ホジキンリンパ腫治療後の二次がんリスク;求められる医療情報データベース化

今週号の「New England Journal of Medicine」に「Second Cancer Risk Up to 40 Years after Treatment for Hodgkin’s Lymphoma」というタイトルの論文

がオランダの研究者から公表されていた。1965―2000年の間にホジキンリンパ腫と診断されて治療を受け、5年以上生存した患者3905名(初診時年齢は15-50歳)を平均19.1年間、二次がん(ホジキンリンパ腫以外のがん)の発症を追跡調査した結果である。日本では、頻度の高いがんでも約4000名、約20年という数字を求めるのは不可能だ。役人も政治家も腰を抜かすような数字だ。

 

追跡調査期間内に3905名中908名の患者で、1055のがんが発生していた。一般集団と比較したがんの発生頻度は4.6倍 (95%の確率で4.3―4.9倍と推測) と非常に高かった。がんの発症率は初診後35年を経ても、3.9倍と高い(95%の確率で2.8―5.4倍;35年経過した患者数は少ないので、統計学確率は不確かなものになり、範囲が広くなる)。

 

初診後40年以内に、別のがんが生ずる確率は48.5% (45.4%-51.5%)と二人に一人が別のがんに罹患する。さらに、治療法もかなり変わってきているため、 1965–1976年、1977–1988年、1989–2000年の12年間ずつに区切ってデータが提示されていたが、まったく差がなかった(P = 0.71)。10年ではなく、干支が一回りする12年で区切っているところが、なんとなく興味深い。医学的には、抗がん剤や放射線治療の毒性が軽減されているにも関わらず、二次がんの発症リスクがほとんど変わっていないことに関心が惹かれる。抗がん剤療法の影響よりも大きい、遺伝的、あるいは、環境要因の存在が示唆される。

 

また、 アルキル化剤系の抗悪性腫瘍薬であるプロカルバジン(Procarbazine)を1平方メートル体表面積当たり4.3g以上投与された患者さんでは乳がんの発症頻度が約半分であった。これは閉経が早く起こることが原因だと考えられている。

 

ホジキンリンパ腫は日本では頻度が低く、欧米の人口10万人当たり3.5-5人の3分の1程度と報告されている。リンパ腫内は大きなホジキン細胞の周りを多くの正常なリンパ球が取り巻いているため、正確なゲノム遺伝子変異解析をするためには、がん細胞であるホジキン細胞を選り分けなければならい。それが容易ではないため、遺伝子異常のデータは非常に限られている。また、リンパ球が腫瘍組織内に多く存在しているためか、抗PD-1抗体治療が非常に有効である。

 

今回の論文では、抗がん療法が変わっても二次がんリスクは変わらないという結果であったが、膨大な追跡データから二次がんの発症率が極めて高いことが実証されたと言える。したがって、がんのスクリーニングが欠かせない。

 

患者さんの予後を改善し、命を守るためには、このような追跡データが不可欠である。この種の論文を読むたびに、正確ながんの発症数さえ知ることができない日本の実情を憂うのだが、「プライバシー」という「水戸黄門の印籠」が立ちはだかって、医療情報の収集もままならない。この場合、水戸黄門というよりも、「ペンという名の横暴」と言う方がふさわしいが?

 

マウスの実験をいくら積み重ねても、人間の医療を改善していくためには、人間のデータが必要だ。日本が「医療」を看板に世界と競っていくには、医療情報のデータベース化が急がれる。同じ病気に罹患している患者さんの医療の質を上げるために、そして、同じ病気にかかるかもしれない自分の子供や孫のためにも。

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