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がん個別化医療2016-(2)

12月のシカゴは依然として穏やかだ。日曜日には、過去の最高気温記録に匹敵する15度程度まで上昇するとの予報だ。来週の後半には平年並みとなり、最低気温が氷点下になりそうだが、昨年・一昨年と比べれば、穏やかなものだ。もちろん、ミシガン湖の湖面も凍っていないし、雪も積もっていない。雪が降ると、路面に凍結防止のため大量の塩がばら撒かれるが、今冬は塩の販売業者には、厳しい冬となりそうだ。

さて、今回は、治療薬を選択するためのゲノム情報の活用について触れる。現在、科学的に認知されているがんの治療法として、外科療法、放射線療法、化学療法(分子標的治療薬を含む)、免疫療法がある。もはや、3大療法ではなく、4大療法の時代だ。また、放射線療法も、技術的な進歩に伴い、エックス線・電子線・ガンマ線、重粒子線など、いろいろな種類の放射線を利用するようになり、単純に一括りにはできなくなってきた。したがって、とりあえず、ここでは化学療法、免疫療法について説明する。

がんの分類が、臓器別から、組織型(顕微鏡で観察したときの細胞の形の違い)へと変わり、今や、ゲノム・遺伝子情報に基づいた分類へと急速に移行してきている。なぜならば、遺伝子情報に基づいて薬剤が選択されるようになってきたからである。10年後、早ければ5年後にも、がん細胞(組織)の遺伝子解析は日常診療として導入されることになるだろう。今でも、EGFR・ALK・KRASなどの個別の遺伝子検査はされているが、技術の進歩によって全部のエクソンを調べることがルーチンの検査になると私は予測している。

大きながんの塊には何百億、何千億個ものがん細胞が存在しているが、すべての細胞が全く同じ遺伝子異常を持っているわけではない。がん細胞が、細胞分裂を繰り返す過程で、多くの遺伝子異常が起こるため、微妙に異なってくるのだ。一般的には大きい腫瘍ほど、違いが大きくなる。これをがんのHeterogeneity(異質性)と呼び、これが臨床的に重要だと言う人がたくさんいる。

がんの治療を考えるには、異質性を調べ、がんの進化論を理解しなければならないと、口角泡を飛ばして語る人がいるが、私はナンセンスだと思う。転移病変が5箇所ある場合、そのすべてからバイオプシー(針でがんの組織を取ってくる)を取ることは現実的には無理であるし、がんがある程度の大きさになった場合、小さな針で採取した部分ががんの塊全体を反映しているかどうかわからない。今は、1個の細胞の遺伝子異常を調べることが可能であるが(私は精度は高くないので、現時点では1細胞全ゲノム解析はあまり意味がないと思っているが)、何百億個もの細胞を個別にシークエンスすることなど、非現実的だ。医療費の観点からも、限られた情報で最善を尽くすしか方法はないのだ(将来的に、リスクの低いイメージング検査法で、がんの異質性を調べることができれば別だが)。

話は逸れたが、治療法開発が急速に進む状況を考えれば、がんの全エキソン解析は、がん患者さんの利益につながると確信している。では、遺伝子異常情報(DNA暗号-塩基―が変化している)や遺伝子発現情報(DNA暗号には変化はないが、遺伝子の働きが強くなったり、弱くなったりしている)があれば、何ができるのか?それは、前回の図に示したように、

(1)効く可能性の高い分子標的治療薬を選ぶことができる

(2)進行中の臨床試験に登録することが可能となる(あらかじめ、情報があると患者さんに希望を提供することができるし、臨床試験も効率的に進む。そうすれば、臨床試験費用が節約されるし、その結果、薬剤の価格が下がる(と期待したい)。)

(3)20世紀に開発された抗がん剤に対する効果判定もできるようになれば、これらの薬剤に対する使い分けもできる。

(4)そして、多くの遺伝子多型情報も活用できれば、副作用の起こりやすい患者さんを見つけることにもつながる。

(5)免疫チェックポイント抗体医薬などは、非常に高額であるし、自己免疫の副作用リスクは高い。大騒ぎされているが、効果のある患者は20-30%程度で、乳がんなどにはあまり効果がないようなので、やはり、選別のための指標が必要だ。今のところ、遺伝子異常数の多い患者が効く可能性が高いので、遺伝子異常検索はこれにも役立つだろう。

膨大な情報を集積することによって、診断の精度は確実に上がってくる。これには患者ー医療従事者―研究者の連携が不可欠だ。患者さんのQOLを高めるには、他人任せではなく、全員参加型の大きな「Cancer Precision Medicine」プロジェクトが必要だ。日本人の50%以上が生きている間にがんに罹る。自分のためだけでなく、血縁関係の人、同じ病気の人たちのためにも、みんながまとまらなければ!

(次回は、免疫ゲノム・免疫療法)

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