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機内の愚痴

今、成田に向かう飛行機の中でこれを書いている。今日は気流の関係かよく揺れるので、仕事が捗らない。成田―シカゴ便はしばらく前から、機内でインターネットが使えるようになっているが、試行期間中にネットを利用してメールを送ったところ、「絶対に連絡が来ないと安心しきっているところに、先生からメールが届くと心臓に悪い」と言われたことがあるので、しばらくは利用していなかったが、今日は急ぐ案件があったので仕方なく、利用した。

23日に日本に引き上げる予定の学生が、16日に論文を私に届けてきた。昨日、今朝と、論文に目を通して校正していたが、質が悪い。英語の問題なのか、気合の問題なのか、両方なのかわからないが、2-3か月前から言い渡してあるにもかかわらず、1週間前に私に手渡すくらいだから、完璧なものを期待していたが、期待は見事に裏切られた。彼に限らず、全体的に責任の重さを自覚していない人が多いように思う。ひとつひとつの論文に研究者としての自分の人生がかかっているはずなのだが、あまりにも緊張感に欠ける人たちが多い。 期限が限られていることをわかっていながら、それを逆算して間に合わせようとしない。上述の論文など、機内で見終わって、直ちに送り返したが、奇跡でも起こらない限り、23日までにまともな物は間に合うはずがない。優秀な頭を持っているのは間違いないのだが、「ゆとり世代に育ったためか」、必死に物事に取り組むという気持ちが伝わってこないのだ。一瞬一瞬にもっと魂を込めてほしい。

また、論文の再投稿期限を何度も問い質したにも関わらず、期限を見過ごして、没にしてしまった者もいる。これは中村研究室史上、初の愚挙である。私の人生哲学では、論文が雑誌社に「ノー」と言われるよりも、この怠慢な姿勢の方が、ショックが大きかった。研究者と生きていく覚悟に欠けるし、こんな姿勢では絶対に研究者として成功しない。 時間を守れない人間というのは、私の人物評価では、かなり点数が低くなる。私は自分が待つことも、待たされることも嫌いだ。会議などで、定刻前に来た人が、遅れてきた人間を待つなど、シカゴでは当たり前なのだが、これは不愉快だ。遅刻してきた人は、定刻に来た人たちの時間を無駄にしているのだ。私は親からそのように教わってきた。

アポイントメントなどでも、約束の時間を常に5-10分平気で遅れてくる医師がいる。当然、彼が来ることを期待して、何もしないで待たなければならない。これが積み重なってくると膨大な時間の無駄が蓄積されてくる。彼はいつも「患者さんが・・・・・」と言い訳をして遅れてくるが、他人に迷惑をかけないために、ゆとりを持って約束ができないのだろうかを思う。きっと他人の時間は大切ではないのだろう。

周りを見ても、顔を合わすたびに「話があるからお前のオフィスに行く」と3年間言い続けている研究者がいるが、まだ、一度もオフィスに現れな。この表現はシカゴの一部の人にとっては「こんにちわ」の意味と同じだということをようやく学んだ。

自分の時間を、無責任な人に無駄に費やされている苛立ちから、愚痴を書きすぎた。読み返して、みっともないのでブログにアップするのをやめようかと思ったが、研究室にいる人たちに自分の気持ち・考えを伝えるためにこのままにする。

しかし、これだけでは単なる老人の愚痴に終わるので、昨日の「New England Journal of Medicine」誌に掲載された「Ibrutinib as Initial Therapy for Patients with Chronic Lymphocytic Leukemia」という論文の話をしよう。 Ibrutinibという薬剤はBTKと呼ばれるキナーゼの働きを抑える。BTKはリンパ球の増殖に不可欠な酵素である。65歳以上の269名の未治療の慢性リンパ性白血病(Chronic Lymphocytic Leukemia=CLL)に対してchlorambucilという抗がん剤との比較試験を行った結果である。

患者さんの年齢中央値は73歳、観察期間は18.4か月, 無増悪期間の中央値は、chlorambucilは18.9か月に対して(18.9か月の時点で半分の患者さんのがんが増悪した)、ibrutinib群は、同じ時期で悪化していた患者はわずか10%程度という驚異的な数字であった。2年生存期間で比較するとchlorambucil群の85%に対して、Ibrutinib群は98%と有意に高かった。貧血の改善傾向もibrutinibで高く認められた。副作用は大きな差がないことから、明らかにibrutinibが優っている。高齢者に優しく、有効な薬剤の登場だ。

私も、早くこんな薬を世に出してみたい。 あと2時間半ほどで成田到着だ。