血圧コントロール;120まで下げる、140程度でいい?

今年のシカゴの冬は過ごしやすい。今日も大学を歩いて往復したが、帰り路など耳当ても不要なレベルだ。来週は、15度前後まで気温が上昇するそうだが、このまま暖冬であって欲しいと願うばかりだ。特に、20日前後に日本に出張するので、この時期に大雪になるのは避けてほしい。

さて、血圧コントロールに関する大規模研究の結果が、11月26日号の「New England Journal of Medicine」誌に報告されている。論文の標題は「A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control」であり、血圧のコントロールをこれまでの目標値であった140で維持するグループと、もっと強力に120まで下げて維持するグループで、心臓血管疾患がどの程度異なるのかを調べたものである。

多くの方はご存知と思うが、この120、あるいは、140という数字の単位はmmHgである。最近では見る機会も減ってきたが、血圧計の真ん中のガラス管にはHg(水銀)が入っている。水銀は金属であるが常温では液体の状態である。血圧140というのは、水銀を140㎜(ミリメートル)、すなわち、14センチメートル押し上げるだけの圧力(心臓が血液を送り出す力)があることを意味している。水銀の比重は13.6であり、水の1に対して13.6倍となっている。したがって、水に換算すると、約1メートル90センチメートルも押し上げる力があることになる。 

血圧計のガラス管の中を色の付いた水にできない理由は、水にすると血圧計を3メートルにする必要があり、実用的でないからである。水銀にすると血圧200でも、ガラス管の水銀の長さ(高さ)は20センチでいい。みなさんが目にする古典的な血圧計が、手で持ち運べるのは水銀のお蔭である。 

と話が横道に逸れたが、論文の結論は、120の方が心臓や脳血管疾患の発症率や死亡率が下がっている。4年間の観察期間で、心筋梗塞や脳卒中の発生率は血圧140のグループが約8%に対して、血圧120のグループは約6%であった。ただし、「このただしの先」が重要だ。急性の腎臓障害の発生率は、血圧140のグループが2.5%に対して、血圧120のクループが4.1%と約1.7倍高くなっている。救急外来受診を含む重篤な失神発作の頻度は、3.5%対2.4%と、これも血圧120のグループの方が高くなっている。120の方が良かったとは言えない、あやふやな結論で締めくくっている。

 高齢になると血圧が上がるが、これも動脈硬化に伴い生理的に起こる現象である。理科で習った「電圧・抵抗・電流」の関係を思い出して欲しい。電流=電圧÷抵抗で決まる。抵抗が高くなれば、同じ電流を流すには、電圧を上げなければならない。これを血流=血圧÷動脈硬化に置きなおす。我々の臓器は一定の血流が必要である。動脈硬化が起こると、血流を保つためには、圧(血圧)を上げて強い力で血液を押し出さなければならないのである。若い時に、抵抗(血管の固さ)が10であれば、血流(10)を維持するために、血圧が100でいい。老化で血管が動脈硬化となり抵抗が15になれば、血圧を150にしないと血流10は保てない。

 これを無理やりに下げれば、脳にも、腎臓にも十分な血流が維持されなくて当然である。脳に十分な血流が保てないと失神発作が起こり、腎臓に血が流れないと腎障害が起こる。やり過ぎは問題なのだ。「過ぎたるは、及ばざるがごとし」である。個別化医療が重要視される中で、「みんな右に倣え」で、その人に適した血圧を考えずに、十把一絡げで統一するのは、もはや、時代遅れではないのかと思う。よほど高い数値でない限り、無理に下げるのではなく、その人に適した血圧を見つけていく時代だと思う。

高齢で高血圧の人に薬剤で血圧を下げすぎると、物忘れがひどくなり、急に呆けが進んだような状態になることがあるが、十分な血流が保てていないのではないのか?かつての部下に、「普通の人は怒って頭に血がのぼると、話が支離滅裂になるのだが、中村先生は怒ったほうが、理路整然となりますね。」と言われたことがある。私の血圧は今でも100程度と低いので、冷静な時は、十分に血流が流れていないのかもしれない。特に最近は、頭の回転が悪くなってきたように思う。老化は進んでいるはずなので、血圧を少し上げた方がいいのかも?

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