がん個別化医療2016-(3)

週末のシカゴは、過去の最高記録に匹敵する暖かさで、コートはもちろん不要、ジャケットなしでも快適な気温だった。この時期には姿を消すリスも、公園にたくさん見かけられた。ただし、12月は、曇り、雨の日が続き、からっと晴れ上がる日は少ない。昨日は、雨ですることもなく、午後にはアパートの向かいの科学博物館に出かけて、シアターでクジラのドキュメンタリーを見た。クジラの保護を訴えた映画だが、日本、ノルウエー、アイスランドが捕鯨を続ける国として非難されていた。昨年は、ノルマンジー作戦の映画で、日本が第2次世界大戦の敗戦国として上げられていた。これらの映画は、日本に対する悪印象を残す。捕鯨など、社会的文化的背景の違いなのだが、事実は否定できないので、見ていて気持ちが落ち込む。もっと日本の素晴らしい点を海外に発信する戦略が必要だと思う。

 

今回と次回は、がん個別化医療、特に、個別化ワクチン治療と個別化細胞免疫療法について述べる。これらは、患者さんごとにオーダーメイドの治療法を提供する究極のがん個別化医療「Precision Medicine」である。

 

ワクチン療法と言っても、複数の方法があるが、まずは、がん細胞の遺伝子異常解析を基盤にしたネオアンチゲン治療について、改めて紹介する。以前にも述べたが、ワクチン療法には、われわれや日本の他の研究者が取り組んできたオンコアンチゲン由来のワクチンがある。このタイプは、HLAのタイプによって規定されているが、すべての患者ごとに個別というわけではないので、分子標的治療薬と同じか、場合によってはそれ以上に汎用性がある。

 

たとえば、HLA-A24 型は日本人の約60%が持っている(これは、かなり特殊で、他の国では、これほどひとつのHLAタイプの頻度の高いことはない)。また、HLA-A02やA33などは10-20%の日本人が持っているので、3種類のHLAに対応するワクチンを用意すると、大半の日本人には利用可能である。したがって、汎用性の観点では、オンコアンチゲンワクチンは、はるかに有利である。また、オンコアンチゲンがネオアンチゲンに比べて免疫誘導能で劣るというデーもない。

 

ただし、TCR導入T細胞療法を最終的ゴールとして視野にいれた場合、ネオアンチゲンを前提に考えた方が、安全性ははるかに高いと考えられる。TCR導入T細胞療法の場合には、一気に強烈な免疫反応を起こすので、もし、ごく一部の正常細胞が、オンコアンチゲンと同じものを作り出していると、重篤な副作用を引き起こす可能性があるからだ。抗体医薬品ハーセプチンの攻撃対象であるHERは、肺動脈の血管細胞で作り出されているため、HERを認識するT細胞を大量に注射すると、患者さんが急死した例は以前にも紹介した。

 

この点、ネオアンチゲンはがん細胞の遺伝子異常を利用したものであり、がん細胞に特異的であるという点では確実である。同じT細胞受容体が、正常のペプチドと体細胞変異を含むペプチドの両方を認識する可能性は否定できないが、正常のペプチドを認識するT細胞は、排除されているので可能性はかなり低い。ただし、この個別化ワクチン療法の有効性を示す臨床試験を実施するには、患者ごとに個別のワクチンを用意しなければならず、膨大な経費がかかる。ただし、10例中5例で劇的な効果が出れば、一気に流れができてくるだろう。がん細胞はしたたかに生き延びる術を速やかに取得するので、こればかりは、やってみないとわからない。

ただし、肺がんやメラノーマのような遺伝子異常の多いがんでは、多くのネオアンチゲン候補が見つかるのだが、白血病や中皮腫などは遺伝子異常数が少なく、可能性が非常に限定される。がんというのは本当に厄介な病気だ。 

効くかどうかわからないから、やらないと考えるのか、効く可能性があるのでチャレンジするのか、医師・研究者・企業の哲学の問題だ。規制当局の科学に対する理解度と柔軟性も問われる。私は、少しの可能性でもあれば、チャレンジするタイプだが、お金もかかるし、一人ではできることにも限りが・・・・・・。悩ましい。

 (次回は、個別化T細胞療法)

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