込むとできやすい。阪神大震災や東北大震災の瓦礫処理の際に、作業者がアスベストを大量に吸い込んだ危険性があり、今後、日本でも要注意のがんである。本来、瓦礫処理に携わった人たちを国がしっかりと追跡調査すべきだと思うのだが、火事場泥棒のような心貧しい研究者には、こんな発想は全くない。「Public Health」という重要な学問分野が確立されていないのも一因だ。

Hassan博士とは、朝の8時から1時間近く、私の部屋で面談した。非常に温厚そうな研究者であったが、ひとつの分子に注力し、その道一筋20年賭けてきただけあって、強靭な精神力が垣間見えた。私の研究スタイルとは対照的な研究者であったが、がんと闘うという共通の目的で話は弾み、楽しい時間を過ごす事ができた。

講演会では、このメゾテリンの抗体を作成したところから始まり、この抗体を利用した抗体療法、細胞療法など免疫療法の臨床試験の成果が示された。多くの臨床試験が進められているが、そのうちいくつかは、彼が主導して進められている。私が開発した薬を、私自身が責任医師として臨床試験を進めるようなもので、うらやましい限りだ。もしも、奇跡的に、日本でもこんな状況が生み出されるなら、すぐにでもやってみたい。が、奇跡は、起こる可能性がほとんどないから奇跡なのだ。と想いながらも、1800億円の宝くじを奇跡的に射止めた人が3人もいたのだ(各600億円になってしまったが)。奇跡に期待して頑張ろう。

彼から示された結果は、かなり有望であった。完全にがんが消えてしまうような例は無かったが、一部の患者さんには、がんの縮小効果が認められ、長期間安定な病状であった。淡々と話を進めるので、その背後にどの程度の苦労話があったのか、垣間見ることはできなかった。しかし、多大な苦労があったことは想像に難くない。成功には幸運が必要だが、幸運だけに期待して、絶え間ない努力をしない人間には成功はない。

しかし、はっきりとした成果が出ない間においも、研究支援を続けた米国という国の姿勢、あるいは、そのような研究を真っ当に評価できる評価者たちの見識を学ぶべきだと痛感した。短兵急に成果を求めるが、研究内容によっては目に見える成果などすぐに出て来るはずがないのだ。結果ではなく、その道筋を評価できなければ、砂漠に水を撒き続けるだけだ。特に、臨床の成果など、5年、10年単位での評価が必要である。日本では基礎研究と臨床応用の研究費を取り合うための綱引きが、長年に渡って続いている。それぞれを代表する研究者たちが、「基礎が重要だ」、「いや、臨床応用が重要だ」と口角泡を飛ばし不毛の議論をしている。国の将来など眼中に無い、研究者の集団が利益団体化している状況では、今日のHassan博士のような成果は絶対に生まれない。

Hassan博士にも指摘されたが、日本は基礎研究レベルで高い成果を上げているが、どうして治療につながる結果が出てこないのか。最大の理由は明確だ。評価をする人たちがいい加減なのだ。もちろん、責任を追及されることもない。しかし、評価する目など、一日で養われるものではない。この根源的な課題を解決せずして日本の未来はない。国家百年の計として、「学閥などにとらわれない」大きな視点で公平に評価できる人材、国家レベルでのエリートを育てることが不可欠だ。

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